第128話 薬草

 「はははは、中々骨がある男の様だな」

 

 「煩いんだよ屑! 俺に絡んだ奴は、事如く失脚しているぞ。お前達にとって、俺は疫病神なのを知らないのか」

 

 周囲に聞こえない様に小声で言ってやると、初めて顔色を変えて黙り込んだ。

 

 今度は俺が伯爵様を、頭の天辺から爪先までじっくりと観察し、マグレン子爵に声を掛ける。

 

 「マグレン子爵様、何かと面倒な付き合いも御座いましょう。その時は何時なりと声掛け下さい」

 

 チロリとネイセル伯爵を見てそう告げると、マグレン子爵が苦笑いしている。

 

 「ネイセル伯爵様、失礼しても宜しいでしょうか」

 

 「あっ・・・ああ」

 

 「失礼いたしますネイセル伯爵様。マグレン子爵様いずれ又お会いしましょう。失礼します」

 

 ネイセル伯爵には声だけ、マグレン子爵には会釈し、シャーラに合図を送る。

 

 ジト目で見送ってくれるネイセル伯爵を無視して、ゴルサムに別れの挨拶をする。

 臨戦態勢下、臨時の砦に設けられた関所なので大勢が詰めている。

 ネイセルの野郎のせいで周囲の目が痛い、とっととお家に帰って、風呂に入りてぇよ。

 

 * * * * * * * *

 

 「アイサ様帰りました」

 

 シャーラの何時に変わらぬ元気な挨拶に、苦笑いで迎えるメイド長のアイサ。

 サロンにすっ飛んで行くシャーラの後を追って、部屋に入る。

 

 「お帰りなさいカイト,シャーラ。無事で良かったわ」

 

 「まあね、フィの方も大変だったろ」

 

 「大騒動よ、一時はブルデンに攻め込むとか言い出す貴族が多くて。それに詳細を知りたがり、治療にかこつけて根掘り葉掘り聞いてくるのよ」

 

 四方山話に花が咲き、その夜はフィの所にお泊りとなった。

 

 * * * * * * * *

 

 シャーラの家に帰って念願の風呂に入ると、遠慮なくシャーラも入って来て横で寛ぐ。

 

 「フワァー、気持ちいい〜♪」

 「ですよねー、キャンプハウスにも欲しいですぅぅ」

 

 それだ! 何でそれに気づかなかったんだろう、俺って間抜けだな。

 早速キャンプハウスの改良だ。

 元々キャンプハウスの内部は入口入って右に、4人掛けのテーブルと据付の椅子、奥に2段ベッド2つにトイレシャワーとなっている。

 左は簡易キッチンと物入れだ、使ってないシャワールームを少し拡張して湯船を付ければ完璧だな。

 

 ふんふん♪ とご機嫌で改造を済ませると、シャーラに森に行こうと急かされる。

 ダルクの森に行く前に、湖に行ってからだと2年以上になるからな。

 シルバーフィッシュもレインボーシュリンプも在庫がほとんど無い。

 果物類はほぼ食べ尽くし、僅かに残っている物を時々大事そうに食べている。

 

 俺の貴重な森の恵や天上の酒も空っぽで3年物が恋しい。

 ハーミラとニーナに頼んで備蓄食料を補給しているが、用意が整ったらヒャルと侯爵様に挨拶してから森に行こう。

 

 侯爵邸に行くと、ヒャルが情けない顔で迎えてくれた。

 

 「カイト森の恵で良いから少し分けてよ」

 

 「残念、俺も無いから探しに行こうと思ってね。アガベ達から買って無いの?」

 

 「ほとんど王家に買い上げられてね、天上の酒に至っては各国の王家に送る分すら足りないほどだから」

 

 「まっ森から帰って来るのを楽しみにしてなよ。侯爵様にご挨拶して行こうと思ってね」

 

 「父は王城に出向いているよ。夕方には帰るだろうから、ゆっくりしていきなよ。

 

 王城から帰ってきた侯爵様の満面の笑みを見た瞬間、ブルッと震えが来たね。

 嫌な予感は当たるんだよな。

 

 「カイト良いところに帰ってきたな」

 

 「侯爵様嫌な予感しかしないんですが、俺は薬草採取が専門で討伐なんてのは無しですよ」

 

 「その薬草採取を頼みたい」

 

 「熱冷ましとか痛み止め二日酔い等の薬草ならお任せ下さい」

 

 「その辺はアイアンとかブロンズランクに任せないと、後々恨まれるからな。カイトが以前私に預けた花びらと若葉が欲しいのだよ」

 

 「と言う事は、王家でポーションを作るつもりですか」

 

 「上級ポーションや最上級ポーションにエリクサーを、エルフから買い上げていたが材料不足を理由に値上がりしていたからな」

 

 そりゃー多分貯め込んでいた材料が、無くなってきたんだろうな。

 クインの話だと、認めた者に自由に採取させていたから、空間収納持ちに保管させていたのだろう。

 

 「薬師達も材料さえ有れば、エリクサーでも作ってみせると息巻くが、その材料が手に入らない。カイトは以前陛下や宰相の前でエルフの長老を相手にしていた時ナガラン宰相に『高級ポーション製造に必要な、薬草の御用命が有ればお申しつけ下さい。期限を決めずにならお受けしますよ』と言ったそうじゃないか」

 

 「それって、エルフの長老達をからかう時に言った台詞ですよ。7つの里とか偉そうに言ってましたから」

 

 「然し、エルフ達ですら手に入れる事の出来ない、若葉と花びらを持っている。そしてそれが精霊樹の若葉と花びらだと、王家もエルフも知っている」

 

 まあ気づくよな、クインの森も尋常じゃないし。

 王立図書館の書籍に掲載されてなくても、王家所蔵の書籍なら詳しく書かれているだろう。

 

 「上級ポーションと最上級ポーションの材料の確保が急務何だが ・・・冒険者ギルドに依頼する訳にはいかないのだよ。上級と最上級ポーションの材料の中には、冒険者から調達出来る物もある。それは冒険者ギルドに依頼する。然し精霊樹の若葉とか花びらの採取を依頼すれば、どうなると思う」

 

 「今どうなってます」

 

 「結構な噂になっているが、危険な森としての噂だよ。精霊樹の若葉や花びらの採取依頼が出たら・・・」

 

 「遠からず精霊樹の森だと推測されるでしょうね」

 

 「そうだろうな。今は危険な森だが、珍しい薬草が採取出来る森として知られ始めている様だからな」

 

 「条件は」

 

 「それはナガラン宰相と話合ってもらえないか、話を伝えるだけとの約束でね。王家も無理強いはしないだろう」

 

 「魚もエビも酒も無いのでそちらが先ですね。然し話しだけは聞いておきます。明日にでも、ナガラン宰相から話を聞いてみます」

 

 さっさと森に行って、ニャンコを満足させ俺の喉の乾きも癒やしたいので、翌日には王城に行く。

 

 * * * * * * * *

 

 「久しぶりだなカイト。ハマワール侯爵から話を聞いたかね」

 

 「ポーションが足りないので、王家でも材料を集めてポーションを作るって事は」

 

 「以前聞いた話から、君なら採取出来ると思ったので依頼したい」

 

 いらん事を口走ったな、後悔先に立たずか。

 

 「ナガラン宰相、その話を覚えているのなら私が言った言葉『期限を決めずにならお受けしますよ』と言うのも覚えておいでですよね」

 

 「勿論だとも。君達にしか出来ない事を頼むのだ、期限を定める気はない。依頼を受けてもらえないか」

 

 「然し、若葉と花びら以外何も知らないのに採取するのは無理でしょう」

 

 「資料はこちらで用意する。最も絵図と説明文だけの資料だがね」

 

 「如何なる催促もしない事、10年20年先でも良ければお受けしましょう」

 

 「有り難い。これは依頼品一覧の資料だ渡しておくよ。もう一つ、これも渡しておくが返却は不要だ」

 

 「マジックポーチなら持ってますが」

 

 「最近完成したランク14の物だよ。必要になると思うのでね」

 

 ランク14のマジックポーチ二つと、B5版程度の紙の束を渡された。

 10枚程度か、パラパラとめくると嫌な絵柄が見えた。

 蜥蜴じゃーないですか、クインの所で散々見た奴だ。

 

 「ナガラン宰相、蜥蜴の絵柄の紙があるんですが」

 

 「おお、ドラゴンは2種類だよ」

 

 コモドドラゴンは散々見たがもう一つ、縦縞の体躯に長ーい尻尾と、ご丁寧な説明書き。

 よーく知ってますよ、こいつはカナヘビちゃんですが体長7,8メートル、尻尾の先までならその3倍程度って、気楽に書くな!

 コモドドラゴン、コモドオオトカゲも面倒だがカナヘビちゃんは素早いんだよ。

 それに体長の2倍の長さの尻尾、どうせこの世界の奴なら尻尾を鞭代わりに振り回すのは間違いない。

 

 薬草は精霊樹の若葉と花びら以外に7枚の図と説明書き、見たこともない物ばかりですね。

 

 「一応預かっておきますが、何年先に成ることやら。一度エグドラに帰りますので失礼します」

 

 さっさと逃げて忘れよう。

 

 「言い忘れたが、アースドラゴンもテイルドラゴンもお肉は中々美味いと評判でね」

 

 「手に入れたらお肉の半分は俺の物ですからね。嫌なら永遠にドラゴンなんて無理です」

 

 いかん、ナガラン宰相に嵌められた様だ、ニヤリと笑って頷いている。

 それよりシルバーフィッシュとレインボーシュリンプが先だ。

 シャーラのご機嫌が悪くなる前に湖に行かなきゃ、森の恵や天上の酒と3年物が飲めなくなる。

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