第21話 冒険者登録
何だかんだで、王都を離れたのは6月も終わりに近い時だった。
侯爵様の馬車で王都からエグドラに帰るため、冒険者の装いでホテルのロビーで待っている。
「カイト様、ハマワール侯爵様の馬車が到着致しました」
「有り難う。世話になったね」
ホテルを出ると侯爵家の馬車が横付けされ、護衛の騎士達が整然と並んでいる。
後ろにはメイドや従者の馬車が控え、周囲を王都の冒険者達が馬に乗り待機している。
支配人に見送られて馬車に向かうが、日頃俺の姿を見ている客達から好奇の目を向けられる。
冒険者の出で立ちで、侯爵様の馬車に同乗するのだから当然か。
護衛依頼を受けているから冒険者スタイル、護衛としてそれなりの格好は必要だろう。
「お待たせしました侯爵閣下、子爵閣下」
「止めてくれカイト、気持ち悪い」
動き出した馬車の中は人目が無いので、何時もの軽口になる。
「然し、フィエーンがカイトに助けられてから、ハマワール家にはそれなりに大変な事も有るが幸運が続いている。まさか家を継いだ訳でも無いのに、子爵を名乗る事が許される等思いもしなかったよ」
「子爵から伯爵,侯爵といきなりだからな。プライドだけの男のお陰でも在るのだが」
「私も一生分以上の宝石を貰い、魔法大会は無くなったし良いことずくめよ。魔法を使えなかったり見下されていた方達から、お礼と感謝を沢山受けたし」
「でもナガヤール王国って大丈夫なんですか。魔法大会の事で貴族達の対応を聞くと、他人事ながら心配になりますよ」
「陛下とも話したが、だらけた貴族達を締め上げるそうだ。腑抜けは降格や領地没収し、魔法以外でもそれなりの能力の在る下位貴族を登用するそうだ。まぁプライドだけの、ジャクセン・ナガヤール公爵の腰抜け振りに、陛下が切れてたからな」
「攻撃を受けた時に、陛下を盾に後ろで震えていたと陛下が言った時には、耳を疑いました」
「その場で斬り捨てられなかっただけましだよ。取り潰しで済んで命拾いをしたろう」
「貴族も大変だねぇ」
「ええ大変なのよ、これからも助けてね」
「帰ったら冒険者登録をするので、ご依頼があれば内容を吟味してお返事します」
「えっ、カイトは未だ冒険者をするの」
「確かにお金は貯まったけど、高等遊民を気取る気は無いよ。それに未だ冒険者にもなっていないからね、来月で16才になるから登録出来るんだ」
「カイト、侯爵権限で与えられる男爵位が三つ有るのだが、男爵に成らないか」
「侯爵様、さっき貴族って大変だねって言ったばかりですよ。嫌ですよ貴族なんて」
エグドラに帰り着いた時には7月も終わろうとしていた。
他領の領主の居る街では領主の館に挨拶に寄り、歓待を受け一晩か二晩宿泊する事になる。
特にフィエーンに感謝する貴族達の歓待は凄かった、相当鬱憤が溜まっていたのだろう。
俺っ、俺は冒険者達の中に紛れ込んで過ごすつもりが、侯爵家の直接護衛依頼って事で使用人達と同席になる。
侯爵邸に無事帰還し辞去の挨拶をすると、フィエーンから金貨500枚を渡されて、多過ぎると断ったが無駄だった。
「貴方の助言に従った結果、陛下からお褒めの言葉と共に金貨1,000枚を頂いたのよ、それと宝石の詰まった宝石箱もね。受け取った時に余りの重さに、前のめりに倒れるかと思ったわ。貰った宝石の価値だけで楽に金貨の10倍や20倍の値打ちが有るの」
「と言った所で、私も少ないがフィエーンと同じ額で悪いな。カイトのお陰で、金貨1,000枚貰った上に子爵様になっちゃてね」
「儂は夢にも思わなかった侯爵に陞爵した礼も含めて」
そう言って革袋が10個出て来た〈俺の冒険者生活は〉のぼやきに、三人揃って爆笑してる。
増え続ける金貨の袋にげんなりしたが、収納の肥やしにしておく。
侯爵邸に一晩泊まったが、耐えられずに逃げ出した。
侯爵陞爵の祝いに駆けつける有力者や大商人達、各地の代官とごった返す侯爵邸で、こいつは誰だの視線が痛い。
子爵様とついタメ口で話しているのを見られて睨まれるし、居心地が悪すぎる。
執事長のエフォルに逃げ出すから宜しくと伝えると、馬車でホテルまで送ってくれた。
エグドラホテルの支配人に迎えられて、何時もの部屋に落ち着く。
翌日4~5日帰らないと告げホテルを出ると、先ずは冒険者ギルドへ向かう。
* * * * * * * *
「おはよう御座います、イーリサさん。冒険者登録お願いします」
「あらカイト君、16才になったのね」
「はい、やっと16才になりました」
薬草採取で長らくギルドに通っていたが、やっと冒険者登録が出来る。
殆どの規約は知っているが、改めて聞き噂の水晶球に手を載せて登録する。
魔力測定盤にも手を置くが、相変わらず魔力高40である。
魔力量を測定出来る物が欲しいが、世間に知られていないって事ならそんな道具を思いつく人もいないだろう。
冒険者登録カードを手に取ると表に線描の似顔絵(そっくり)が表れ、下にアイアンに横線一本(一級)その下に名前と年齢が記されている。
裏には登録地名と下がって授かった魔法名、土魔法(自己申告なので空間収納と転移は秘密)下に人族6,ドワーフ族2,エルフ族2と魔力高40の文字記され、最後が登録番号になっている。
聞くと俺って人族が6割で、ドワーフ族とエルフ族が2割づつ混じっているってさ。
初めて知った衝撃の事実、衝撃ってよりへーぇーって感じだな。
その下は特記事項となっているが記載無し。
しげしげと眺めていると、上から手が伸びてきて持っていかれた。
「カイトお前はブロンズの二級からな、薬草採取の経験が豊富でブラックウルフのボスを討ち取る様な奴を、アイアンの一級じゃ勿体ない」
「えーギルマス、俺は討伐なんてやる気は無いですよ。薬草採取一本です」
「でも出くわしたら狩るんだろ」
「いえ逃げます(キリッ)怖いのは嫌ですよ。あの時だって逃げる気だったのに、オルランさんに捕まってしまったんです。逃げられなくなったので、仕方なく闘ったんですよ。お陰で魔力切れで2度も倒れ、危うく3度目も倒れる寸前だったんですから」
鼻で笑われて新たにブロンズのカードを渡された。
新たな冒険者カードはブロンズの二級をしめす横線二本、此れって書き換えるのが面倒で線を増やす事にしたな。
食料は未だたっぷり保存しているので、そのまま街の出入口に向かう。
久し振りに魔法がどの程度使える様になっているかの確認の為だ。
ヒャルダやフィエーンと魔法の練習をしたキャンプ地に向かうが、気配察知の能力も衰え無し。
キャンプ地に着いて気が付いた間抜けな俺、マジックポーチにキャンプ用のお家を持っていたわテヘペロ。
マジックポーチからキャンプハウス(俺命名)を取り出し、ポンと置けば完了♪イヤー便利な世の中ですねぇ。
出入口は封鎖しているので、転移を使って1メートルの短距離ジャンプ、マジックランプを点すと楽しい我が家。
魔道具店で驚いたのが風魔道具、ホットウィンドとコールドウィンドってヒーターとクーラーやんけ。
笑ったけど即座にお買い上げ、一つ金貨40枚は高いが俺なら買える! で両方買い金貨80枚を払った。
貴族の館で見なかったのは能力が小さいので見掛けなかった様だが、俺のハウスなら無問題。
食器からマットに布団まで置いて在るので、すぐにお茶を沸かして休憩モードに突入。
こんなふざけた薬草採取の冒険者は、この世界では俺が初めてだろうと思う。
一息ついたので頭上の見張り台に上がりマットに腰掛け周囲を観察、人目の無いことを確認してストーンランスから始める。
ストーンランスは37発で魔力切れ。
ストーンアローは78発で魔力切れ。
ショットガン小では73発で魔力切れ。
ショットガン大で54発で魔力切れ。
空間収納は3.6メートルちょい。
転移魔法は、
400メートル×7回で魔力切れ。
200メートル×14回で魔力切れ。
60mメートル×46回推定、20mメートル×140回推定
此処まで調べるのに6回魔力切れでマットに倒れ込んで寝たので2日掛かった。
転移魔法なんて往復が面倒なのでドームを400メートル間隔と200メートル間隔のを造りドーム内転移をする。
終いにはどちらのドームに居るのか分からなくなってしまった。
3日目からは動標的射撃の練習として、薬草採取しながら気配察知を使い獲物を探す。
ホーンラビットを見付けると、ストーンアローで仕留める事にした。
命中率が向上して20匹以上捕れたので、ランク2のお財布ポーチに入れて保管する。
半年で腐るのなら、3~4ヶ月は持つから大丈夫だろう。
ゴブリンは頭を狙って撃つが、魔石を取り出すのが嫌なので埋めてお終い。
6日目にエグドラに帰り、冒険者ギルドでホーンラビット23匹をヤーハンさんに引き渡す。
「おいおいカイトよ、冒険者登録して最初がこれかよ」
「五日掛かってだから、そんなでもないでしょ」
「お前、マジックポーチを持ってるのか?」
「クラス2だから小さいけど金貨30枚で買ったよ。便利だよね」
「あーそうだった、お前ブラックウルフ21頭討伐し、その後侯爵様の護衛で稼いでいたんだよな。相当荷物が入るから楽だろう」
「そうだねそれに俺は土魔法を授かっているので、野営用のテントなんて要らないしね。まぁ魔力高40ってのがねー。それでも少しは使えるから、こうしてホーンラビットも捕れるってもんだよ」
「ホーンラビット銅貨3枚だから全部で69枚、銀貨6枚と銅貨9枚な」
ヤーハンさんに礼を言ってホテルに帰る。
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