第142話 捕獲依頼
エグドラ冒険者ギルドへ行き、久し振りにギルマスのノーマンさんをたずねる。
「どうだ、体調は?」
「まあまあですね」
「侯爵殿が知らせてきた森の支配者だが、それらしき者は居ない。エルフの5人又は6人の冒険者パーティーなら、直ぐに判るからな。そのハムルって奴は手強いのか」
「俺の知っている奴ならどうかな、戦いの場で後ろにいて無傷な奴ですよ。俺は勇者ハマンって呼んでいます」
大体察したのだろう、苦笑いになっている。
美味しいお肉に飢えたノーマンさんの、懇願というなの恐喝で夕食会、天上の酒をグイッと煽って満足気なご様子。
森の支配者とハムルの動向を注意しておくと約束して、天上の酒を抱えてご機嫌で帰っていった。
ノーマンさんから、エルフの里を離れて冒険者になっている者たちからの情報では、森の支配者パーティーはハムルと行動を共にしているらしいと。
然しエルフの里には籠もらず、森の中を転々としているらしい。
らしいらしいの情報だが、今のところは他に行方を追う手段が無い。
森の奥か知らないエルフの里に籠もられたら、追う術も無い。
気長にやるしか無さそうだ。
ギルマスのノーマンさんから、アガベ達が来ていると連絡があった。
森の支配者達を探す良い考えがないか相談するために家に来てもらう。
饗しはアースドラゴンのお肉で良かろう、流石にアガベ達も食べたことがないはずだ。
「カイト世話になる」
「悪いな、来てもらって済まない。遠慮せずゆっくりしてくれ」
夕食は楽しいものだったし、シャーラが自慢気に風呂に案内していたがこれが好評を博し、アガベも村に作る気なのか色々と構造を聞かれた。
空き部屋で車座になり天上の酒を振る舞い、皆に知恵を借りる事にした。
王都での出来事と、ハムルと名乗る男と森の支配者が直後に姿を消した事を伝える。
そしてハムルの髪色や瞳の色等から、エムナの里の長老代表ヒューヘンの親族ハマンと思われると話す。
「確実に俺を殺したと思えば姿を隠す必要も無い、姿を隠したのは失敗したと思ったからだろうと思う」
「反撃を恐れたか」
「でもよカイト、気配を消すって一族の者やエルフ達は得意だぞ」
「そうだな、それが出来なければ森では生きて行けないからな」
「シャーラ様だって、簡単に気配を消すだろう」
一族の者達が口々にそう言い出したが、シャーラだけ〔様〕ってのは神様扱いなのかね。
言われてみれば確かにそうだな、気配を消して攻撃してくる相手は少なからずいたし、居ると想定して行動してきたからな。
シャーラが気配を消すのも当然と思っていたし、何処に潜んでいるのか確認もしなかった。
「なあカイト、森の中を探すなんて面倒な事をする必要は無いだろう。そのハマンとやら達は、王国と冒険者ギルドが行方を追っている。里を離れたとはいえ追放された訳では無い。ならばいずれ必要な物を求め、里に現れると考えられる」
「どの里にだ、七つの里を見張る訳にもいかない」
「賞金を懸けろ、生け捕り前提でな。子供の証言だけでいきなり殺すのは問題だが、生きて捕らえれば尋問出来る」
「そうだな、ハマンが生きているのかすら、確認出来ていないからな。子供の証言から髪色や目の色等でハマンと思っていたよ。ハマンとハムルが同一人物なら遠慮なく殺せる」
そうなるとヒャルが王都の冒険者ギルドに依頼した、個人的な依頼とは別に正式な依頼を出す必要がある。
アガベ達が村に帰って行ったのを見送り、ギルマスのノーマンさんに会いに行く。
「条件は6人の生け捕りか、だが殺人と殺人未遂の容疑なら、大人しく従わなければ殺しても問題無いがな」
「確かめたい事があるんだ。それと大金を払うのだから、似た様な奴の死体をもってこられても困るし、そんなものに金を払いたくないんですよ」
「然し依頼掲示板に張り出しても受ける奴はいないぞ」
「この街にもエルフの冒険者は居るでしょ。彼等を呼んで下さい」
3日後ギルドの会議室でノーマンさん立会のもと、8人のエルフの冒険者達と会い、依頼内容を伝える。
エグドラの冒険者ギルドに、殺人と殺人未遂の容疑で6人の捕縛を依頼したこと。
元七つの里の長老会代表、ヒューヘンの身内と思われる赤っぽい紫の髪に緑の目のハマン又はハムルと名乗る男(金貨100枚)
冒険者パーティー森の支配者の5人
リーダーのヘラル,緑の髪と赤い瞳(金貨30枚)
火魔法使いのケルタ,灰色の髪と金色の瞳(金貨20枚)
水魔法使いのヨーラ,水色の髪に緑の瞳(金貨20枚)
弓の名手クース,銀色の髪に紫の瞳(金貨40枚)
斥候のヒザト,グレーの髪にグレーの瞳(金貨20枚)
全員生きて捕獲するのが条件だ、特にハマンかハムルと名乗る奴と弓の使いのクースだ。
この内容を七つの里の里長に知らせる事が依頼内容だと説明した。
報酬は一人金貨7枚、その間各々のパーティーを抜けるので、パーティーに補償として金貨5枚を渡すと話す。
「おいおい太っ腹な依頼だな」
ノーマンさんが呆れた声で言ってくる。
「俺の懐具合いを知っているでしょ」
肩を竦めて首を振っている。
皆の前で金貨の袋を取り出す、二袋と30枚の金貨。
別に8人分の報酬金貨56枚と、6パーティー分の補償の金貨30枚を見せる。
全員受けてくれたので知らせて回る順番を教える。
ヨルム→フルマ、此処で二手に分かれる。
センザ→ホリーとエムナ→サハバ→ムース
二手に分かれる時に安全の為にフルマで人を雇って行けと金貨20枚を別に渡す。
彼等が会議室を出ていくと、ノーマンさんが受付を呼んで金貨を渡している。
「捕まえられると思うか」
「エルフも人の子ですよ。それに奴等が里に現れたら周囲を囲んで捕まえれば良い。闘う必要も無い、安全に大金が稼げるんです。それと今冒険者以外のエルフは、この国では肩身が狭い。殺人と殺人未遂の容疑者を匿っていても、良いことは何も在りません。王国のご機嫌を取るには良いチャンスですよ」
* * * * * * * *
彼等が使いを果たして帰って来たのは二月近く経ってからだった。
各里の里長達は皆了承したと2枚の署名入り用紙を差し出した。
七つの里長の名前が記入されている。
労いと共に依頼完了の署名をし、報酬とは別に各自に金貨2枚を渡す。
後は獲物が網に掛かるのを待つだけだ。
待つ間にナジルが参加したパーティー〔血塗れの牙〕と狩りに出たりして暇潰しをしていた。
血塗れの牙達と気が合ったナジルは、約束の一年過ぎても別れる事もなく、気楽に冒険者をしているらしい。
すっかり言葉使いも冒険者らしくなっていて、見るからにオッサンの雰囲気も漂いはじめていた。
「久し振りに会ったのに、全然変わりませんね」等と失礼な言葉をさらっと言いやがる。
俺はこれでも成長しているんだよ!
狩りにはついて行くだけ、手助けは一切しないで見学だ。
リーダーのオルドがパーティー共有のランク5のマジックポーチを持っていて、大抵の獲物は運べるので稼ぎは良い様だ。
それぞれにランク2のお財布ポーチも持っている堅実な5人組って雰囲気。
普通の冒険者が狩りをするのを見るのは初めてなので見飽きない。
* * * * * * * *
手配が終わったと連絡を受けて一月後に、エナムの里から手配の6人の全員を捕まえた。
捕縛の際に、元長老会代表ヒューヘンの身内達と小競り合いになり、多少は傷ついたが命に別状ないと連絡があった。
ヒューヘンの身内であるハマンは、エナムに親族が大勢居るので安心して里に現れたらしい。
然し、ヒューヘン達長老会のせいで多大な被害を受けた住民達の反発も強く、又身内からも嫌われていた為に逃げられなかったらしい。
ハマンは結構恨みを買っていた様で、リンチ紛いの扱いを受けての怪我だと聞いた。
ヘラル,ケルタ,ヨーラ,クース,ヒザトの5人は抵抗は無駄だと悟って大人しく捕まったと。
30人以上のエナムの里の者達に連行され、エグドラ冒険者ギルドに到着した6人は疲れ切っていた。
首枷に両手を固定されて森を歩かされたのだから無理も無いが、同情する気は無い。
エムナの里の者達はハマン達と引き換えに、捕縛の依頼料を受け取る。
革袋二つと30枚の金貨、数え終わって帰るエナムの里の者に悪態をつくハマン。
「どうした勇者ハマン、お値段が安かったのが気に入らないのかな」
「お前が金を出したのか」
「テイルドラゴン相手に、一番後ろで喚くだけのお前には勿体ない金額だぞ」
「あれは俺達の獲物だ!」
「はん、長老のアルマに、テイルドラゴンをお前が持ち帰った経緯を話したら喜んでいたぞ。仲間を喰ったドラゴンの肉を食わされたってな」
「糞っ野郎が」
「生きがいいな。テイルドラゴンに仲間が食われるのを見た時の、お前の顔を思い出すよ。他人が倒したドラゴンを、寄越せといった時の小狡い顔もな」
「ところでハマン、何時からハムル何て名前になったんだ」
「糞っ、運の良い奴だ確実に殺せたと思ったのに」
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