第72話 シャーラの実力

 エグドラの街に帰って来たのは、12月も半ばになってからだった。

 ナジル用の地下室を造る為に、シャーラと二人で内緒のトンネル工事をする。

 中央には横穴を造り非常用避難所にし、衣服や金も多少なりとも置いて置くようにさせる。


 火魔法のための炉と煙突を作って完成、即日ナジルは地下室住まいとなる。

 転移魔法の練習場の使い方を教え、転移魔法の危険性もじっくりと教える。

 氷魔法や火魔法より危険性が高い、下手に跳べばあの世行き確実なので良く言い聞かせておく。

 

 ナジルの用件が終わると、シャーラを連れて冒険者ギルドに向かう。

 

 「カイト様、今日は何の用事ですか」

 

 「ん?・・・シャーラ16才になったんだろう。冒険者登録をしなくてよいのなら帰るぞ」

 

 「アッ忘れてた、しますします! ちょっと忘れていただけですぅ~」

 

 最近ご無沙汰のギルドに入り、受付のイーリサさんのところに行く。

 

 「あらカイト君久しぶりね。可愛い子を連れているけど、どうしたの」

 

 「彼女はシャーラ、16才になったので冒険者登録に来たんだ」

 

 シャーラが真剣な顔で説明を聞き、申告用紙に記入して行くが魔法欄で手が止まるので、土魔法とだけ記入させる。

 水晶球に手を乗せ、魔力測定盤に手を乗せて終わり。

 渡された冒険者登録カードには、シャーラの顔が線描で描かれ下にアイアン1級シャーラ16才とある。

 裏には登録地のエグドラ、土魔法、猫人族と登録番号だ。

 

 薬草買い取りのフユサおばちゃんと久しぶりのご挨拶、ヤーハンさんも来たのでシャーラを紹介しておく。

 話が弾んでいるところに声が掛かる。

 

 「カイト来ていたのか、何か持ってないか」

 

 「嫌ですねギルマス。俺は薬草採取がお仕事ですよ。風鈴草やサラサの実くらいしか持ってませんよ」

 

 ギルマスが、思いっ切り鼻で笑っていやがる。

 狼人の鼻息って暴風並なんだから迷惑だよ。

 

 「お前、もしかして冒険者登録に来たのか」

 

 顔見知りだもんねー、ギルマス涎が垂れそうですよ。

 冒険者カードを手に嬉しそうに答えるシャーラ。

 

 「見せろ、冒険者登録カードだよ」

 

 アッと思ったが遅かった、カードを見たギルマスが牙を剥き出して笑いながら受付にカードを渡す。

 

 「お前をアイアンの1級なんかにしておけるか、カイトと同じシルバーの2級な」

 

 驚いているイーリサさんに、ギルマスのノーマンさんが手をひらひらさせながら笑う。

 

 「こいつは見た目と違って凄腕だからな、でなきゃカイトと組める訳も無い」

 

 「カイト君そんなに凄いの」

 

 「やだなーイーリサさん、俺って薬草採取以外はまぐれで討伐したものだけですよ。後はハマワール子爵様のおこぼれを貰っているだけです」

 

 「カイト、ようも抜けぬけと言うな」

 

 ギルマス、牙が怖いんですけど。

 

 「で、今年は奥には行かないのか」

 

 「嫌だなぁギルマス、変態みたいに言わないでくださいよ」

 

 イーリサさんが、訳が分からないって顔でシルバー2級の冒険者登録カードを持ってくる。

 受け取ったギルマスがカードを確認し、ニヤリと笑い投げて寄越す。

 受け取ったシャーラも戸惑い気味だ。

 

 「心配するな、それ以上ランクが上がる事は無い。カイトと一緒に居るのなら、シルバーランクで無いと何かと不便だろ」

 

 そう言ってウインクをするギルマス、俺の肩に腕を回すとボソリと呟く。

 

 「ところでよぅ、蛇のお肉が夢にまで出て来て参ってるんだよ。少し食わせてくれ」

 

 「ギルマス、涎が垂れてますよ」

 

 「ギルマス、何でそんな小娘がいきなりシルバーなんだ」

 

 不粋な声が割り込んできた。

 

 「何だ、エラード不満か」

 

 「当たり前だ! 俺達〔無敵の剣〕がハイオークやブラックベアまで討伐しているのにブロンズの2級だぞ。登録した日にギルマス権限でシルバーの2級なんて、ふざけ過ぎだろう」

 

 ノーマンさん、深ーい溜め息を吐いている。

 俺の悪い性格がちょんと頭を持ち上げる。

 

 「何だお前、自惚れが酷そうだが大丈夫か?」

 

 「何だぁチビが! ギルマスと知り合いの様だが、潰すぞ!」

 

 ギルマスが吹きだしかけてそっぽを向いている。

 

 「エラード、その辺にしておけ。人は見かけによらないって言葉が有るが、こいつ等のために有る言葉だ」

 

 「俺達の実力が、このチビ二人に劣るってのかよ」

 

 自分で火をつけた挙げ句完全に逆上してるとは、自然発火タイプかな燃え尽きるのが早そう。

 

 「ギルマスって、大変ですねぇ」


 「そう思うのなら、殺さない程度で頼むよ」

 

 「えー、何でこんな馬鹿を相手にしなきゃならないのー。ギルマスのお仕事でしょう」

 

 「あー 俺も年を取ったのか最近物忘れが酷くってよ、蛇とかの話をポロリと・・・」

 

 「糞ギルマス、下手な口を利くのなら蛇と同じ扱いをしてやるからな」

 

 「同じ扱いではなく、同じお肉が食べたいんだよなー」

 

 「解ったよ、今晩俺の家に来い。美味しいお肉を食わせてやるよ。解っているだろうが黙っていろよ!」

 

 「それなら、やつ等を殺さない程度に痛めつけてくれ。最近増長していて、天下無敵を気取って迷惑何だよ」

 

 「それって、ギルマスのお仕事何じゃないの」

 

 「阿呆の相手はしたく無いのさ。シャーラの実力を見せれば今後が楽だぞ」

 

 「そういう事ね、解ったシャーラにやらせるよ」

 

 「スマンな」

 

 「お前等腕自慢らしいが、冒険者らしく訓練場で白黒つけようぜ。怖けりゃ断ってもいいんだぞ」

 

 釣り針見え見えの挑発に乗る〔無敵の剣〕を、食堂で見ていた奴等が可哀相な子を見る目で見ている。

  

 何せ食堂に居る半数近くは、侯爵様の護衛に付いた事のある冒険者達だから。

 彼等の話を聞いていた他の冒険者達も、あーって顔をして見ている。

 覚めた反応にいきり立つ〔無敵の剣〕のメンバーとヘグド。

 

 「カイト様、皆殺しにして見せます!」

 

 「あーシャーラ、それは止めてね、お願いします。精々手足の骨を折るくらいにしてね」

 

 ギルマスが、ニヤニヤしながら見ている。

 

 「お前等、訓練場で白黒つけろ!」

 

 ギルマスの声に沸き返る冒険者達、食堂で呑んでいた奴等が早速オッズを・・・ほぼ全員シャーラに賭けて成立せず。

 エグドラの冒険者ギルドで、シャーラを知らなきゃ潜りか下位ランクだよ。

 侯爵様の護衛に付き、御者席で鼻歌歌っているシャーラを見ている冒険者達は、彼女を敵に回す気は無い。

 

 まぁ、森の一族の事を知らなければ〔無敵の剣〕に賭けるだろうけどねー、残念。

 

 鼻息荒く訓練場現れた、エラードと〔無敵の剣〕の面々5人が見たのものは、自分達に賭ける者が皆無っていう厳しい現実だ。

 

 シャーラは毎朝訓練用の木剣を振るのだが、長さ150センチくらいの太いやつを軽々と振り回す。

 風切り音が〈ビューン〉じゃなく〈ヒュン〉だ、俺は風圧で殺されそうだから近寄らない。

 シャーラと近接戦闘なんて、悪夢以外の何物でもない。

 勇敢だよねー〔無知の剣〕・・・〔無敵の剣〕の皆さん。

 

 それぞれ手槍,ロングソード,大剣等の模擬戦用の木製武器を手に取るが、シャーラはお財布ポーチから取り出した愛用の訓練用木剣だ。

 軽く振る木剣が〈ヒュン〉って音を立てている。

 ギルマスに呼ばれて向かい合う、〔無敵の剣〕の皆さんとシャーラ。

 

 「殺すなよ」

 

 ギルマスがシャーラに向かって一言告げて、確認を取る。

 渋々頷くシャーラを見て、始めの合図を出すとさっさと下がるギルマス。

 

 シャーラの素振りと、ギルマスの言葉で強張った顔の〔無敵の剣〕の連中が、焼け糞の気合いと共に切り込み突きを入れる。

 シャーラが片手殴りに木剣の鍔元を殴りつけると、持ち手を離れた木剣が飛んで行く。

 大剣持ちは、上段からの打ち込みを受けて剣を取り落とし、手槍で突き込んだ男は手槍を中央からへし折られた。

 5人相手に全て一振りで終わらせると、手首を押さえて唸る奴等を蹴り飛ばす。

 

 「はい、止めー」

 

 ギルマスの、のんびりした制止の声で攻撃を止めつまらなそうな顔で帰ってくる。

 

 「いやー、流石シャーラちゃん」

 「無敵の剣って、恥ずかしい名前だよなー」

 「賭けにならんどころか、何しに来たの奴等」

 「酒呑をんでた方が面白いわ」

 「あいつ等鍔元を叩かれたから、全員手首が折れているだろうな」

 「可愛いシャーラちゃんに叩きのめされるのって、ご褒美だろう」

 「見たか、あの剣捌き」

 「お前、あの剣の動き見えたのか」

 「俺はそんなに目は良くないから見えねえよ」

 「目が良くても、俺には見えねえぞ」

 「無理無理、森の一族相手にチンピラ如きが勝てる訳無い。あいつ等〔無敵の剣〕じゃなくて〔無謀の阿呆〕だわ」

 

 冒険者達の爆笑のなか、うなだれる〔無敵の剣〕の奴等皆好きを勝手を言ってるよ。

 

 「あーお前等、さっきの威勢はどうした。剣を弾き飛ばされて手首を骨折しただろう、ポーション代持ってるのか」

 

 ギルマスは商売を始めたよ、初級ポーションじゃ骨折は治らないよな。

 中級ポーションは、確か1本銀貨8枚だったな、可哀相にね。

 

 「ギルマス、待ってますよ」


 「おう早めに行くから、でかいのを頼むわ」

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