第71話 伝授

 ザルムに断り、ナジルを何時もの魔法訓練場所に連れて行く。

 ナジルはキャンプハウスではなく、岩に似せたドームから地下に下り地下室を見て驚いていた。

 

 ナジルに教える氷魔法は、バレットの弾造りから始める。

 火魔法や転移魔法を勝手に練習しない様に、念を押しておく。

 氷魔法が使える様になれば、自ずと使える様になるのだから慌てる事はない。

 

 ナジルから少し離れて立ち向かい合う。

 中間地点にソフトボール大の玉を作って見せ、下から土魔法の支柱で支える。

 

 「それと同じ玉を想像し、ライトの時の様に魔力を流してみろ」

 

 「カイト様詠唱はしないんですか」

 

 「ん、俺が今詠唱してあの玉を作ったか」

 

 「いえ、突然玉が目の前に浮かんでいました」

 

 「いいかナジル、詠唱している時に人は頭の中で同じ事を考えている。それに魔力を流すのだから、口にしなくても頭の中で考え魔力を流せばよいだけさ。先ず玉の大きさを考えろ」

 

 真剣な顔で玉を見つめ、ぶつぶつと呟きながら魔力を流す。

 ナジルが見つめる玉の前に氷の玉が出現する。

 呆気に取られたナジルが、魔力を止めたので氷の玉は下に落ちる。

 

 「出来るだろう。今氷の玉を作る事のみを考えて魔力を流したから、見つめる玉の前に出来たんだ。次はその玉の向こうに出してみろ。玉の大きさと出す場所を考え、魔力を流せ」

 

 簡単に出来た。

 やはり、生活魔法の時に魔力操作を覚えさせるのは有効だわ。

 

 「こんなに簡単に、魔法って使えるんですか」

 

 「はぁぁ、ナジル普通の魔法使いは必死になって考え訓練をして、ものになるかならないか分からないんだぞ。お前が簡単に使えるのは、世間の常識外の事を教えているからだ。今の考えで魔法を使うと、3日もせずにお前は死ぬぞ」

 

 ドームに戻り何時もの射撃練習場所に、ナジルを座らせる。

 そこで氷の玉を作らせ、作った玉は開けた穴から外に捨てろと言って遣らせてみる。

 ナジル11個で魔力切れ、先に作った2個を入れて13個だ。

 これをバレットとして射ち出すと、半分の6個も射てないだろう。


 ナジルには魔力放出は教えず、ひたすら魔法を使い魔力量アップに励んで貰う。

 フィやヒャルに教えた様な事を、ナジルに教えるつもりはない。

 

 魔力操作と詠唱無しの魔法だけでも、相当な魔法使いなのだからな。

 世間の魔法使いは、魔力を搾り出して魔法を使っている。

 ナジルには逃げるのに必要な魔法を教えるが、それ以上の能力をアップさせる気はない。

 もし能力が向上するのなら、それは本人の才能と努力の結果だ。

 

 ナジルが目覚める迄に約6時間、俺は鬼教官だから魔法を甘く考えた付けを払わせてやる。

 グリンとシャーラは見えない位置に置いたキャンプハウスの中から、80メートル90メートルの遠距離射撃の練習中だ。

 グリンはシャーラの見学ね。

 飽きたら100メートル間隔に造ったドーム間を、ひたすら跳ぶ転移の練習を命じている。

 

 ナジルが目覚めると氷の玉を何個作れたか確認、11個と答えるので表の2個を含めて13個と教えておく。

 

 「いいかナジル最低30個作れる様になるまで、ひたすら氷の玉を作れ。30個作れる様になったらバレットを教えてやる。」

 

 そう言ってから、ナジルにストーンバレットを数回見せてやる。

 30メートルの的に当たり〈バーン〉と良い音をたて砕け散るバレット。

 目を輝かせて見ているナジル、俺の性格の悪さを教えてやるから待っていろ。


 ナジルは、7日目に30個の氷の玉を作れる様になった。

 その間俺とシャーラは、グリンとのんびりしたり転移魔法の練習に付き合ったりしていた。

 

 グリンは妖精の姿になって暫く、魔力を必要としたが今では魔力に身を任せるのは娯楽らしい。

 魔力の循環をしている時、魔力が減らなくなっているのに気づいた。

 グリンに尋ねると、小さきものから大きなものになる為に大量の魔力を必要としたが、安定したので必要ないらしい。

 後は自然の魔力を浴びるだけで事足りるんだとか。

 でも俺の魔力を浴びたり、シャーラとの魔力の合成は浴びると気持ち良いと喜んでいる。

 

 ナジルが氷の玉を30個作れるようになったので、約束通りアイスバレットを教える。

 

 「ナジルよーく見ていろ」

 

 ナジルを横に立たせ、突き出した腕の先にバレットの玉を浮かべる。

 

 「ここからだ的に向かって飛べと命じながら魔力を流すんだ。その時バレットの速さも決めなきゃならない」

 

 そう言って想定200キロのスピードでバレットを射ち出す。

 30メートル先の的に当たり〈バーン〉と良い音を立てる。

 

 ナジルがブツブツと〈玉を作り、的に向かって射つ時には、速さも決めて魔力を流す〉言っている。

 

 的から離れた位置に立たせ、俺が射つバレットの速さを見せイメージとして刷り込む。

 間隔を開け10発射つてからナジルにやらせる。

 口の中でブツブツ呟きながら玉を作り的に向かって〈行け!〉と一言。

 

 「ナジル的から目を離さず、大きさと飛ぶ早さだ。それだけ考えて射て」

 

 10発射つたところで止めさせる、後はドームの中で魔力切れまでやって貰う。

 ナジルがドームの定位置に座ったところで聞いてみた。

 

 「ナジル、後玉を何個くらい作れると思う」

 

 「10個作ったから後20個です」

 

 「じゃー玉を20個作ってみろ、数えながら作れよ」

 

 ナジルは、7個で魔力切れになりKO負けした。

 

 目覚めたナジルに、お前は魔法を甘く見すぎている。俺が3日で死ぬと言ったのを覚えているかと聞いてみた。

 

 黙って頷くナジル。

 

 「氷の玉を作るだけと、それを射ち出すのは全然違う。今のお前がアイスバレットを使って戦えば、5,6発射てば魔力切れで死ぬことになる。俺の見るところお前はアイスバレット一発射つのに氷の玉3~4個分作る魔力を使っている。俺が横に付いて10発射つのと、一人で射てばどれだけ射てるか比べてみろ」

 

 そう言って一人で撃たせてみたが、8発目にはふらふらになり倒れ込んで寝てしまった。

 

 食事の時ナジルに言い聞かせる。

 

 「10発アイスバレットが射てるのなら、攻撃に使えるのは精々3~4発だ、残りは逃げるために取っておかなければ殺される。なぜなら最後の2~3発分まで使うと動けなくなる。俺やシャーラは草原や森に行くが、魔力切れで倒れたら野獣の餌になる。街の中でも、何にも出来ずに殺される事になりかねない。攻撃分と逃げる体力の分、追いかけて来るのを阻止するために使う分がいるのだ」

 

 そう教えアイスバレットの弾を、100個作れるまでやらせた。

 今度は真剣に作っていて、一日3度魔力切れを起こす迄弾作りをしていたから。

 

 100個の弾作りが出来る様になり、再びバレットを射たせてみる。

 弾の大きさは無意識に出来るので、速さに気を付けながら射たせる。

 撃たせるのではない、ナジルには逃げるための魔法が必要だから、魔力消費の多い撃つは教えない。

 

 魔力を薄く使う様になって気づいた事だ、少ない魔力なら魔力消費の少ない射つだけで良い。

 最も、魔法はイメージだからそれに気づけば別だ。

 魔力を薄く使う事を教えないのに撃つは危険すぎる、射つのでも獣や人相手では十分な攻撃力殺傷力になる。

 

 アイスバレットを30発射てる様になったので、アイスアローとランスの矢作りを教えておく。

 射ち方はバレットと同じだから街に帰っても弾作り矢作りを日課にする様に言っておく。

 後は本人がどれだけ努力するかだ、それと氷魔法の最後に氷壁と砦の作り方を教える事にした。

 ヒャルの氷壁と俺の砦は、攻撃よりも防御の方が魔力を使うので、ある程度魔力が増えなきゃ教えられないってのもある。

 教えるのは簡単、後は自主練あるのみ。

 

 次の日には火魔法をやらせる、基本的に氷魔法のバレットが炎になるだけだけの事。

 氷魔法で基礎は出来ているので2日で終わり。

 氷魔法が上達すれば火魔法も上達するので、氷魔法の訓練は怠るなと教える。

 

 ここまでやれば転移魔法は楽勝で、シャーラと同じく直ぐに出来た。

 然し魔力量が少ないので直ぐに魔力切れになる。

 現在の最大飛距離を調べるため、10メートル間隔に立てたポールの間を往復させた。

 8回で魔力切れ寸前80メートルでは、逃げるのに使えるのは精々40メートル程度だろう。

 

 「ナジル、氷壁や砦が魔力を使うのが解っただろう。攻撃を先に教えたが、少ない魔力でも使える方を先に教えただけだよ。先ず防御、それから転移で逃げる。無理なら反撃が、お前の魔法の使い方だ忘れるな。今の状態で防御し転移すれば、逃げる力は殆ど残らない。帰っても訓練は欠かすなよ。帰れば調理場の竈を使い、火魔法で魔力を使え。最後だけベッドに入ってから、氷を桶にでも入れろ」

 

 家の周りを氷だらけにされたら、騒ぎになってしまう。

 帰ったらナジルの部屋を地下に造り、竈と煙突を作る方が手っ取り早いかな。

 魔力切れ寸前で屋根裏部屋まで上がらせるのは可哀相だ。

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