第106話 龍脈

 《おはよう、クインの子》

 

 《んー、眠い》

 

 《お前、周囲の木と比べて成長が遅いな》

 

 《だーって、魔力を壁の外の子達に分けているんだもん》

 

 《駄目だな精霊樹にしては、精神年齢が子供だな》

 

 《当然しょ、目覚めて間がないんだから》

 

 《それにしては、一端の口を利くな》

 

 《基本的な事は、クインが種に込めてくれたからね》

 

 つまりクインの基本情報をコピーされた精霊樹って事か、まあ種としては常識だがファンタジーだねぇー。

 

 《クインのコピーなら、呼び名は・・・》

 

 《こぴってなに?》

 

 《あー複製・・・うり二つって事だな》

 

 《瓜が二つって事は、よく似たものって事だね》

 

 ちょっと、こいつと話していると力が抜けるな。

 

 《なんて呼べばいい》

 

 《クインでいいよ》

 

 《クインが二人だと面倒なんだよ。森のクインとダルク草原のクインって、言い分けなければならないから》

 

 《じゃーダルクで》

 

 《えらく簡単に決めるな。それで良いのならダルクって呼ぶが、一つ聞きたいのだが魔力が溢れるって何だ》

 

 《んー、他の大地より多くの魔力が湧き出る所だよ》

 

 魔力が湧き出るって・・・日本語に翻訳すると、地脈や龍脈みたいな大地の力の集結地? それともマグマ溜まりか力の吹き出す所って事かな。

 それとも流行りのバワースポットかな。

 

 《壁は俺の背丈の4倍くらい有るからいいだろう。クインの所より立派になったと思うぞ》

 

 《有り難う。時々来て壁に魔力を込めてね。お礼にこの地に生える草や木の葉と実を自由にして良いよ》

 

 《もう結界は張っているのか》

 

 《軽くね。カイト達の壁造りが終われば強くするよ》

 

 メンテに来ることになるのなら、壁を通るための転移拠点を造っておくか。

 壁の北を12時と定め、右回りに2・4・6・8・10時の6ヶ所に転移拠点の大岩を造る。

 勿論内部は空洞で空気穴だけが開いている。

 ちゃんと番号も時計の時間位置と同じ呼び名にしている。

 茨の森の外れには自然石に見える石柱も立てる。

 

 試しにダルクに結界を強めてもらい、茨の森の外れから拠点にジャンプする。

 出入口を造って外に出ると、壁まで通路が出来ている。

 壁の上部には何となく見えない壁が有るのが感じられる。

 壁に穴を空けて中に入るとダルクの下に行き別れを告げた。

 

 《ダルク役目は終った様だから、俺達は帰るよ》

 

 《有り難うカイトにシャーラ、時々来てね》

 

 またの再開を約してダルクの地を離れる。

 思いついて壁際の転移拠点から外に向かって跳び、着地点に岩を造り地下に転移拠点を造る。

 5度繰り返し計6個の転移拠点を造っておく、これなら茨の森の外周より約2キロ離れていてダルクの所に行くにも疑われる要素が低くなる。

 

 時々は運動させていた馬達も、馬車に繋がれて不自由な生活が終ったのが解ったのか元気だ。

 

 * * * * * * * *

 

 クインの地を離れてから2度の冬を過ごし、春も終った季節の中をハーベイの街に向かう。

 ホイシー侯爵様に、ダルク草原を離れる挨拶をしておかなければならない。

 ハーベイの入口では、俺達を見た衛兵が緊張している。

 シャーラが通行証を出すと即座に通行を許可された、少しは調べろよ。

 まぁ余計な事は言わず、軽く頭を下げてホイシー侯爵邸に向かう。

 

 「カイト様、何か問題でも」

 

 「ホイシー侯爵様、以前も申しましたが私は一介の冒険者です、様は止めて下さい。今日お伺いしたのは、ダルク草原での用が終わりましたので、当地を去るご挨拶に参りました。いずれ噂になるかも知れませんが、無視して下さい。万が一死者が出ても、それは不用意に近づいた者の自己責任です。近づかず見ているだけなら何の問題もありません」

 

 「他の集落や街に影響は」

 

 「有りません。街道から3日の距離ですし移動もしません。問題があるとすれば、好奇心で踏み込む者達が、被害を受ける程度です。それでも問題だと思えば、国王陛下かナガラン宰相に伝えて下さい」

 

 「差し支え無ければ、何が有るのかだけでもお教え願えませんか」

 

 「森です、小さな森が出来ています。噂になるまで口外禁止ですよ。それ以上は何も言えません」

 

 ホイシー侯爵は俄然興味が湧いたが、皆に知れ渡るまで調べず近づかない事にした。

 

 * * * * * * * *

 

 久方振りのグリンを含めての3人旅になった、グリンはずっと俺やシャーラと一緒に居るってさ。

 王都のハマワール侯爵邸に向かうが留守、エグドラに居るのだそうだ。

 シャーラは久しぶりにフィお姉ちゃんの所に行ってしまい、俺はシャーラの家でのんびり風呂三昧の生活を楽しんだ。


 満足して帰ってきたシャーラだが不満が一つ、2年半近い放浪と森作りで、俺の収納には魚も海老もゴールドも無い。

 無いない尽くしでご不満の様子なので、今年は早めに森の奥に行き、シルバーフイッシュとレインボーシュリンプ漁に励む事にした。

 

 * * * * * * * *

 

 エグドラに帰って来たら侯爵様はいない、どうも途中で入れ違いになったようだ。

 侯爵様はホテルや領主の館泊り、俺達はキャンプハウスとはいえ基本野宿の早朝出発で、日暮れまで移動だから仕方がない。

 

 いないものは仕方がない、森に行こう。

 その前に冒険者ギルドに寄ってノーマンさんから情報収集だ。

 

 「ヤーハンさん、久しぶりー」

 

 「おーカイト生きてたか。今日は何だ」

 

 「ノーマンさん居るかな」

 

 ヤーハンさんが聞きに行ってくれた。

 懐かしいね、2年余り来てなかったからなぁ。

 感慨に耽っていると〈バシーン〉っていい音がした。

 シャーラが怒っている。

 

 「どうしたシャーラ」

 

 「この男、あたしのお尻を触ってきた」

 

 シャーラの前には座り込んで目の焦点のあってない男がいる。

 阿呆だねー、シャーラに手を出すなんて自業自得だ。

 

 「おう姉ちゃん、良い度胸だな」

 

 「あーんなによ」

 

 シャーラの不機嫌MAXの冷たい声。

 

 「何いきなり殴ってるんだ。高が尻を撫でたくらいで」

 

 〈おーやれやれー♪〉

 〈喧嘩か、賭ける奴集まれ〉

 〈おっ、久しく顔を見なかったな〉

 〈相手は誰だ!〉

 〈カイトかよ、カイト勝てるのかーシャーラちゃんに代わってもらえ!〉

 〈野獣の牙とカイト達か〉

 〈駄目だ勝負にならん〉

 

 「おう、何やってんだ」

 

 「ヤーハンさん随分顔ぶれが変わったね。シャーラのお尻に手を出した命知らずが居たよ」

 

 「〔野獣の牙〕か、丁度いい叩きのめしてくれ。天下無敵を気取っている馬鹿だから」

 

 随分嫌われてるね。

 

 「おう姉ちゃん、訓練場で方を付けようぜ」

 

 「いいよ」

 

 「殺さない様にね」

 

 野獣の牙6人が、シャーラを取り囲んで訓練場に移動する。

 

 「なんだぁお前は女にやらせて見物か、腰抜けが」

 「いいさいいさ、俺達は女をいたぶるのは得意だからよ」

 「小僧に女は勿体ない。俺達がたっぷり可愛がってやるぜ」

 

 野次馬の半数以上が、クスクス笑ったり馬鹿にした目付きで見ているとも知らず、強気だね。

 

 「どうしたカイト、何の騒ぎだ」

 

 「あーノーマンさんお久しぶりです。シャーラのお尻を撫でた猛者がいてね、訓練場で方を付けるって」

 

 「そんな羨ましい事をした奴が居るのか。可哀相に・・・殺さない様に言ってあるだろうな」

 

 俺とノーマンさんの会話を聞き、野獣の牙の連中が顔色を変えている。

 

 「ギルマス、こんな小僧達の肩を持つんですか」

 

 「ばーか、意気がっているお前達が、どれ程弱いか教えてもらえ!」

 

 段々足取りが遅くなる野獣の牙の連中。

 

 〈オラッさっさとやられてこい! 歯抜けの野獣〉

 〈シャーラちゃんのお尻は俺の物だ、よくも触ったな〉

 〈お前二度と怪我を治して貰えないぞ〉

 〈シャーラちゃん頑張ってー♪〉

 〈シャーラちゃん、ボコボコにして借金奴隷に落としてやってー〉

 〈おーそれなら俺が買上げて、いたぶってやるぜ〉

 〈万年安ホテルの壊れたベッドで寝ている奴が、よく言うよ〉

 

 いやー野獣の牙の皆さん人気者ですねぇ。

 

 「こらー野獣の糞共さっさとやれ! 俺もカイト達と話が有るんだ」

 

 ギルマスが切れてるよ。

 

 周りから野次り倒され、腰の引けた野獣の牙とシャーラが、訓練場の中央で向かい合う。

 

 「6対1か、勝てるのかお前ら。シャーラ殺すなよ」

 

 「はーい」

 

 呑気な返事を合図に、ギルマスが戦闘開始の合図を出した。

 

 〈糞っ〉

 〈やっちまえ!〉

 〈高が女だ〉

 

 焼け糞気味な声と共にシャーラに襲い掛かったが、一人平均手足の骨2本以上折られて瞬殺された。

 

 〈何だよエール一口飲む暇もないじゃんか、弱すぎ〉

 〈俺はお前の大口に期待して野獣の牙に賭けたんだぞ。しね!〉

 〈シャーラちゃんを裏切るからだ。さっさと負けた金を払え〉

 〈よーし野獣の牙が抜けた。借金奴隷の出来上がり〉

 

 酷い連中だねぇー。

 シャーラが骨を折られて呻いている奴等の所に行き治してやっている。

 

 「ちょっとだけ、なーぉれっ」

 

 〈ブフォー〉ノーマンさんが吹き出しているよ。


 「ヤーハン、こいつ等にポーションを売るのなら、1ダーラも値引きするなよ。嫌なら街から出て行くだろうさ」

 

 「ノーマンさんって、鬼畜だよねぇ」

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