第113話 この程度で十分だ
簡単に言い置いてさっさと帰ってしまったカイトを恨めしく思ったが、魔法師団長達に習った事より具体的で、言われた通りに出来るのでやるしかないと魔力操作に励む。
カイトが次に王城を訪ねた時には、ヘラルス殿下専用の魔法練習場が出来ていたので、実践練習を始める事にした。
護衛騎士の中に俺やシャーラ、時にヘラルスに悪意か敵意を向けて来る者が居るが、その都度宰相からの差し回しの者に伝えている。
毎回顔ぶれが変わるが、直接攻撃されている訳ではないがヘラルスに対する悪意にはちょっと緊張する。
殿下専用の魔法練習場でヘラルスの魔法を見せてもらう事にした。
「殿下は魔力を16等分出来るのだから、その一つを魔法の発現に使ってもらいます」
「カイト、言っている事が良く判らないんだけれど」
「ん、魔力を16等分出来る様になったと聞きましたが・・・出まかせですか?」
「出来るよ!」
「なら簡単だ。発現させる魔法を決め、射ち込む相手を示し掌から目標に向けて魔法を発現させれば良いだけですよ。詠唱して発現の瞬間、16分の1の魔力を的に向け腕から放り出す感じで流すんです」
「空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物に、その雷を落とせ! かな、ほれ言ってみろ」
へどもどしているヘラルス殿下に、発破を掛ける。
「あーじれったいなぁ魔法を射ち込むには明確な詠唱・・・指示が必要なんです。ハッキリ言いなさい! じゃあ先ず詠唱の練習からだ」
「空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物に、その雷を落とせ!」
ピーカンの空の下で言うのは、ちょっと中2病発症したようで恥ずかしい。
同じ言葉を何度も繰り返し言わせる。
隣でフィが呆れている、フィやヒャルに教えた事と全然違うが、魔法を発現させる方法には違いないからな。
だがこれ以上の方法を教える気は無い。
今教えている事だけでも王家がその気になれば、魔法部隊の能力を飛躍的に上げる事が出来るだろう。
これくらいの方法は、遅かれ早かれ誰かが広めるだろうからな。
魔法の発現方法を秘密だと隠し続ける間は、ヘラルス一人の能力として通用するさ、フィにもそう説明する。
ヘラルスや王家には魔力増大法は教えない。
分割した魔力を使って魔法を発現させるが、16分割以上分割出来ないと暗示を掛けておく。
そのため魔力の塊から、必要なら少量を切り取り使用するのでは無く、常に16分割からの魔力使用法だけを教える。
魔力切れ寸前までは身体で覚えさせ、1度や2度は魔力切れを体験させ、魔力切れが如何に危険か教えておく。
魔法の練習で魔力切れを何度も経験し、人により魔法を射つ回数が増える事もあるのは周知のこと。
それを実践するもしないもヘラルス次第だ。
魔力高60で一定水準の魔法を10発以上射てれば十分だろう。
王家も俺の事を随分調べた様だから、魔力高40で俺が何度も魔力切れを起こして倒れた事を知っているので、不審には思うまい。
「カイト詠唱は覚えたから、射ってみていいかな」
「詠唱と同時に的をよく狙って射つ様に」
少し離れて見ていよう。
素人が銃器を扱う時に側にいると、どんな危険な事が起きるか想像出来ないので。
フィとシャーラも後ろに下がらせる。
ヘラルスが的に向かい詠唱しているが、魔法が発現しない。
よく見ると必死で力んでいる。
「殿下、やり直し。詠唱のしている間に16分の1の魔力を用意し、腕を通して的にぶつける感じですよ」
真剣な顔で頷き、再度的に向かって詠唱を始める。
〈パリパリパリドーン〉ってすんげぇ音と共に落雷が地面に突き刺さる。
ヘラルス殿下が尻餅をついて呆けている。
ちびって無いだろうね、クリーンかけてやろうかな。
「殿下、魔力を地面に向けましたね、的に当たっていませんよ」
〈どうした!〉
〈何事だ!〉
〈殿下、御無事ですか!〉
おーお、感嘆符のオンパレードだよ。
ぞろぞろ人が集まって来る。
護衛の騎士を呼び寄せ、魔法の練習中だから誰も近寄らせるなと命じる。
野次馬が居なくなったと思ったら、陛下と宰相の二人がやってきた。
邪魔だよオッサン達、声には出さないけどね。
「なかなか派手な音をさせたが、上手く魔法が射てたのか」
「陛下、練習中で危ないですから近寄らないで下さい」
「ふむ、何処まで下がれば良いかな」
駄目だ見物する気満々だ、幼稚園のお遊戯会場でビデオ構えた馬鹿親と同じ状態だよ。
30歩後ろに下がってもらい、お供にも聞こえない様にする。
「殿下、今度はパパも見ていますから、しっかり的に向かって魔力をぶつけてね」
「判った。相変わらず辛辣だよね」
再び的に向かい詠唱を始め、突き出した腕を的に向ける。
〈パリパリパリドーン〉
おー今度は的に落ちたな。
ちょっと威力が大き過ぎる様だが、王族の魔法だから派手な方が良かろう。
〈パリパリパリドーン〉
〈パリパリドーン〉
〈パリパリドーン〉
「止めー、殿下嬉しいのは分かるけど調子に乗りすぎ」
魔法を射つのを止めたので、陛下と宰相が近寄って来る。
「ヘラルス中々見事だ」
「カイトの教え方が上手いのですよ。こんなに簡単に出来るなんて思ってもいませんでした」
「ちょっと気が早いな。まだ大切な事を教えて無いからね」
「だがこれ程威力のある雷撃魔法を射てる者は、魔法師団にもいないと思うぞ」
「それですが陛下、殿下の魔力高は60です。先ほど止めましたが、精々10数発射てば魔力切れで倒れますよ」
「先ほどの魔法が10発も射てれば上出来だ」
「ではその10数発を自在に射てる様、練習しますのでお引き取りを」
「おお邪魔をしたな。頼むぞカイト」
やれやれ教育パパは何処にでもいる、陛下が引き上げたので練習の続行だ。
「殿下何発射ったか覚えてますか」
「多分5発かな」
「これから魔法を使う時には、何発射ったか必ず数えておくように。それともう一つの詠唱を教えますね」
「未だあるの」
「当然ですよ。今のは上から落とした雷撃ですが屋根が有れば射てませんよ。水平に射つ詠唱も覚えてもらいます」
「空に轟く雷鳴よ、我の指し示す物を、その雷で射ち抜け!」
「余り変わりばえしないね」
「当たり前です。上からと前からかの違いですから」
「・・・その雷を落とせ!」
「・・・その雷で射ち抜け! たったこれだけで上からか前からかの違いですが、大違いってね」
詠唱を覚えさせ5発射たせ、その後上から前からと交互に4発射たせる。
まぁ良かろう、的から目を離さず射つように注意して今日は終わり。
サロンでお茶を飲みながら疲労確認。
「疲れましたか」
「ああ、結構きついね」
「魔力切れ寸前だからですよ。魔法を使ったら数える様に言いましたが、何発射ちました」
「1・・4発かな」
「魔力操作で何分割したか判ってますか。16分割して14回使ったので、後2回射てば気を失って倒れます。自由に動けるのは10発位迄と覚えておいて下さい。それからご学友と謂えども、魔法の限界等は教えない様に。明日は魔力切れを体験させてあげますよ」
「なんか嫌な予感がするね」
「魔力切れを経験したら、王都の外で限界を試させてあげますよ。自分の限界がどの程度なのか、知っておくのも大切です」
翌日の魔法の練習では、簡易ベッドに倒れる迄魔法を射たせた。
3日後陛下の許可をもらい、ヘラルス殿下を連れて王都の城門を出る。
殿下の乗る馬車には近衛騎士20名が付き従い、王都守備軍60名が前後の護衛に付く。
先導するのはシャーラが操る二輪馬車で、フィとヒャル迄いる。
「なんでヒャル迄居るのかな」
「陛下に父からの献上品を持参した王城で、王太子となった殿下の外出時の護衛を頼まれてね」
「なんて面倒な親子なんだよ。言い忘れたけど、シャーラが渡したのはお土産だからね、忘れないように。それにしても扱き難いだろう」
「やっぱり扱く気なんだ」
「まっそこそこ魔法が使える様になったので、一度や二度は魔力切れで倒れてもらうつもりだよ。大した事は教えて無いし」
「フィから聞いたよ。あんな教え方も在るんだね」
「少しやり方を変えただけだよ。魔力増大は無し、魔力高60の意味も教えない。魔力の使い方もね。あれで魔法師団の中でも一流の使い手になれると、陛下が認めたからそれでいいだろう」
「カイトの発想には何時も驚かされるよ」
王都から2時間程移動して、魔法の練習場に着いた。
護衛の王都守備軍の60名を、シャーラの使った90メートル標的の左右に配置する。
前日に的の整備等をし、兵士達の立ち位置迄決めておいたから直ぐに使える。
近衛騎士達は俺達の周囲だが半円に配置、巨大なU字状になるようにする。
ヘラルス殿下の命令により振り向く事は許されない。
的に沿って50メートル以上離れているから問題無いでしょう。
「殿下射てると思う一番遠い的を狙って射って下さい。正面と上からの交互にね」
ヘラルス殿下の前には30~90メートル迄7枚の的が少しづつズレて立っている。
「ちょっと遠くない」
「全力で射てるのは今日しか在りませんよ。自分の限界を知ってなきゃ、いざという時にへまをしますよ」
それから上から正面から交互に射たせた。
〈パリパリパリドーン〉
〈パリパリパリドーン〉
〈パリパリパリドーン〉
詠唱の間隔を開けて雷撃音が草原に響き渡る。
ヒャルとフィがウズウズしているが今日は駄目だと釘を刺す。
「カイト、もう駄目後1回射てば倒れるよ」
「ご心配無くどうぞ魔力切れまでやってもらいますから。倒れても大丈夫ですよ」
ニッコリ笑って、フィがマジックポーチから簡易ベッドを取り出して側に置く。
魔力切れで倒れるヘラルス殿下を、簡易ベッドに寝かせ、近衛騎士達に馬車まで運ばせて魔法訓練は終了した。
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