第140話 ピンクの子
シャーラがウズウズしているが、ヒャルや王都の冒険者達が居るのでダルクの所に行けない。
森の外れにキャンプハウスを出し、ヒャルも騎士達の為に野営用のハウスを並べる。
キャンプハウスの中に、ダルクの子らも入って来てダルクの所に行かないのかと煩い。
《カイト,ダルク様が待ってるよ、シャーラも行こうよ》
「シャーラ行っといで、俺は後から行くから」
「駄目です、カイト様と一緒に行きます」
グリンもダルクの子達も居るから、心配ないのにね。
明日はヒャルに迷いの森の中を見せ、安心して帰ってもらう予定だからもう少しの辛抱だよ。
* * * * * * * *
朝食を済ませると騎士や冒険者達には待っていてもらい、ヒャルを連れて迷いの森に入って行く。
グリンやダルクの子等に小さきもの達が乱舞しているが、感じる事の出来ないヒャルには解らない。
鬱蒼と茂る木々や叢と咲き乱れる花々に感心している。
最初はダルクの子等に何もしない様にお願いして、冒険者として迷いの森の奥を目指す。
疎らな木々や叢を抜け奥へ向かうと、通れる所が右に左に曲がり左右に別れる。
見えているのに行けない場所や、ぽっかり開いた場所に出ると複数の通路が口を開けている。
完全な迷路だ、迷路攻略の必殺技左手の法則が使えない。
何せ壁が無く、危険な棘を持つ木が所々に生えているのだ。
それも痺れくらいなら可愛いが、人が死ぬほどの毒の棘も有るのだから迂闊に触れられない。
「駄目だ完全に迷った、ヒャルは判るかな」
「無茶を言うなよ、シャーラは判るかな」
「もと来た方向なら」
シャーラが地面を見ながら返事をする。
足跡を見ているらしいが、俺が見てもさっぱり解らない。
「もう少し適当に歩いて見るか」
「はい、私も初めてですから楽しいです」
「おいおい、大丈夫なのか」
「心配しなくても大丈夫だよ。この森で俺達が死ぬことは無い。あっヒャルは別ね」
「おいおい頼むよカイト、私だけが死ぬのか」
「心配ないですヒャル様、私達と居れば問題ないです」
「そっ、俺達と居ればね」
「意味深だな」
雑談をしながら迷いの森の奥に向かう、道案内はダルクの子等がしてくれている。
《ダルク、聞こえるかな》
《聞こえるよカイト、怪我は治ったの》
《まぁね、本調子じゃないから暫く迷いの森で遊ばせてもらうよ》
《中に来れば》
《人族の友達と来ているから後でね。人族を壁の所まで案内しても良いかな。壁の中には入れないよ》
《カイトが許すのなら良いよ》
シャーラも頷いている。
茨の木が疎らに見えてきた、本格的な茨の森の境界に近づいた印だ。
「ヒャル、此処から先で見聞きすることは終生秘密ね。喋っても誰にも信用されず頭が可笑しな人と思われるだけだから」
真剣な顔で頷くヒャル。
「この辺りは迷いの森の最深部、一番奥だね。此処から先はエルフ達の伝説と言うかお伽噺で、茨の森と呼ばれる場所だ別名死の森だね。許しなく踏み入ると生きて帰れる確率が低くなる」
ヒャルの顔色が悪くなるが、生きて帰れるから心配するなとは言わない。
うっかり3年物の存在を漏らした罰だ、王家には内緒だと言ったが口止めはしてないから許すけどね。
此処からは直進だ、ダルクの子等に壁迄の道を開けてもらう。
ヒャルの見ている前で、茨の木から無数に垂れ下がり絡まった枝がゆっくりと開き道が出来る。
「行こう」
「カイトこれって」
「ヒャル様大丈夫ですよ、行きましょう」
シャーラがヒャルの手を引いて歩き出す。
30分ほど歩くと壁が見えてきた、上を見ると高低様々な所に花や実が垂れ下がっている。
シャーラも上を見て〈ふわ~ァァァ〉って涎が垂れそうな顔である。
蜜の滴る花をみっけ、今年こそは蜜を集めたいものだ。
「カイト此処って・・・それに此の壁は?」
「エルフや人族,ドワーフ,森の一族等の各人族種の辿り着ける限界だね。運が良ければ此処までは来られる。後ろを見てよ、運良く此処まで来られても帰れる保証は無い」
通って来た道は完全に塞がれている、壁に沿って5メートル程の空間が開いているだけだ。
さてと、ビックリしているヒャルの事は忘れて、呑んだ3年物の補充を考えよう。
「シャーラ2年物と3年物を探してよ」
「あの酒は、こんな所から収穫していたのか」
「違うよヒャル、本来森で収穫していたのだが此処にもあったので、収穫しやすいこちらで収穫しているだけだよ。森の物は、アガベ達の様に森で生きる者達に譲ってね」
シャーラが頭上を指差すと姿が消える、上を見るとシャーラが蔓にぶら下がり、森の恵みの実を物色している。
俺の隣でヒャルが口を開けて見ている。
ぶら下がっていた蔓から手を離して一つの実に抱きつくと、シャーラの重さで実が蔓から離れる。
〈アッ〉ヒャルが思わず声を漏らす。
その瞬間落下中のシャーラの姿が消え、ヒャルの隣に森の恵を抱えたシャーラが現れる。
「ヒャル様、これ!」
自慢気に差し出された実を受け取り、首を捻るヒャル。
大きなラクビーボール型の焦げ茶色の固い物を、どうしょうかと思案顔だ。
「それって、3年物の実だぞ」
途端に顔が綻ぶヒャルだが、取り出し方が解らないので又首を捻る、ヒャル見ていて非常に面白い
その間に3年物5個と2年物6個を受け取り、ストップをかける。
シャーラがヒャル様が帰る時にフィ様のお土産にと、各種果実を5,6個づゝ収穫してはヒャルのマジックポーチにせっせと納めている。
「そろそろ帰ろうか」
不満顔のシャーラとホッとした顔のヒャル、
茨の木の枝が絡み合う所の、俺達の歩くと場所だけが開いていく。行きは恐恐だったヒャルも馴れてきたのか興味深げに見ている。
「これじゃ並の装甲程度じゃ、此処まではたどり着けないな」
「ヒャル、アーマーバッファローやアースドラゴンでも、この地に踏み込むのは無理だね」
「そんなに強固なのかい」
肩を竦めておく、説明しても理解しづらい事だしダルクが対策をしていると言っても、信じられないだろうから。
迷いの森のを出るとヒャルの護衛騎士達と冒険者達か待っていて、護衛の騎士達はホッとした顔になっている。
陽も大分傾き帰るのが遅くなったので、心配をかけた様だった。
夜は酒を容器に移し澱を漉す、三年物のボトルを大事そうに抱えニヤニヤしているヒャル。
「ヒャルそれじゃ、濃すぎて飲めないよ」
「判ってるって、これは家宝だな」
「ほう家宝ね、じゃ俺は遠慮なく飲ませてもらうよ」
グラスを取出し自分のグラスに注ぐと、すかさずヒャルもグラスを差し出す。
「子爵様のやることかね」
「氷を提供しているだろう。なっシャーラ」
ヒャルのグラスにも3年物を注ぎ氷をいれて乾杯。
* * * * * * * *
ヒャルが王都ヘリセンに帰って行ったので、キャンプハウスを仕舞ってダルクの所に向かう。
馬はヒャルの帰りの足として預けたので、馬の心配をしなくても良い。
一夏はダルクの所で過ごし、冬になる前に帰ろうと考えている。
今回は俺もグリンと手を繋ぎジャンプしてダルクの森に入る。
《やぁダルク、暫く休養させてね》
《カイトゆっくりすれば良いよ、シャーラも沢山食べてね》
《はい、ダルク様》
俺がダルクの森に居れば安心なのでシャーラはグリンやダルクの子等と遊んだり果実を探して回ったりと忙しそうだ。
数日してダルクに呼ばれた。
《カイト,シャーラ来てくれる》
《なんですか、ダルク様》
《どうしたダルク、用事かい》
《その子について行ってね》
初めて見る子だ、身体全体が淡いピンク色に透き通っていて、虹色に煌めく羽が眩しい。
《美味しいものを用意したんだ》
この言葉に即座に反応したシャーラは、ニコニコ顔でついていく。
ピンクの子に案内された場所の枝先に2つの実が生っていた。
ピンクの子が枝を揺する。
《一つずつね、食べてご覧よ美味しい筈だよ》
《ちょっと待てダルク・・・ 美味しい、筈ってなんだ筈って》
「カイト様、美味しいです〜ぅぅ」
《ダルク様、とっても美味しいですぅ》
「カイト様食べてみて下さい。とっても美味しいんですよぉ♪」
シャーラに渡された実は、スモモより一回りおおきいくらいで、ピンクの子と同じ様な色合いで透きとおり種が無い。
シャーラのワクテカ顔に急かされて一口嚙じる、花びらと同じ香りが身体を包む様だが気力が漲る感じ。
それに美味い。二口で食べてしまった。
《ダルク様もっと欲しいです〜ぅ。こんなに美味しいの初めてです》
《もう無いよ、シャーラが来てから作り始めて、さっきやっと熟れたの》
シャーラの〈ホェー〉って声が聞こえるが、ちょっと嫌な予感がする。
《なぁダルク、俺達が来てから作り始めたって?》
《そうだよ、カイトが怪我をしたと聞いたから》
ますます嫌な予感が強くなる、嫌な予感はよく当たるって言うからな。
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