4.始まりの町

 初心者が目を擦って「あれ? ゲーム間違えたっけ?」と困惑するトレイン狩りを続けて早一時間。

 セナのレベルはとっくに10を超え、たった今13になった。


 これくらいあれば十分だろうと、セナはいつの間にか近くまで来ていた町へ入ろうとする。


「君は、あー、来訪者……だよね? なんか遠目から見てえげつないことしてたけど……」

「セナです! 来訪者です! 効率良かったのでやりました! あと“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の信徒です!」


 案の定、町の門を守護している門番に止められたが、笑顔でハキハキと答えられては困惑するしかない。


 しかも信仰している神がちょっとヤバい。

 いや、悪い神ではないのは門番も分かっている。疫病も薬毒も、専門家が言うには自然の一部なのだから。

 けれど、疫病がもたらす被害はあまりにも大きく、そして風評が悪いため、信仰している者は殆どいない。


「町の中ではしないでね……」

「何言っているんですか? そんなテロみたいなこと、するわけないでしょう?」


 きょとん、とセナは何食わぬ顔で当たり前のことを答えた。そんなテロみたいなことをついさっきまで行っていた者の言葉では無い。


「あー、うん、一応、通ってよし」


 不安な点はあるものの、まあ会話はできるし来訪者だし……と、心の中で自分を納得させた門番は、彼女に門を通る許可を出した。


 町の名は始まりの町。町の名は、『始まりの町』だ。大事なことなので二回述べた。カタカナだったり英語だったりはしない。


 この町に訪れたプレイヤーは、まず冒険者組合に登録し、消耗品を揃えてからクエストを受注し、クエストで得たお金で初期装備を卒業する、のが基本的な流れになっている。

 その過程でレベル10を達成したら次の町へ、というのが定番となっているのだが……セナはとっくにレベル10を超えている。


「登録お願いします!」

「はい。ではこちらに名前と得意な戦い方、そして信仰している神を記入してください」


 受け取った紙に、『セナ、弓、使役獣の自爆トレイン、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”』と記入したセナ。

 思わず二度見した受付嬢は、目の前の少女と提出された紙の内容で酷いギャップを感じた。


 とはいえ、問題を起こしたわけでも、ましてや犯罪者でもない少女を登録しないわけにはいかず、セナは晴れて冒険者となった。


 その後、インベントリに溜まったアイテムを売却し、露店でポーションと矢を補充したセナは、クエストを受注するべく再度冒険者組合を訪れる。


「後衛の人いませんかー? 後衛二人募集中ー!」

「剣士ー! 剣士あと一人!」

「武器自由! 引率するよー!」


 受付から離れた位置に設置されたクエストボードの近くでは、パーティーを募集しているプレイヤー達の姿が見受けられる。

 パーティーは基本六人が上限であり、それ以上の人数で組もうとするとデメリットが発生する仕様になっている。逆に、六人パーティーなら経験値が三〇%も上昇するため、初心者だとしてもここでは歓迎される。


 セナはその幾つかの募集の中で、後衛を募集している少年少女の元に近寄った。


「後衛? 後衛だよね弓持ってるもん」

「あ、はい……」

「よし、後衛あと一人募集中ー!」


 NPC相手なら普通に話せるのに、中に人がいるプレイヤー相手だとぼっちを発動するセナ。

 しゃべり始めに「あ」が付いたり、声のボリュームが尻すぼみになっていれば、だいたいぼっち属性を有している。


 しかし陽キャはそんなこと気にしない!

 返答を聞くや否や瞬時にパーティー申請を出し、セナを加えた彼らは効率を求めあと一人の募集を再開する。


「あの、初心者?」

「あ、いえ、他のゲームは少し……」

「へぇー、弓って難しいって聞いたんだけど、どのくらい使えるの?」

「あ、えと、人並みには……?」


 繰り返そう。セナはぼっちだ。これまでのゲームでレイドをすることはあっても、パーティーに加入したことなど無かった。

 そのため、質問攻めにされて早速、セナはパーティーに入ったことを後悔するのだった。


「――六人集まったから、早速フィールドに行こうか。役割とかは道中で話そう」


 セナ達はクエストを受注し、剣と盾を腰に提げた少年が先導する形でフィールドに繰り出す。

 彼がこの集団のリーダーなのだろう。そう結論づけたセナは彼と若干距離を取った。


「出現するモンスターはフットラビットとアサルトラビット、たまにレア枠でヴォーパルバニーが出るみたいだから、気を付けていこう!」


 

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