68.セナは予選を通過する
「(これは……壁、かな)」
予選は闘技場ではなく専用のフィールドで行われるようで、セナは荒れ地の一角に転移した。
周囲に人の姿は無く、レギオンは既に影の中で待機している。
セナは近くの透明な壁に触れた。それはある一点を中心に形成されており、水に浮かぶ油のように薄い虹色をしている。
「(本戦に進める人数は明らかになっていないけど……一位になれば進めるよね)」
岩場に身を隠しながら、どうやって他のプレイヤーを狩るかセナは考えた。
他のプレイヤーと仲良くするのはとても、超が付くほどとても苦手なセナだが、狩りであるなら話は別だ。
なので、狩り場に適した場所を探すことから始めることにする。
♢
剣戟が響く。重厚な金属を幾度も鳴らしているのは、近接武器をメイン武器にしているプレイヤーたちだ。
勝ち残れば本戦に出場できる以上、他のプレイヤーを蹴落とすために攻撃を仕掛けるのは当然のことである。
「《ブレイブスラッシュ》ゥッ!」
「《レペルカウンター》!」
「《インパクトラッシュ》!」
全員が敵なので、自然とバトルロイヤルのような戦闘が繰り広げられる。
この光景は観戦者向けのモニターから視聴できるので、派手な戦闘はとても受けがいい。
事実、コロッセウムの観客席に座っているプレイヤーたちは、知り合いを応援したり有名プレイヤーを探したりしながら、派手な戦闘に歓声を上げている。
「うしっ、ここらのプレイヤーは斃し尽くしたか……」
大剣を肩に担ぎ、大柄な男がそう呟いた。
周囲にはHP全損で消えていくプレイヤーの姿が一〇人以上あり、彼らを敗退させたのはこの男だ。
戦いの余波で、森の中なのに小さな広場が形成されている。
男は空を見上げ、透明な壁に沿うように移動しようと考えた。
中心に行けば他のプレイヤーがいるだろうが、既にそれなりの時間が経っているため、遠距離DPSが待ち伏せている可能性が高い。
弓矢使い、もしくは魔法使い。どちらか片方でも脅威となり得る。
「ブロック分けされてるとはいえ、それでも大勢いるからな……。最低でもあと一〇……いや二〇人は斃しておきィっ!?」
そうして移動を開始しようとしたとき、男の喉に矢が突き刺さった。
一瞬でHPが減少し、傷痍系状態異常が発生する。
「(嘘だろ……!? 俺の《サーチ》の効果範囲は半径一〇〇メートルだぞ!? なのに、気付けないなんて……っ!)」
死の一歩手前ではあるが、男はギリギリ生きていた。咄嗟に矢を引き抜かなかったのと、HPの総量が多かったためである。
彼は大金叩いて購入したポーションを使用するため懐に手を伸ばすが、頭を動かせば突き刺さった矢のせいでDOTが生じる。
「(あと少し……ショートカットに設定してなかったら詰んでた……!)」
彼の懐には小さな雑嚢があり、回復ポーションを取り出すショートカットに設定しているのだ。
死に瀕した状態で、一々UIを操作してインベントリから必要なアイテムを選ぶ時間は無い。
そして、指が雑嚢に触れた瞬間――
「(反応……真後ろっ!?)」
一際派手なエフェクトとともに、男の頭部が切断された。
《サーチ》は範囲内の敵をマップに表示したり、どの辺りにいるのか分かるようになるアーツだが、気配を殺せる相手には上手く機能しない。
だから、攻撃を仕掛けられた瞬間にしか反応しなかった。
「(……これで、ちょうど四〇かな)」
彼女は予選フィールドの広さとプレイヤーの密度から、大凡二〇〇人から三〇〇程度だと辺りをつけていた。そして、少人数であれば奇襲を仕掛けて狩り、大人数であれば漁夫の利を狙って行動するようにしていた。
観客たちは、モニターに映ったこの光景にどよめいている。
あくまで予選なので、観戦しているプレイヤーはそこまで多くない。
けれど、これまで謎だった狂信者の戦闘能力が明らかとなったので、その強さに驚いているのだ。
なにせ、今しがたセナが斃したのは、前線組の中でも上位に位置する実力者なのだから。
「(出来れば、予選はレギオンの存在を隠しておきたいかな)」
影の中で待機させてはいるが、可能ならレギオンを隠した状態で本戦に進みたいと考えるセナ。
最初から手札を公開するのは、対策してくださいと言っているようなものだからだ。
「(他の人たちも戦ってるはずだから……あと一〇人ぐらい狩り殺せば、本戦に進めると思うんだけど)」
最後の一人、もしくは生き残ったプレイヤーの中でキル数の多い者が、本戦に進めるだろう。
制限時間があるとは言われていないが、限定ミニイベントを予選等に重ならないよう開催するのなら、制限時間があってもおかしくない。
じゃないと、予選が長引いて限定ミニイベントに参加出来ない者が出てくる。
「(次はあっちに行こう)……《ステルス》」
イベント前日に修得したアーツ《ステルス》は、【ボウハンター】から芽生えたものだ。
この予選で初めて使用したが、高レベルプレイヤーであっても通じたので、セナは大変満足している。
姿を隠したセナは、次の獲物を狩るために予選フィールドを駆け抜ける。
マンハントの時間だ。
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