67.第二回公式イベント

 イベント当日になり、セナは特設フィールドに移動した。

 特設フィールドはコロッセウムを模しているようで、広々とした闘技場を見下ろせるようになっている。


 今回行われる第二回公式イベントのタイトルは『Battle of Players』……メインイベントは闘技場で行われるPVPであり、UIから参加申請をすることで予選に出場できる。予選を勝ち上がれば、トーナメント形式の本戦に進めるということだ。


 セナはもちろん参加申請を出した。

 それと、彼女は一応テイマーでもあるので、同伴させる従魔を選択する画面が出てくる。

 従魔が多ければ相性や作戦などを考えるだろうが、セナの従魔は四体しかいない。なので、従魔は全員参加である。


「(……ん?)」


 今度は戦闘ではなく、イベントフィールドで同伴させる従魔を選択する画面が出てくる。

 こちらは一体のみ限定で、大きさによる制限もある。成人男性を基準として、高さ一八〇センチ、もしくは全長一八〇センチ以内の従魔だけ選択できるようだ。

 これには尻尾も含まれる。


「(……レギオンにしよう)」


 人間体だけで判定されたらしく、レギオンは選択可能になっていた。


「(あとは……公開設定かな)」


 プレイヤーの信仰先、ジョブ、サブジョブ、テイマーであれば従魔の名前、それらを公開するかどうかを設定できるようだ。

 初期設定では全てオフになっている。

 セナは別に隠していないし……と、全てオンにした。


 これらの情報はメインイベントであるPVPの、本戦に出場した場合にのみ使われるので、プレイヤーの中に有名人を作る目的があるのだろう。

 つまり、その他大勢のプレイヤーに身近な目標を作らせたいのだ。


「(開催式は一時間後か。前回は無かった……よね?)」


 前回のイベントは途中参加だったので、開催式があったのかどうかをセナは知らない。

 ちなみに、第一回公式イベントは急遽制作されたものなので、開催式は無かった。


「(とりあえず隠れよう……)」


 すっ……とさり気ない動きで物陰に隠れたセナ。

 街中などですれ違うのは少し慣れてきたが、それはNPCという緩衝材がいるからである。

 今ここにNPCはいない。セナの従魔であるレギオンしか、緩衝材が存在しない。


「…………マスター、何してるの?」

「レギオン吸いしてる……」


 心を落ち着かせるため、レギオンを抱きしめて深呼吸するセナ。やはりテンパっているようだ。

 レギオンは呆れたような雰囲気を出しつつ、その口元はにやけている。




「――ようこそ、そして初めましてプレイヤー諸君!」


 開催式の時間になると、女性の声が会場全体に響いた。

 声の発生源はフィールドの一角、VIP席のようなバルコニーだ。拡声器のようなものを使っているのか、それともただ単にそういう仕様なのか、声はそこまで大きくないのに、どこにいても聞こえるようになっている。


「と言っても、一方的に知っている者が多数だろうねぇ……。そう、私が、AI開発担当兼GMのシータだ。変なことしたら、牢屋にぶち込むぞ☆」


 …………なんとも、形容しがたい人物のようだ。

 しかし、セナでも彼女の名前は聞いたことがある。前代未聞の、AIのプログラムに感情を搭載させる技術を開発した、天才プログラマーだと。

 そして、なぜか大手ではなく中小企業に留まり続けていることも。


「紹介。デルタと申します。本戦では解説を行う予定ですので、どうぞよろしくお願いします」


 そしてもう一人、デルタスケール・ソフトウェアの社長である彼女までもが登場した。

 特設フィールドにいるプレイヤーは多かれ少なかれ、彼女の登場に驚いている様子を見せる。


「当然。人同士が戦う姿を観賞するのが最大の趣味なので」


 今度は「うわぁ……」とドン引きする声が上がった。

 大丈夫? 人間として終わってない? 愉悦部なのか? といった疑問がプレイヤーたちの中で湧き上がる。


 それから、二人によってイベントの説明が行われる。

 まず、予選は申請を出したプレイヤーをランダムでブロック分けした上で行われること。

 イベント一日目はこの予選の消化に費やされるようで、時間帯をバラして計五回行われる。


 本戦が行われるのは二日目からであり、ゲーム内通貨であるシルバーを用いた賭博も行われるようだ。

 信仰先やジョブ等も、この時点でプレイヤーネームとともに公開される。もちろん、非公開に設定したものは表示されない。


 それからミニイベントとして、様々な催し物が用意されているとシータは言う。

 予選や本選と被らない時間帯で、限定ミニイベントも開催されるようらしい。


 「(限定……あれかな)」


 セナは限定ミニイベントが気になった。そこにはあの不敬なものも含まれているのだろうか、と。


「さあ、イベント開始だっ!」


 説明を兼ねた開催式が終わった。

 ……そして、予選が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る