69.ガチャを回そう!

《――現時刻を以て予選Bブロックは終了となります》

《――本戦出場者はセナ様、クルル様、あまかけ様の三名です》


 開始からちょうど一時間経過した時、フィールド全体にアナウンスが流れる。

 セナの合計キル数は五六であり、手札の大半を隠した状態で本戦に進むことになった。


 他二名のことは知らない。出会ったことは当然ないし、掲示板もあまり覗かないので有名かどうかも分からない。

 分かるのは、彼らが実力者であることのみ。


「っ、と」


 転移が行われ、再びコロッセウムに降り立ったセナ。周囲のプレイヤーは彼女の出現に驚き、距離を取る。


 他の予選を観戦するつもりは無いので、観客席からコロッセウム内部に移動するセナ。

 もちろん、豊富なミニイベントで遊ぶためだ。


 コロッセウム内部はゲームセンターのような空間になっており、クレーンゲームやガチャガチャが大量に設置されている。

 また、謎の舞台も用意されており、そこには準備中の看板が立てられていた。


 クレーンゲームは一〇〇シルバーで一回挑戦できるようで、一度に一〇〇〇シルバーまで投入できるようになっている。

 しかし、これで取れる物はレア度の低い、どこでも入手可能な素材ばかりだ。


「(一回一万シルバーが一番レア度が高いみたい。でも、要らないかな)」


 筐体によって投入できる金額が違うが、それでも一万シルバーが限度らしい。取れる景品も、セナからすれば大したことがない。

 だってシャリアの魔塔で素材は大量に入手したから。


 しかし、ガチャは違う。

 ここのガチャに投入できる金額に制限は無く、投入した金額に比例してラインナップが良い物になると書かれている。

 排出されるアイテムの種類は完全ランダムで、運が良ければ投入金額の一〇〇倍の価値がある代物まで出てくるらしい。


「……まずは一回」


 セナは試しに一〇万シルバーを投入した。一万シルバーではあまり良い物が出なさそうなので。

 すると、真っ黒なカプセルが排出された。

 どうやらこれを開封することでアイテムを入手できるらしく、セナはパカッとカプセルを開く。


 入手できたのは『黄金の片手剣』だった。換金アイテムである。

 この空間内に用意されている店で売却することにした。一〇〇倍とまではいかないが、そこそこいい値段になったので、セナはもう一度回すことにする。


「レギオンもやりたい」


 何回か回しているとレギオンも興味を持ったらしく、セナの袖を引っ張っておねだりをした。


 れぎおん は ごじゅうまんしるばー を もらった!


 セナから五〇万シルバーという大金を受け取ったレギオンは、一〇万ずつ五台のガチャに突っ込む。

 出てくるのは全て黒色のカプセルだが、その内の一つには危険を示すマークが付いていた。


『このアイテムはイベントフィールド及び街中では開封できません』


 マーク付きのカプセルにはこんな注意書きがあったため、開封するのは後回しである。いったい何が入っているのだろうか。


「――何が出るかな」

「レギオン楽しみ」


 セナも追加で回したので合計二〇個のカプセルを入手した二人。開封は場所を移動してからすることにした。

 マーク付きは今日のミニイベントが終わってから開けることにする。


《――『黄金の槍』を入手しました》

《――『黄金の大剣』を入手しました》

《――『黄金のナイフ』を入手しました》

《――『黄金のナイフ』を入手しました》

《――『黄金の鞭』を入手しました》


 違う、そうじゃない。セナは思わず項垂れた。

 所持金的にはプラスではあるのだが、もっと別の、有用なアイテムが欲しかった。

 稀少な素材や強力な武器、或いは神への捧げ物にできるアイテム。セナはこういったモノを望んでいる。


「次レギオンが開けるね」


《――【ラヴァ・ドラゴンの完全遺骸】を入手しました》


 レギオンが開封すると、黄金シリーズよりかなりレア度の高い素材が出てきた。インベントリに直接入る仕様のため他の人の目には留まらないが、それでも周囲を気にしてしまうぐらいセナは焦った。


 レッサーですらお目にかかれていないのに、明らかに上位種なドラゴンの完全遺骸である。

 未だこのゲーム内で目撃情報が無いドラゴンの素材を、丸々一体分入手したと知られたら、きっと悪い人たちに狙われてしまう。


「(よかった……外に出るタイプじゃなくてよかった)」


 ほっと胸をなで下ろすセナ。気を取り直して開封を続ける。


《――『躍動する猫じゃらし?』を入手しました》

《――【魔界アルラウネの苗】を入手しました》

《――『選べる金属インゴット』を一〇個入手しました》

《――『万能の霊薬』を入手しました》


 ……一旦開封を止めさせたセナ。

 ツッコミどころというか、色々と言いたいことが込み上げてくるのを、深呼吸して抑える。


 躍動する猫じゃらしって何? いったい何が躍動するの? あとこの疑問符は何?

 【魔界アルラウネの苗】はなんか凄そうなアイテムだけど、成長するとモンスターに成る? 時間経過で育つって、本当にそれアイテム枠で大丈夫?

 万能の霊薬って何? 覚えているレシピに無いんだけど。


 だがそれよりも、なによりも大事なのは、自分よりレギオンの方が良いアイテム出てない? というゲーマーらしい嫉妬。


「マスターくすぐったい」

「レギオンの運わたしに分けて」


 なんてやり取りを挟みつつ、開封を再開する二人。 


《――【イノセント・ヒューマンユニットの完全遺骸】を入手しました》

《――『黄金の槍』を入手しました》

《――『超大盛り焼き肉セット』を入手しました》

《――『レベル80帯汎用装備箱』を入手しました》

《――『黄金の猫じゃらし』を入手しました》

《――【■■■■■■■■■現在のレベルでは表示できませんの神像】を入手しました》

《――『レベル80帯汎用装備箱』を入手しました》

《――『調理キット』を入手しました》

《――『超大盛り海鮮セット』を入手しました》


 結果、セナは悲しくなった。

 レア度の高いモノは全て、レギオンが開封したカプセルから入手したものだ。セナは黄金シリーズと汎用装備箱しか入手できていない。


 調理キットに至っては、【調理】スキルを持っていないため使用できない。これはマーケットに流すことにする。


「今度から、ガチャとかはレギオンが回してね……」

「別にいいけど、レギオンのものはマスターのものだよ?」


 レギオンの優しさがセナの心に染み渡る。セナはレギオンを抱きしめ、レギオンは朗らかな笑みを浮かべた。

 とても微笑ましい光景である。

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