70.魅了だらけのミス女神コンテスト
ガチャで一喜一憂したセナは、時間も時間なので、ミニイベントの会場に向かう。
ミニイベントは準備中の看板が立てられていた舞台で行われるようで、セナはとりあえず最前列に立った。
今回行われる、とても不敬なミニイベント。
そのイベント名は――
《――ただいまよりコロッセウム内特設ステージAにて、『美の頂点に立つのは誰だ!? ドキッ! 魅了だらけのミス女神コンテスト!』が開催されます》
「(怒られないのかなこれ)」
これ企画出したの誰だと思いながら、開催と同時に出現した画面を見るセナ。
そこにはサイリウムや団扇やタオルなど、推し活に使う道具が販売されていた。女神Tシャツもある。これらは好きな女神の紋様を入れられるらしい。
セナはサイリウムを四つ購入し、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の紋様を入れた。
課金すれば宅配でリアル住所に送ってくれるそうだが、生憎とセナは入院患者なので届いても手に持つことが出来ない。
クレジットカードも無いし。
サイリウムをレギオンにも持たせ、セナは待機する。
周囲には続々と他の人たちも集まり、各々装備を調えていく。サイリウム二刀流は当たり前、推しのグッズ全てに課金する……! なんて人もちらほらといる。
世界観ガン無視である。
すると、ステージ横に光の柱が三本立つ。椅子と机が用意されているが、司会者席ではない。司会者席は反対側にある。
……そして、神々しい空気が流れ、三柱の神が降臨した。
『……妾が裁定をしてやろうではないか』
『……法則と規則を司る神として、不変のルールを遵守させよう』
『……はーい! ルシアちゃんも採点するねー!』
尊大な態度で登場したのは、体の両側に秤を持つ“公平なる正義にして裁定の神”だ。陣営に関係無く公平な神とされているので、裁判の際によく祈られている。
とても美しい風貌をしているが、司る権能があれなのでこちらに回ったのだろう。
二柱目は“確かなる法則にして規則の神”であり、シャリアが信仰している神だ。その絶大な力をセナは身を以て味わっており、その一端を聖痕として刻んでいる以上は敬う必要がある神である。
三柱目の神はミリオネルシアの名で知られる“心通わす童心にして偶像の神”だ。最も気軽に降臨する神で、子どものお祝い事になると地上を訪れるらしい。
また、子どもだけで遊んでいると、いつの間にかその輪に交ざって遊ぶこともあるとされている。
当然のように降臨した神々に、プレイヤーは興奮している。
このゲームはキャラメイク時点でいずれかの神の信徒になるが、神に直接出会ったプレイヤーはセナぐらいだろう。
だから、大半のプレイヤーは初めて神と邂逅したことになる。
「――さあて、司会者シータちゃんの登場だ! このミニイベントはプレイヤー諸君も楽しみにしていただろう? さっさと始めようじゃないか」
マジックショーのような登場をしたシータ。
話している時間が無駄だと言わんばかりに、ミニイベントが開始される。
「まずはぁ~……この神からだ!」
ノリノリで司会を務めるシータ。そして司会と音楽に合わせて登場する女神たち。
プレイヤーたちも歓声をあげている。
セナはサイリウムを振ることはせず、ただただその時を待ち続ける。セナの
「さてさてさぁて……次はこの神だ! 混沌陣営からの刺客、世界で最も美しく謙虚で素晴らしい女神
秩序陣営の神々しか降臨していなかった壇上に、混沌陣営の神が舞い降りる。
その姿を言葉で表現することは難しく、美の女神にすら劣らない美貌を有していた。
アルビノの特徴である赤い瞳と真っ白な肌、絡みつく極彩色の蔓、ドレープとケープを纏う彼女こそ……
「――女神様ぁぁああああっ!」
そう、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”である。
セナは大歓喜して声を上げた。サイリウムを空高く掲げ、ブンブンと感情のままに振るう。
レギオンもそれに倣ってサイリウムを振った。
こんな場に女神様を呼ぶなんて不敬だ。もっと神聖な場で、傅いて祈りを捧げるべき相手なのに。
それはそれとして女神様美しい! こっち見てぇ! ……と、セナは周囲の人が引くぐらい大盛り上がりだ。
『……ふふっ』
「…………はぅあっ!」
そんなセナの様子を見て、女神は小さく笑う。たった一人しかいないプレイヤーの信者が大盛り上がりしているのだから、降臨した甲斐があったというもの。
だから、彼女だけに女神はちょっとしたサービスをした。
ウィンクされたセナは心臓に矢を打ち込まれた錯覚を起こした。
それに、セナ以外のプレイヤーも呆気にとられているが、彼女の存在に否定的ではない。
むしろ興奮していると言ってもいいだろう。
「……やべぇ、めっちゃ女神やん」
「え、かわ……え、やば」
「権能が病とか毒とか、もっと陰鬱なのを想像してたけど……」
「ああ、見ろ。“多彩な芸術にして美の神”がハンカチ噛んで嫉妬してるぜ……!」
まるで、共学になったばかりの男子校に転入した女子生徒に盛り上がる男子だ。
頬を赤らめ、感嘆の息を漏らしている者も多い。
美を司っている女神は、『司る権能故にわたくしの方が美しいはず……それなのにぃ!』と、ハンカチを生み出してとてもベタな嫉妬をしている。
……厳密に述べるなら、同じ美でもジャンルが違うのでどちらかが優れているわけではない。
どちらも美しい。それだけだ。
「え、どうしよ……改宗しよっかな」
「待て待てステイ、落ち着け」
それでも、プレイヤーたちの想像の中では陰鬱なイメージだったので、この場に降臨した彼女の姿は強烈なものだった。
忘れられないぐらいに強烈な美だったのだ。
それから他の女神も何柱か降臨して、採点が行われる。
このゲームに存在する全ての女神が降臨したわけじゃないが、ここで一位に輝けばプレイヤーの中で一番美しい女神と認識されるだろう。
セナは“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の優勝を願う。
彼女にとって女神はただ一柱のみ。他の有象無象なぞ、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”と比べれば路端に転がる石だ。
『……ほう、これは面白い。妾の秤は混沌の神へと傾いておる』
『……不変のルールに則りましょう』
『……リーカちゃんも可愛いよねー!』
結果、三柱とも“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”に一〇〇点を叩きだす。
プレイヤーが受けた印象やこの場の雰囲気。そしてなにより、一時的信仰という形で湧き出る信仰エネルギーの総量。
これらを考慮した結果、最高得点を出すに値すると判断されたのだ。
一時間ほど続いたミス女神コンテストは、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の優勝で幕を閉めた。
セナは心ここにあらずと言った感じで、終了後も突っ立っている。
「めがみさまぁ……」
「……マスター、頭大丈夫?」
加護によって状態異常から守られているはずのセナは、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の美貌に魅了されていた。
女神の魅了、という形で簡易ステータスに表示されている。
意識を取り戻した頃には三〇分が経過していた。
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