狂信者が行く! ~病弱美少女はゲーム世界を疫病で満たすようです~

こ〜りん

1.フェイス・ゴッド・オンライン

 榊谷さかきや潤憂うるう、十七歳。職業、無し。治療のため入院中。

 これまでの人生を機械の中で過ごし、データ空間の中でしか意識を保てない末期状態。このまま継続しても治る見込みが無いため、医者にすら匙を投げられている。


 そんな中、世間では一つのタイトルが発表されていた。新進気鋭のゲーム会社が世に送り出した、『フェイス・ゴッド・オンライン』。

 従来のVRと違い、ダイブ型VRは普及したばかりであるため、物珍しさから予約が殺到。一躍大人気ゲームとなっているこのゲームは、信仰フェイスの名の通り、信仰がメイン要素となっている。

 アバターを作成する際にプレイヤーのパーソナルを読み込み、それを基に信仰する神が決まるのだ。例えば、『貴方は○○神を信仰している』と表示されたり。


 クローズドα、クローズドβ、オープンα、オープンβ、そしてデバッガーによるバグ潰し。計五回以上のテストが終了し、リリースされて一ヶ月が経過しているこのゲームに、一人の少女が舞い降りる。




「(……ログイン)」

《――『フェイス・ゴッド・オンライン』へのログイン申請を受諾します》

《――………………認証完了》

《――ようこそ、セナ様》


 潤憂の――セナの意識は一ヶ月に一回の機材メンテナンス時以外、常にVR空間内に存在している。カメラを通して病室を見ることは出来るが、衰弱し痩せ細った体が自分のものだという現実を知って、以降は使うことを控えている。


 セナはひとりぼっちだ。他人と接したことが無いためコミュニケーションが上手く取れず、精神面での成長も出来なかった。


 ……誰でもいいから友達になって欲しい。


 そんなちっぽけな願いを叶えてくれるプレイヤーと出会うことも出来ず、唯々ただただ孤独に遊んで過ごして来た。


《――こちらのチェックをお願いします》

「(……おっけー。目を通したよ)」

《――ではこれよりチュートリアルを開始します》


 どのゲームにもある利用規約などを数秒で読み込み、セナはチュートリアルを始めるのであった。


《――まずはアバターを作成してください》


 彼女の前にデッサン人形のような等身大のマネキンが出現する。

 拘る人はこの状態から数日かけて微調整するらしいが、セナはさすがに面倒だと感じた。そのため、今使用しているVR上のアバターをコピーすることにした。


 肩まで伸ばした淡い水色の髪、同じく淡い水色の瞳、そして一六〇センチの身長。物心ついた頃から使い続けてきた愛着のあるアバターだ。

 これをちょっとだけ改変し、セナはアバターの作成を終えた。


《――スキルを選択してください》


 『フェイス・ゴッド・オンライン』では一〇個のスキルを駆使して戦闘を行う。このスキルは増やすことも減らすことも出来ず、改宗の際に一度だけしか変更できない。

 つまり、よく考えなければ地雷キャラとなり、パーティーを組むことが出来なくなる。


 それは困る……! 友達と遊びたい……!

 そう考えたセナはじっくり悩み、悩み続け…………何も選択しないまま半日が過ぎた。


「(どうしよう……)」

《――スキル選択を保留して次に進みますか?》


 AIからも呆れられ、一旦保留にする選択肢が与えられる。このまま悩んでいても選べないと確信したセナはスキルを保留にし、次の項目へと進んだ。


《――使用する武器を選択してください》

「(これも保留で)」

《――…………》

《――信仰する神を設定します》

《――これから行う質問に答えてください》


 武器選択も保留にすれば、いよいよ信仰先の設定だ。

 これはプレイヤーのパーソナルデータの読み取りが必須となるため、質問に答えながら読み取りが終わるのを待つ必要がある。


 個人情報が漏洩しないか? 大丈夫、ダイブ型VRのセキュリティは世界最高峰のハッカーが一〇〇人規模で挑んでも突破できないほど頑丈だ。


《――このゲームをどこで知りましたか?》

「(お医者さんが入れてくれた)」

《――このゲームを楽しみにしていましたか?》

「(うん)」

《――このゲームで貴女は何をしたいですか?》

「(友達が欲しい)」

《――このゲームで貴女はどんな活動をしますか?》

「(友達と一緒に、遊ぶ……?)」

《――このゲームで願いが叶うとしたら、何を願いますか?》

「(わたしの病気を治して)」

《――嫌いなコトは何ですか?》

「(一人でいること)」

《――好きなコトは?》

「(楽しいこと)」

《――では最後に……》


 ごくり、と唾を飲む。


《――貴女にとってゲームとは?》

「(わたしが生まれた場所。多分、死ぬまでずっとここにいる)」


 潤憂の病気は不治の病だ。医者が匙を投げていることからも、治療法が確立していないことが分かるだろう。

 最新設備を使うことで延命できているが、既に述べたとおり、彼女はVR空間でしか意識を保てない。


 だから、潤憂セナにとってゲームは、生まれたときから死ぬときまでを過ごす、彼女にとって唯一の現実なのだ。


《――信仰先候補が見つかりました》


 数秒のロードが入り、彼女の目の前に三柱の神が降臨した。


《――“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”》

《――“大地を覆う暗がりにして孤独の神”》

《――“情景に抱く後悔にして未練の神”》

《――好きな神を信仰してください》

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