97.群体VS群体
真っ正面からドラゴンブレスを浴びた【ローカストダメージ】は、瞬く間に燃え尽きていく。
ドラゴンが放つような火力で焼かれれば、握り拳ほどの大きさがあろうと火が付いた側から炭化していくだろう。
しかし、【ローカストダメージ】は斃れた個体から耐性を獲得していくため、新たに炎熱耐性を獲得したこの群れは、炎の余韻を迷わず突き進む。
耐性さえあれば、炎に身を包まれても焼かれることは無いのだ。
「(……
「(言われなくても)」
炎を突破してレギオンに食らいつこうとする【ローカストダメージ】だが、横方向から大質量の物体で攻撃される。
「……即席、レギオンパンチ」
それは、これまでにレギオンが取り込んできた獲物の中から、頑丈な部位を継ぎ接ぎして作りだした腕だった。
甲殻、骨、爪、或いは牙。
この継ぎ接ぎだらけの異形の腕もまた、レギオンという群れの一部である。
「(どうせならアレのお披露目したいよね)」
「(レギオンは疲れたからやだ)」
「(けち)」
大人レギオンの反対に遭ったため、
彼女は異形の腕を分離させ、統一意識で操作し自立しているように見せかける。
【ローカストダメージ】はそれを食べがいのある獲物と判断したのか、急速に形を変える肉塊へと向かっていった。
「――じゃあ、食べちゃうね」
レギオンがそう言うと、もはや腕ですら無い異形の肉塊は大きく裂け、獰猛な牙が生え揃った口腔を露わにする。
――これはレギオンという群れの口そのものである。
人間体を介した捕食でも影による捕食でも無い、
群れ全体で捕食活動を行う【ローカストダメージ】に対抗するため、レギオンはこのような形を見いだした。
ガバッ……と開かれていた口が勢いよく閉じる。
向かってきた【ローカストダメージ】を、不細工な羽虫の群れを、その巨大な口腔で丸呑みにしたのだ。
「……もぐもぐ」
通常、丸呑みにしただけでは斃した判定とならない。
ワームに丸呑みされても従魔が自爆できるように、即死には至らないのだ。
――だから
鮫のようにギザギザと尖った牙は、捕食した獲物をミキサーのように磨り潰し、逃げる隙も反撃する暇も与えない。
《――【ローカストダメージ】が討伐されました》
《――初討伐報酬として【ローカストブローチ】が贈与されます》
無事に全ての個体を斃しきったようで、アナウンスがそれを保障するように流れた。
レギオンは途中から援護射撃に徹していたセナの下に駆け寄り、無言で報酬を要求する。
ぶんぶんと振り回される尻尾の幻覚が見えそうなぐらい、分かりやすい要求だ。
「レギオンも頑張ったから……」
「レギオンサボってた」
「サボってない……」
セナに甘やかされる少女レギオンに対抗するように、大人レギオンがセナを抱きしめる。が、レギオン同士で何か譲れないことがあったらしく、二人はセナを挟んで睨み合っている。
そんな二人を無視して、セナは討伐報酬の確認を済ませた。
この【ローカストブローチ】はMPを消費することで、消費したMPに応じた量の飛蝗を召喚する装備スキルが付いているが、従魔扱いではない飛蝗に《自爆命令》は適用できないため、残念ながら無用の長物である。
しかし、セナはふと思いついた。装着者のMPを消費するのなら、魔界アルラウネに装備させれば餌代が浮くのでは、と。
……魔界アルラウネがまだ誕生していないので、出来るかどうかは分からないが。
もしかしたら、程度の考えなので必要性は無いのだが、セナは売らずに持っておくことにした。
本当に使い道が無ければ、その時に売ればいいだけである。
「――あとは指定された素材だね」
レベルアップで新たに獲得したアーツの情報も確かめたので、セナは周囲を見渡して目標を探す。
ボスの討伐は過程に過ぎない。
「名前的に窪みの中心かな……?」
指定されたアイテムの名称は、『朽ちた選定の欠片』である。NPCである受付嬢は言及しなかったが、何を採取すればいいかはシステムが教えてくれた。
ダンジョン名が『枯れ消えた選定の泉』だったので、かつては泉だったであろうこの窪みの中心にあると踏んだのだ。
「あったよ」
そう言ってレギオンが拾い上げたのは、錆びだらけの鉄片だった。肘から手首ほどの長さがある、板状の鉄片だ。
錆による腐食でボロボロだが、『朽ちた選定の欠片』と表示されているので間違いない。
ただ、よぅく辺りを見渡すと、似たような鉄片が転がっている。
それを拾ってみると、やはり『朽ちた選定の欠片』と表示された。
もしかしたら全部集める必要があるかもしれない。セナはそう思い、集められるだけ集めることにした。
しかし、予想に反して鉄片の数は少なかった。どれだけ探しても五つしか無かったのだ。
「(こんなに、何に使うんだろ?)」
使い道なぞ無さそうだが……クエストで指示されている以上、必要なモノなのだろう。
鉄片を集め終えたセナたちはタージイオタへと帰還する。
もう二度と来たくないダンジョンであった。
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