31.デルタスケール・ソフトウェア
「――あれ、ほんとにあげちゃって良かったの? デルタちゃん。気合い入れて作ってたよねぇ」
「憮然。制限はつけていません。それで分かるでしょう」
フェイス・ゴッド・オンラインを開発し運営している会社、デルタスケール・ソフトウェア。その本社の一室で、二人の女性が話をしている。
一人は古風な衣装に身を包む神秘的な女性。
一人は道化のような態度をとるスーツの女性。
デルタと呼ばれた女性は、社名から分かるとおり、この会社の代表取締役兼社長だ。そしてモンスターデザイン担当でもある。
AIのランダム生成機能を活用すればいいというのに、彼女は趣味だからと手ずから全てのモンスターをデザインしゲーム内に実装させた。
彼女は人と会話をする際、必ず言葉の頭に熟語をつける癖がある。
対するもう一人、気安い態度でデルタに話しかけた女性はAI担当だ。
彼女はゲーム内のNPCに搭載するAIを、一般に普及している高性能AIを使用するのではなく、オリジナルのプログラムを組むことで一から作成した。
彼女は他者を煽るためにわざと、大人とは思えない子供じみた言動で振る舞っている。
そして、ブラック会社も真っ青な仕事量をそつなく熟す二人は社員から恐れられている。小さい会社なので色々と兼任しているのは仕方ない部分もあるが、それにしたって仕事を抱えすぎだと社員が苦言を呈すほど。
外部に委託すればいいのに、この二人はわざわざ自作しているのだ。
「えー、シータ分かんなーい☆」
「
「巫山戯るわけないじゃんデールター」
人の神経を逆撫でするような、とにかく態度からして他者を煽るシータは、何がおかしいのかお腹を抱えて大笑いする。
バシバシと背中を叩かれたデルタは、鬱陶しそうにシータへローキックを食らわせた。
「それよりさあ、次のイベントどうするわけ? 元々第一回イベントは交流会を兼ねたPVPの予定だったじゃん。それを急遽ダンジョンアタックに変更したわけだけど」
「当然。一ヶ月も立ち止まる方が悪いでしょう。文句を言われてもそのまま通します」
「そんな交通事故に巻き込まれた奴が悪いみたいなさあ!」
設立当初のメンバーであるシータだが、よく人を煽るのでとても嫌われている。
デルタも当然のように嫌っており、二人は犬猿とまではいかないが仲が悪い。
「……そこまで言うなら代案があるのでしょうね」
「イベント考える担当じゃないしー?」
「侮蔑。なら黙っていてください」
ぴしゃりと言い放つデルタ。
「意見。本来第一回として開催する予定だったイベントを第二回に持ち越すのは、リソースの再利用として意味があります。それと、レギオンはプレイヤーの手に渡るのなら、それはそれで構いません。想定と違う成長をする可能性がある以上、興味はありますから」
レギオンの最終デザイン案がモニターに表示される。
成長した場合どうなるかなど、注釈付きで細かく描かれているイラストだ。
生命教団によって完成され、自然に解き放たれた場合、どのような成長を遂げるかはデルタによって決められていた。
しかし、今はセナというプレイヤーの手に委ねられている。
システムでテイムを制限しなかったのは、プレイヤーが育成した場合の姿が見たかったからだ。
デザインを作ったデルタといえど、搭載したAIによる自己進化までは関与しない。
「……ふーん。まあいいや」
どうでもよさそうにシータは椅子を回転させる。
事実どうでもよかった。どっちに転ぼうが大して変わらないのだから。
「……確認。次のアップデートで調整及び改善する点について、確認しなければならないことがあります」
「掲示板で騒がれてたねぇ、モンスターがいないって。デルタのミスかなあ?」
「――殺すぞ」
「待て、止めろ、それは洒落にならない」
遂に堪忍袋の緒が切れる。シータは焦って素に戻った。
デルタがキレるとろくなことにならない。彼女らにとってそれは周知の事実だ。
「……念のためとはいえ、奴の目を欺くために演技してるんだから、もう少し合わせて欲しいものだね」
「はあ……疑問。その演技は本当に必要なのですか。他者を煽り貶すのは元々でしょう」
「うーん、それは宣戦布告かなー?」
ニコニコと笑顔でドス黒いオーラを滲ませるが、デルタは意に介さず話を戻す。
「確認。この点は他の案も出ています」
「んー……ああ、これか。私の担当じゃないからデルタが決めれば? んじゃ煙草吸ってくるから、あとおねがーい」
鍵を掛けていた扉から出て行ったシータは、そのまま喫煙室に向かった。
足音が消えていく方向からそれを認識したデルタは、溜息をつきながら自分の作業を再開する。
最小化していた画面を戻すと、そこには次のアップデートで追加予定のモンスターが表示されている。
二つ名を用意されたユニークモンスター。
デルタが特別なデザインを施した、正真正銘のユニークだ。
「……期待。プレイヤーの反応が楽しみですね」
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