5.テイマーですけど?
始まりの町の周辺には兎系モンスターしか出現しない。しかし、兎だからと侮ってはいけない。
「まず、フットラビットの蹴りは防具があっても大ダメージを受ける。アサルトラビットは動きが速い。だから時間を掛けて確実に斃していこう!」
シュンと名乗った剣士の少年は、セナ達にそう説明した。
フィールドでの戦闘はMMOなだけあって制限が存在しない。モンスターが隠れて不意打ちしてくることも有り得るため、彼らは武器を構えつつ移動する。
すると、二体のフットラビットが岩の上で寛いでいるのを発見した。
「……よし、先制攻撃をしよう。後衛の三人は攻撃してくれ」
まだ気付かれていないことを確認したシュンは、セナ達に攻撃するように指示を出した。
セナは弓を構える。一〇〇メートルほど距離はあるが、【鷹の目】の効果もあってバッチリと狙いを定められる。
マジックキャスターは風の魔法で、ヒーラーは光属性の魔法で攻撃をした。
「――俺とハルで抑える! そのまま削ってくれ!」
二体のフットラビットは岩の上から転げ落ち、しかし斃れることは無く、怒りを顕わにして突撃してきた。
盾を持っているシュンとハルがその攻撃を防ぎ、アタッカーの役割をセナ達に求めた。
「シュンの方は私が削る! そっち斃して!」
ダガーを持って姿勢を低くした少女はシュンの援護に回ったため、後衛三人はハルの援護をすることになる。
セナの弓、そして魔法による攻撃で、一体目のフットラビットは斃れた。
二体目のフットラビットも程なく斃され、彼らは少なくない経験値を入手した。
「よし、この調子でいこう!」
誰一人被弾せず斃せたため、シュンはこのままレベリングを兼ねて続けようと提案する。
全員それに同意(セナはクエストを達成する分だけでよかったが言い出せなかった)し、レベリングは順調に進んだ。
途中で休憩を挟んだが、それでもセナはレベル17に、他五人もレベル15になったため、町に帰還して解散する流れになった。
「そうだ、よかったらフレンドにならないか? 連携できてたし、都合がよければまたパーティー組みたいしさ」
「フレ登録だけならまあ……」
形としてはその場限りの野良パーティーだったので、フレ登録だけなら……とUIを開くメンバー達。
その中で一人、心の中で歓喜している者がいた。そう、セナだ。
「(フレンド! つまり友達!)」
暴言を吐いたり迷惑行為をする輩ではないし、指示厨でもない。至って普通の、まともなプレイヤーからフレンドのお誘いがきたことに大喜びなのだ。
ウキウキとUIを開きフレンド欄を開こうとして――
「じゃあm――」
リーダーが死亡した。
鋭い刃で首を一閃、首を落とされたことによる即死だった。そして、動揺した隙を狙われた一人、また一人と首を落とされていく。
下手人は決まっている。ヴォーパルバニーだ。
「ヴォ、ヴォーパルバニー!? タイミングの悪い――」
魔法を唱えようとしたマジックキャスターもやられ、残りはヒーラーとセナだけになった。
ヒーラーは怖じ気づいて逃げようとしたが、セナはその場でヴォーパルバニーを見つめる。
「(……可愛い兎さん!)」
血に濡れたダガーを持っている二足歩行の兎を可愛いと思う神経はちょっとズレているが、セナはこのヴォーパルバニーを《テイム》したいと思ったのだ。
《テイム》の成功率は与えたダメージに比例するため、まずは攻撃を加えなければならない。
セナは弓を構え、使役獣であるホーンラビットを呼び寄せた。
「兎さんを攻撃してください!」
度重なる自爆で好感度ゼロだが命令された以上はやるしかない。ホーンラビットはその自慢の角をヴォーパルバニーに向け、半ばやけくそに突撃した。
攻撃してくるなら迎え撃つ。ヴォーパルバニーはホーンラビットに刃を振るう。
しかしホーンラビットは使役獣であり、セナの命令には逆らえない。
「そして自爆です!」
今回は《テイム》したいのもあって、《ポイズン》と《マナエンチャント》のコンボは控えた自爆だ。
いや控えていてもいなくてもやってることは自爆である。
「《テイム》!」
ホーンラビットの自爆で大ダメージを受けたヴォーパルバニーには、それに抗うだけの余力が残っていなかった。
セナは無事、ヴォーパルバニーという戦力をゲットした。
「……え?」
逃げそびれたヒーラーは、その光景に絶句していた。
容姿は美少女なのに、可愛い兎を自爆特攻させていたからだ。挙げ句の果てにヴォーパルバニーの《テイム》に成功している。
ヴォーパルバニーなどの、エンカウント率が低いモンスターは《テイム》等による捕獲が難しいとされているのだ。
元テスター含め、今まで成功した者は誰一人としていない。
なぜなら、一撃でHPをレッドゾーンまで削らなければ、返り討ちにされるからだ。
「テイマー……なの?」
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