112.サルサット高原

「あとはこれも使って……」


 次にEXPブースターを取り出したセナは、それをラーネに使用した。

 一つ使用するだけでレベル1からレベル30まで上昇するほどの経験値が得られるこれは、第二回公式イベントの報酬として獲得したものである。

 すでに高レベルのセナや他の従魔に使っても大した効果はないが、生まれたばかりでまだレベル1のラーネには丁度いい。


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『ラーネ』レベル52

分類:魔界アルラウネ


【光合成】【捕食】【地下茎】【寄生】【歌唱】【愛嬌】

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 使用後のステータスはこうなっており、いかにも植物らしいスキル構成をしている。

 【捕食】は種族に、【歌唱】と【愛嬌】は容姿の可愛らしさに由来するスキルだろう。

 ちなみに、まったく参考にならないレギオンのステータスはこうなっている。


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【孤群のレギオン】レベル72

分類:キメラ/ユニーク


【拡大本能】【独立意思】【影之魔物】【蟲之魔物】【獣之魔物】【亀之魔物】【屍人之魔物】【竜之魔物】【鳥之魔物】【木乃伊之魔物】【金属之魔物】【粘性之魔物】【捕食】【肉体変化】【因子統合】【因子改造】【耐性学習】【自在滞空】【威圧】【恐怖】【供贄】【愛嬌】【魂魄】

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 一般プレイヤーの二倍以上スキルを保有しているレギオンは、群れ全体でスキルを共有しているため獲得経験値が低下することは無い。

 しかも、【○○之魔物】系スキルはこれ一つで複数のスキルを内包しているため、実際のスキル総数はこれの三倍はあるだろう。


「ラーネはレギオンの下。レギオンのほうが偉い」

「らー?」


 序列を気にしているのか、レギオンは自分の方が上だとラーネに言い含める。

 が、ラーネは何も分かっていないのか、歌うように声を発していた。


「きゅ!」

「らーらー?」

「きゅっきゅ!」

「……らー!」

「うきゅあっ!?」


 そして、新入りにすら見下される兎たち……。

 自分からマウントを仕掛けておいて敗北するとは情けないが、もはやこれが兎たちの運命なのだろう。

 彼らは常に序列最下位、何度でも再利用可能な特攻要員に過ぎないのだ。




 さて、サルサット高原は帝都から北に進むと辿り着くフィールドである。

 高原という名称から分かるとおり、ここはそれなりに標高のある高地だ。

 厳密にはサルサット山の一部であるのだが、あちらとは生息しているモンスターや植生が異なるため別フィールドとして扱われている。


 そんな高原の中央にぽつりと佇む大岩がある。二階建ての一軒家ぐらいはある大岩だ。

 近くまで寄れば、中央で真っ二つに割れていることが分かるだろう。

 断面は綺麗であり、外部から無理やり破壊したのではなく自然現象によって割れたのだと推察できる。


「――あんまりいいモンスターはいなかったね」


 そこそこ強いモンスターを斃しつつここまで来たセナたちだが、狩る必要性がないぐらいレベルに差があったので、あまり美味しくはなかった。


「ら~ら~♪」


 しかし、ラーネにとっては格上との戦闘だったので、無事に切り抜けられたことを喜んでいる。


「(熟練度が低いみたいだからバフの上昇量はそこまでだったけど、バフを掛けられる従魔は初めてだからちゃんと育てないと……)」


 道中での戦闘は主にレギオンが前衛を担い、セナが後衛から弓で攻撃しつつラーネがバフを掛けていた。

 【歌唱】は歌で味方にバフを掛けるスキルのようで、簡易ステータスには攻撃力上昇のバフが表示されていた。


 プレイヤーと同様、従魔のスキルにも熟練度が存在するので今は効果量もバフ数も少ないが、いずれは必須級のバフ量に成長するだろう。


「精霊はいないみたいだね」

「レギオンの影でも見つからない」


 精霊に話を聞くため辺りを探してみるセナたちだが、精霊はまったく見つからない。

 レギオンはかなりの広範囲を索敵できるので、それでも見つからないということは、精霊はここにいないのか探知が不可能な部類なのだろう。


 なので、精霊は一旦諦めてダンジョンを攻略することにする。

 メルジーナやロンディニウム卿がいうには、このサルサット高原にはダンジョンがあるらしい。

 その名を『巡り堕ちる勤勉の螺旋』、国外でも有名な高難易度ダンジョンの一つだ。


「でも、入り口はどこにあるんだろう……。レギオン、どこかに不自然な場所ってない?」

「むむむ……」


 しかし、『巡り堕ちる勤勉の螺旋』の入り口は巧妙に隠されているのか、中々見つからない。

 レギオンの影は地表を覆うように広がるので、少なくとも露出してはいないのだろう。


「……もしかして」


 セナは大岩を確認する。

 レギオンの影でも見つからないということは、この大岩によって隠されているのではないかと思ったのだ。


 亀裂の内側はギリギリ人が一人入れるサイズで、地面をよく観察すると金属製の蓋が隠されているのが分かる。

 土が覆い被さっていたのもあるが、この蓋自体が特殊な道具だったらしい。


 なんとか持ち上げられたのでインベントリに入れて詳細を確認すると、【偽装】や【隠蔽】などのスキル効果が魔法によって付与されているようだ。

 経年劣化で効果が薄れているが、レギオンが探知できなかったのも納得できる。


「マスター?」

「ここがダンジョンの入り口みたい」


 セナたちは蓋で隠されていた穴の中に入る。

 しばらくは普通の洞窟のような様相だったが、数十メートル進むと開けた空間にでた。

 そこは異質な空間で、ダンジョンだということを加味しても異様だった。


《――ダンジョン:巡り堕ちる勤勉の螺旋に侵入しました》

《――このダンジョン内で死亡した場合、リスポーン位置はこの位置となります》

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