111.アルラウネのラーネ
なんとか話を切り上げて宿に帰ってきたセナは、ベッドに突っ伏してそのまま寝入る。
今使えるアーツや主に使う武器、特殊装備品など、根掘り葉掘り聞かれたので疲れたのだ。
「……疲れた。貴族ってめんどくさい」
やっぱり自由気ままに行動できる今の身分が丁度いいと、セナは考えながら眠りにつく。
《――【魔界アルラウネの苗】の蕾が開花します》
《――魔界アルラウネが誕生しました》
「…………タイミングぅ」
しかし、間の悪いことに【魔界アルラウネ】が誕生してしまった。
放置して暴れられても困るため、セナは眠気の残る体を起こして窓際に置いていた鉢植えに向かう。
すでに日が落ちているため、ベッド横のランプを灯して明かりを確保する。
窓際の鉢植えには、蕾の時とは見違えるほど魔物らしい容姿をしているアルラウネが、静かに佇んでいた。
美しい桃色の花の中心には、人間の女性に酷似した本体が生えている。植物らしく薄緑色の肌をしているが、パーツそのものは人間とほぼ変わらない。
光合成を行うための葉は大きく、触手のような蔓にも小さな葉が付いているため、より沢山の太陽光を取り込めるだろう。
しかしそれ以上に目立つのは、ハエトリグサのような形状をしている二本の蔓だ。
他の蔓より生物的な質感をしており、獲物を噛み千切るための牙と飲み込むための喉まで備えている。
「……らー?」
アルラウネは苗時代のことを覚えているのか、ゆらゆらと蔓を揺らして鳴き声を発した。
人間とは喉の構造が異なるので、声というよりは音と表現するほうが正しい。
「《テイム》」
「ら~♪」
テイムは問題無く成功した。
抵抗する気配もされる感覚も無かったため、従魔の一覧に【魔界アルラウネ】が追加される。
「マスター、名前はどうするの?」
「え、お花一号」
「っ!?」
「……レギオンはやだ」
とても酷い名付けが行われそうになったため、レギオンがそれを阻止した。アルラウネも嫌そうな顔をしている。
なお、兎一号と兎二号は愛玩動物と認識しているため、レギオンが改名を求めることは無い。デフォルトネームのまま放置されているギガントセンチピードは愛玩未満なので同様だ。
「らー……」
「らーって鳴くから、らーにしよう」
「レギオンもそう思う」
「らー!?」
レギオンの名付けも酷かった。安直すぎる。
必至に顔を揺らして拒否されたため、レギオンは渋々諦めた。
「分かりやすいのに……」
「レギオンぐらい分かりやすいのに……」
ネーミングセンスはレギオンよりアルラウネの方が高いようである。
夜も更けてきたが、これまで世話をしてきたことで少しだが情が湧いているため、セナは頭を使って名前を考える。
「うーん……?」
「らー……?」
セナが体を傾けると、アルラウネも追従して体を傾けた。ついでに蔓も傾いている。
「ラーネでいいや」
「…………らー」
しばらく悩んでラーネに決まった。
少し不服そうだったが、今までの名前を比べれば断然マシなので受け入れるラーネ。
それから取っておいた【ローカストブローチ】を始めとする装身具等を装備させた。
そして翌日、セナはレギオンとラーネを連れて帝都の店を巡る。
自分では採取できない、或いは採取するのが面倒な素材を主に買い込み、ついでに食べ歩きをしていた。
レギオンはやはり肉を好み、ラーネは果物を好んで食べている。
ハエトリグサのような蔓は固形物を噛み砕くことも容易らしく、固い果物も一口ずつ囓っていた。
ちなみに、ラーネは鉢植えから動けないのでセナが抱えている。
「(……結局、餌代は浮かなかったな)」
召喚された飛蝗はおやつ感覚で食べられていたが、レギオンがおねだりしているのを見て同様におねだりしたので、出費は嵩む一方だ。
懐は温かいがそれでも不安になる。
「まあいいか。そろそろ出発するよ」
それからセナたちは帝都を発ち、サルサット高原へと向かう。
エリオ辺境伯から依頼された件もあるが、レベリングのためダンジョンも攻略することにしたのだ。
だがその前にやることがある。
人目の付かない辺りまで来たセナは、インベントリから完全遺骸を取り出した。
この完全遺骸は皇帝ヴィルヘルミナから下賜されたものであり、どれも珍しい種類のモンスターである。
「えっと……バイコーンに、ドレッドワイバーンに、
合計で五つ、どれも品質の高い状態で保管されていたものだ。
聞き馴染みのない名前も混ざっているが、詳細を確認すればこの世界オリジナルのモンスターだと分かる。
その特性や性質は使いづらかったり、あるいは理解が難しかったりするが、使用するのはレギオンなので問題無いだろう。
バイコーンは馬型、ドレッドワイバーンは名前の通りワイバーンであり、
ハンドレッドミイラは一見すると枯れ木にしか見えないが、触れた相手の水分を奪って増殖する性質を持つ、歪な腕の形をしたモンスターだ。
これらは当然、レギオンが捕食する。
捕食すればレギオンの総数が増えるし、特殊な性質等があればそれを獲得することも可能なのだ。
経験値にもなるため、完全遺骸のドロップ率が低いことを除けば良いことずくめである。
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