36.穴があったら入りたい

 武器を完成させたセナは、ドゥマイプシロンへ向かうためデルタリオンを出立しようとする。

 しかし……。


「(うっ、人がいる……)」


 物陰に身を隠したセナの視線の先には、プレイヤーの姿がある。

 プレイヤーは頭上に緑のマーカーが表示されるため、NPCとプレイヤーを見分けることは簡単だ。

 逆にNPCにはマーカーがついておらず、敵性モンスターは名前が表示される。


 ガンマリード周辺は生命教団のせいでモンスターがほぼ絶滅状態だったので、ここデルタリオンにプレイヤーが辿り着いていることは何もおかしくない。


「(どうしよう……)」


 序盤でフレンド作りに失敗したのを引きずってしまっているセナは、今更どうやってフレンドを作ればいいのか分からない。

 なので、反射的に身を隠してしまっているのだ。


「マスターどうしたの?」

「ひ、人がいるんだよ……!? むり! こわい!」


 涙目でぷるぷると震え始めるセナ。ぼっちもここまでいくと病気である。


「……? レギオン、違いが分からない」


 レギオンは首を傾げるばかり。

 NPCにはマーカーなど見えないのだから、レギオンからすると本当に意味が分からないのだ。

 今まで普通に接してきたのに、何故か突然怯え始めるセナに困惑している。


「(ど、どっちに逃げよう……あっちもこっちも人がいるし……)」


 とうとう混乱でお目々がぐるぐるし始めるセナ。

 悩んでいてもいい考えが浮かばず、あーだのうーだの唸るばかり。


「――あれ、プレイヤー?」

「ぴゃあっ!?」


 悩んでいるうちに声を掛けられる。

 驚きの余り跳びはねたセナが恐る恐る振り返ると、そこにはやはりプレイヤーの姿があった。


「えっと、迷子?」


 ぷるぷる震えている様子に迷子を疑う一般プレイヤーの男性は、セナに手を差し出した。


「友達とかとはぐれたのかな? あれ、でももう一人いるし……ってNPCか」


 レギオンの頭上にマーカーが表示されていないため、彼はセナを一人だと判断する。

 とりあえずネームだけでも確認しようとセナの頭上に目を凝らした途端――


「ふ、え、あう、ぁ、あ、え、うぁ、うぅ……~~~っ!」

「あ、ちょっと!?」


 セナは逃げ出した。

 ばびゅんと、それはもう目に留まらぬ素早さで人混みに紛れて姿を消す。しかもジジから教わった歩法まで活用した遁走っぷりだ。


「(逃げちゃった……! どうしよう、変な子だって思われてないよね。思われてたらどうしよう。うあぁぁぁぁぁぁ……!)」


 街の外まで逃げだし、一人頭を抱えるセナ。

 レギオンは不思議そうにしつつ付いてきている。


「……すん。いいもん。兎さんもレギオンもいるもん。一人じゃないもん」


 挙げ句、従魔がいるから一人じゃない理論をここでも発揮した。

 しれっと除外されている蜈蚣だが、セナ的には乗り物兼道具なので除外するのも当然だ。


「……レギオン、よく分からないけど、マスター可哀想」


 更にはレギオンにまで可哀想な子扱いされる。

 身長が同じなので端から見ると微笑ましい光景なのだが、セナからすると穴があったら入りたい気分だ。


 それから時間を掛け、なんとかメンタルを修復したセナは気持ちを切り替え、改めてドゥマイプシロンへ出発した。

 道中に出現するモンスターは猪や狼が多く、浮遊する植物の塊らしきモノ、根を足のように使う花もおり、空からは鳥が降ってくる。


 猪は鉄のように硬い剛毛を持つアイアンボア、狼はそんな猪を捕食するヒートハウンドだ。

 フライプラントはヒートハウンドが仕留めた獲物の残骸を餌にし、フットフラワーもまた同じ生活をしている。

 空を飛ぶマッハイーグルは植物系のモンスターを襲うため、物凄いスピードで急降下突撃してくるが、半分ぐらいの確立で失敗している。


 セナはそんな生態系を横目に、適度に狩りをして先に進んでいる。

 ちなみにマッハイーグルに何度か襲われているが、短剣を掲げていれば勝手に自滅するので、衝撃さえ考えなければとても楽な獲物だ。

 名前通りマッハで突っ込んでこられたらさすがに衝撃で死ぬが、腕が痺れるだけで済んでいる。


「(経験値は美味しいけど、なんだろうこの敗北感……)」


 順調に進んでいるしレベルも上がっているが、セナはなぜか敗北したような感覚を覚えた。

 やはりぼっちだからか。フレンドと一緒にパーティー組んで攻略したり、和気藹々としたかったのに出来なかったからか。


 しょぼくれるセナだが、モンスターは空気を読んで待ってくれない。

 反射的に回避し弓を引く。番えた矢から指を離せば、狙い通りに命中する。


 ジジから鍛えられた腕前は、メンタルが落ち込んでいようと衰えない。


「レギオン満足。美味しい美味しい」


 ドロップ品である完全遺骸を咀嚼して、レギオンは目を細めながら言う。

 とても幸せそうだ。


 今のセナのレベルは45に上がっており、レギオンはもうすぐで30になる。

 トレイン狩りも続行されているため、他三匹のレベルも相応に上昇しており、最初期からいるホーンラビットは40を超えている。

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