35.メイン武器を作ろう!

 新たなアーツを獲得したセナだが、メイン武器が貧弱であることを思い出す。

 マーケットで購入した安物の武器なのだ。これからの戦いには付いてこられない。

 NPCの店で探すのもいいし、マーケットを覗くのもいいだろう。


 だが、せっかく生産スキルがあるのだし、セナは自分で作ることにした。

 そのためには、まず素材から集めなければならない。

 幸い、幾つか使えそうな素材が手元にあるので、イメージを固めてから残りの素材を探そう。セナはそう考えた。


 前提として、レベル40帯に見合った素材を集めなければならない。コルタナ地下遺跡のボス素材で、ギリギリ及第点といったところか。

 アレからドロップしたのは金属素材なので、本体の補強パーツとして付け加える形になるだろう。


「(弦に使う素材は強靭な糸が理想だけど、そんな都合良く手に入るかな……?)」


 問題は糸だ。

 ここデルタリオンは鍛冶と木工が盛んではあるが、織物はそこまえ盛んではない。果たして糸はあるのだろうか。


「うーん、強靭な糸かぁ……。うちが取り扱ってるのは服用の柔らかいものだしねぇ」

「糸か……ふむ、幾つか在庫はあったはずだが、釣り糸用だからな。期待に添えるとは思えん」

「古道具屋に何を期待してんだい。素材が欲しけりゃ素材屋に行きな」

「糸? 何に使うのさ。弓の弦? うーん、あったかなぁ……」


 紆余曲折の末、セナはデルタリオンの素材屋を紹介されたが、そこの店主らしき女性の反応を見るに、あまり期待は出来なさそうだ。

 待っている間マーケットを覗くが、プレイヤー間で流通している素材は低レベル帯のものばかりで、セナが求めるレベルのものは無い。


「あー、あったあった。これなんてどうかな?」


 しばらく待っていると、店主が散々散らかした棚の奥から一束に纏められた糸を発見した。

 きらきらと光を反射するその糸は店主曰く、鉱石を捕食するオーアシルクというモンスターが吐き出す糸らしい。

 その食性から糸には鉱石の成分が混じるため、通常の蜘蛛糸より遥かに頑丈で長持ちする。


「結構前に持ち込まれて買い取ったんだけど、肝心の売る相手がいなくて忘れてたよ。相場だと二〇から三〇ってとこだけど、私も忘れてたし一五でどう?」

「買います!」


 セナは即断した。安い買い物だと判断したからである。


「交渉成立~」


 残るは木材と、あとは金属を加工してくれる職人である。

 セナは買い物ついでに店主に訊いてみると、そのくらい大きさなら彫金師に頼んだ方がいいと言われた。


「これを加工して欲しいんですけど……」

「金属の加工か……仕事として確かに請け負ってはいるが、ぼんやりとしたイメージだけじゃ何も出来ないぞ」

「図面なら用意しています」


 この街では彫金師の数はそれなりに多い。だが、鍛冶師や木工職人に比べると著しく少なくなる。

 セナが訪問したのは、そんな彫金師の中でも腕がいいと評判の人だ。


 事前に用意していた図面を取り出したセナは、彫金師にそれを渡す。


「これは……分かりやすいな。用途も目的もハッキリしている。サイズや形状もここまで細かく指定されるとやりやすい」

「幾らになりますか?」

「この量なら一〇万ってところだな。寸法もハッキリしている仕事はやりやすくて助かる」


 先払いで一〇万支払い、セナは最後に木材の調達をする。

 懐はまだまだ温かかったが、街中で流通している木材の中で一番良い素材を購入すると、三〇万も吹き飛んだ。


 なにせ、年間を通してたった三本しか伐採されることのない超高級木材を、枝の部分とはいえ高品質なものを購入したのだから。


 彫金師に加工してもらった金属パーツを受け取り、セナは街の外に出る。


 見渡しのいい場所で木工キットを展開し、レギオンたち従魔にモンスターの索敵と駆除を任せたセナは、まず木材の加工から始める。


「(長弓だと大きすぎるけど、短弓サイズだと小さすぎるかな……? ちょっとだけ大きく作ろう)」


 まず枝の皮を剥き、表面を滑らかにする。

 皮付きで作ることも出来るが、今回は金属パーツを取り付けるため、皮はなるべく剥がしておく。


 表面が滑らかになったら、熱湯につけてゆっくり曲げていく。そして理想の形になったら、しっかり乾燥させて次の工程に移るのだ。

 乾燥するのを待つ間に剥がした皮も加工する。金属パーツをそのまま弓本体に付けると痛んでしまう恐れがあるので、この皮は弓の耐久性を向上するためのクッション材にする。


 ちなみに、作業中でも従魔がモンスターを処理しきれなくなったら自爆させている。とても酷い。

 ただし、レギオンは群体という性質上、自爆させても生き残る。群体レギオンを構成する肉体は一つでは無いので、セナが自爆を命じるとちっちゃなレギオンを切り離してから自爆している。


 レギオンは自爆した分だけ小さくなるが、時間経過で損耗した分は回復するし、なんなら斃したモンスターを食べれば更に大きくなれるので、今のところ自爆させても好感度が下がっていない。

 強いて言うなら、自爆させた直後はちょぴり不満げに見えるぐらいだ。


「(乾燥よし。あとはパーツを取り付けて、糸を通せば……)」


 金属パーツを接着し、オーアシルクの糸を反時計回りに捻りながら取り付ける。中仕掛けを作るのも忘れない。

 最後に弓の両端をカバーで覆って固定すれば、完成である。


「(張り具合よし、あとは飛距離と威力の確認かな。しっかり飛ぶ弓じゃないと意味ないし)」


 従魔に命じてモンスターを一匹寄越したセナは、そのモンスターを的に見立てて試射をする。

 距離や力具合など色々試し、調整が必要であればパーツを取り外して直すのだが……。


「かんぺきっ!」


 完成した弓はセナの理想通りであった。思わず握り拳を作って小さくガッツポーズするほど。

 金属パーツのお陰である程度の重量があり、握りやすさも向上している。

 なによりサイズがセナにピッタリだ。とても扱いやすい。


「(これならいけるかな)」


 市販されているレベル40帯の武器と比べても高性能な弓があれば、強大なモンスターとも戦える。セナはそう確信した。

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