131.再びの神域
念のため奥から入り口に掛けて再度探索し、完全に駆除し終えたと判断したセナは冒険者組合に戻った。
クエストを受注したその日のうちに終わらせたことを訝しまれたが、レギオンの実力を見せつければそんな疑念などすぐに晴れる。
ついでに鉱石類の売却をすると、報酬を含めて二〇〇〇万シルバーもの大金がセナの懐に入る。質のよい貴金属の割合が多かったので、買い取り価格に色を付けてもらえたのだ。
お金を受け取って次に向かうのは当然、教会だ。巨大なクリスタルが安置されている広間に入り、祈りを捧げるセナ。
レギオンはセナの隣で、見様見真似ながらお祈り……っぽいことをしている。
《――レベル100達成》
《――信仰度達成》
《――神威修得の条件が達成されました》
《――【女神の寵愛】を確認》
《――神格:エイアエオンリーカの神域へ接続します》
これまでとは違ったアナウンスが流れ、いつの間にかセナたちは異なる場所へと移動していた。
そこは極彩色に彩られた女神の領域、疫病と薬毒を司るエイアエオンリーカの神域である。
「久しぶりだね、セナ」
「ジジさん」
セナを出迎えたのは信徒、そして狩人としての先輩であるジジであった。
以前と同じ狩人らしい風貌ではあるが、神官らしさも取り入れられている服装は神の信徒である証。
そして、今のセナだから分かることもある。
「(……この人、女神様の使徒だ)」
地獄の訓練を熟していた当時のセナでは分からないぐらい、彼女の実力は人間離れしていたのだ。
強くなって初めて、彼我の実力差を感じられるほどの強者。恐らくは、七賢人に比肩する――或いは上回るほどの。
「その様子だと、気付いたかな」
「はい。女神様の使徒、ですよね?」
「その通り。尤も、今の私はただの死者だから、厳密には元使徒なのだけれどね」
女神がいる小屋までの道中、師弟は言葉を交わす。
これまでセナが斃してきた敵のこと。従魔であり大切な友達でもあるレギオンのこと。ジジの子孫、或いは弟子の子孫と出会ったこと。
アグレイアの七賢人に遭遇したと言うと、ジジは驚いた様子を見せる。
「……彼ららしい在り方だね」
セナが出会ったのはシャリアとディアナ、そしてマクスウェルだけだが、その三人の様子を語ってみせるとジジは懐かしそうに笑った。
シャリアは基本的に真面目ではあるが抜けている一面もあり、特に私生活はだらしない。
ディアナは我が強く誰に対しても傲慢かつ上から目線だが、根は善良そのもので誰よりも慈善事業に励んでいた。
マクスウェルは自分勝手なところがあるが、逆にその自分勝手さがリーダーシップとなっていた。
「知り合いなんですか?」
「いいや、たまたま会う機会があって、旅人としての流儀を教えたに過ぎないよ。昔、まだアグレイアという枠組みも無かったけれど、その時からまるで変わってない」
弟子とも呼べない、偶然出会っただけの関係ではあったが、ジジは七賢人になる前の彼らに教えを請われる立場だったらしい。
改めてジジを凄い人物だと認識するが、セナは少しだけもやもやとした感覚を覚えた。
それは弟子である自分より大切そうにされている七賢人への嫉妬かもしれない。
が、ジジからすれば一千年以上昔の出来事。今の弟子への想いより懐かしさの比重が大きいかもしれないが、それは本当に懐かしいだけなのだ。
一千年以上、それこそアグレイアという国が興るよりも前の時代に、たまたま出会った数人の長命種。かつての時代に出会った子どもが、古代の英雄となった今でも変わらないことを懐かしんでいるだけ。
そこに他意は一切無い。
セナとジジは思い出話を交えながら、以前より長い小屋までの道を進む。
その数歩後ろを、レギオンが困惑しつつ歩いていた。
「……なんでレギオンも?」
「レギオンだって分からない」
レギオンはモンスターである。
モンスターは邪神がこの世界にばらまいた異物であり、今は完全にこの世界の一部となってはいるが、神々の加護が及ぶ生命では無い。
モンスターに加護を与えられるのは、モンスターの原種を創造した邪神だけ。
故に、本来レギオンは神域に招かれるはずが無い。それはレギオンが一番よく分かっている。
だから困惑している。
邪神の駒であることを否定し、邪神の加護を突っぱね、人であるセナと共に生きることを選択しても、モンスターであることは変わらない。
邪悪なる神々を信奉する者共らによって生み出された、
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