130.廃坑探索

「むむむ……」


 この廃坑はダンジョンではないが、採掘のために入り組んだ地形になっている。

 鉱脈に沿って掘り進まれてるので足元も均一ではなく、油断すれば転ぶこともあるだろう。


「ここは行き止まり、こっちは崩れてる」


 灯りが足りていないので、セナたちの歩みもゆっくりとしている。ただ、クエストの目標であるモンスターの捜索と討伐は順調だ。

 なにせ、レギオンがいるのだから。

 分かれ道の一つ一つ見落とすことなく探索できるレギオンは、住み着いたモンスターも簡単に見つけ出せる。


「――あ、ゴールドラッシュ」


 探索開始から約一時間。セナたちはのそのそと歩く大型の亀のようなモンスターと遭遇した。

 ゴールドラッシュと呼ばれるこのモンスターは、モンスターではあるが気性は穏やかで、むしろ鉱夫から可愛がられる存在である。


 主食は鉱石や宝石が含まれる屑石で、食べた鉱石の種類に応じて背中に生える鉱脈も変わる。

 そのため、討伐ではなく捕獲を推奨されているモンスターなのだ。一部の地域では家畜化もされている。


「大きい鉱脈だね。でも……」


 元々生息していたのなら、とっくに別の場所に移されているはずなので、廃坑になってから住み着いたのだろう。

 背中の鉱脈は中々に大きく、根こそぎ採掘すればかなりの大金になりそうだ。


「……短剣じゃ採れないよね」


 だが、セナは採掘用の道具を所持していない。生産スキルは【調合】と【木工】を、採取スキルは植物系の【採取】を最初に選んだので、鉱石を採掘できる【採掘】スキルも無い。

 

「レギオンに任せて」

「レギオンの影はこんなことも出来る」


 むふん、と自慢げなレギオンの影が鉱脈に巻き付き、根元からへし折った。

 ゴールドラッシュの鉱脈は甲羅から生えているが、消化しきれないモノが抽出され固まっているだけなので、それなりの膂力があればスキル無しでも採れるのだ。


 全ての鉱脈をへし折られたゴールドラッシュは、どこか軽やかな歩みで去って行く。

 あれだけ大量の鉱脈を抱えていては、歩みが遅くなるのも道理というもの。


「……よし、《テイム》」


 鉱石を全て取り尽くされたゴールドラッシュをテイムし、セナは奥へと進む。

 従魔は基本的に逃がしたりすることは出来ないが、【テイマー】系スキルの持ち主同士なら譲渡が可能である。

 このゴールドラッシュはセナが使役するのではなく、冒険者組合に提出するためにテイムしたのだ。


「あとは……」


 マップを見ながら探索し、住み着いたモンスターの駆除も順調に進んでいる。

 少し……いやかなりレベルの高いモンスターばかりだが、セナたちの手にかかれば簡単な討伐だった。

 廃坑全体の八割近くが探索済みなので、残りのモンスターも多くはないだろう。


「マスター、変なのいる」


 しかし、レギオンがおかしな反応を拾った。


「どんな感じ?」

「うねうねしてて、グニョグニョで、ポヨンってしてる」


 擬音ばかりでよく分からない説明だが、少なくとも普通の生物ではないと分かる。

 警戒度を強めつつ、レギオンの案内に従って進んでいくと、なるほど確かにだ。


「(名前は……邪なる胚イーヴィル・エンブリオ。邪神関係かな?)」


 それを一言で表すと、スライムだ。

 汚泥のような、ジェルのような、そんな物体が不定形に蠢いている。

 『巡り堕ちる勤勉の螺旋』内で斃したショゴスに似ているが、あちらより黒色が強く、生物の器官を模した構造を有していない。


「(とりあえず……)」


 駆除のクエストを受けているので、ソレが何であろうと斃すことに変わりはない。

 スライム系であれば核があるはずと《ペネトレイトシュート》を放つセナ。


「わっ!?」


 攻撃を受けた邪なる胚イーヴィル・エンブリオは、突如としてその体積を膨張させ、四方八方に飛び散った。

 モンスターとしての表記が消えたので斃したと判断するべきなのだが……ドロップ品が無い以上、斃したとは言えない。


 警戒は解かずに飛び散ったソレを観察する。

 すると、粘性のソレらから新たなモンスターが湧き始めたではないか。体積が小さいからなのか、湧いたモンスターも小さい。


 アロイサーペント、スモールロックゴーレム、シャドウハンド、ブラッドバット等など、種類は多岐に渡る。


「――レギオンの影に沈むといい」


 だが、数が多いだけの雑魚ならば、一網打尽にすることなぞ容易い。

 強敵相手なら足止めにしかならない技も、雑魚相手なら必殺の一撃となる。


「飛んでるのは私が斃すから」


 そう言って一射、三体のブラッドバットを仕留めるセナ。

 暗闇で見通しが悪くても、獲物が動いているのなら狩るのが狩人だ。


「……これで斃しきったかな」


 大量に湧いた雑魚はセナとレギオンによって狩り尽くされ、邪なる胚イーヴィル・エンブリオは復活する様子を見せない。


「(……あれかな、モンスターを生み出すモンスターだったのかな。体積が無くなったら自然消滅するタイプの)」


 四方八方に飛び散ったのは恐らく、モンスターを生み出す以外の機能を有していないからだと推察できる。

 攻撃を受けたことで、短い時間で大量のモンスターを生み出せるように、自ら飛び散ったのだと。


「……あ、レベル100だ」


 ただし経験値は美味しい。モンスターを生み出す前に仕留めるか、大量の雑魚を何とか出来るのであれば、邪なる胚イーヴィル・エンブリオはボーナスモンスターと言えるだろう。

 邪神の尖兵が復活した影響で出現したモンスターなのだろうが、レベル上げに最適なら狩り尽くすのがプレイヤーの流儀。

 無限ならばずっと、有限ならば取り合いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る