129.ローグドリーにて
マクスウェルの魔法店はとても寂れていた。
立地も相まってあまり手入れがされていないようで、廃墟のようにも見える。
だが、ドアにはオープンと書かれた看板が掛けられているので、一応は営業しているのだろう。
「…………あの~」
ドアを開けて中に入るセナ。
少し埃っぽい気もするが、店内はさほど放置されていないようだ。ただし、品数は少ないし内装も広くない。
「よオ、また来たナ」
「わっ……なんで隠れてたんですか?」
「隠れてねぇヨ。ただ単に仕舞ってただけダ。っト、だいぶガタが来てるなこいつハ……」
この喋って動いている人形は、店主のマクスウェルだ。
他の街で出会ったマクスウェルの人形より動きがぎこちないので、手入れが行き届いていないのが分かる。
「さテ……何が欲しいんダ?」
「肥料が欲しくて来たんですけど……ここって置いてますか?」
「あア、開花したのカ。ちょっと待ってロ」
そう言ってマクスウェルは動かなくなる。
少しすると奥の方でガタガタと何かが動く音が鳴り始めたので、別の人形にでも移って在庫を確認しているのだろう。
「待たせたナ。在庫ぜんぶ持ってきてやったゼ」
奥から運ばれてきたのは、今セナが持っているのと同じ大きさの樽一ダースだ。中身は全部肥料らしい。
「魔界アルラウネは大食いだからナ。苗のあいだはともかク、開花したなら食う量も増えてるだロ。これだけありゃア、暫くは保つだろうヨ」
たしかに、一樽だけでは十分とは言えない。
どこに入っているのか不思議になるほど、ラーネはよく食べる。街中では飛蝗を召喚して食べるし、食べ物を与えれば喜んで齧りつく。
肥料と水だけでは消費する速度が速すぎて心許ないのだ。
「じゃあ、全部買います」
「まいド。ここは閉じることにしたかラ、次補充したければ別の街で買うんだナ。閉店セールで安くしとくゼ」
どうやらマクスウェルは、この街の店を畳むつもりだったらしい。元々客の入りが悪く、需要も無いため他の店舗に荷物を移し始めていたそうだ。
肥料の補充を済ませたセナは、冒険者組合を訪れる。
道中の狩りで得た素材の大半はレギオンの胃に収まったが、換金用に取っておいたものもあるのだ。
「これ、買い取ってください」
「冒険者証の提示をお願いします」
言われたとおり冒険者証を出して、受付嬢に見せる。
セナはシルバーⅠなので、ドッグタグも銀色の金属で作られている。
「……はい、確認できました。手数料を差し引いて、合計で八万シルバーとなります」
適当に斃したモンスターの素材にしては思ったより高い値が付いた。
理由を訊くと、グール砂漠に生息しているモンスターは厄介だが、素材として優秀なので買い取り価格が割高になっているそうだ。
セナが持ち込んだのは一割にも満たない量だったので、もし全て売却していれば一〇〇万シルバーに近い値が付いただろう。
買い取りが済んだ後は、掲示されているクエストを確認する。
推奨レベル70前後のものが多いが、一部80以上が推奨のクエストもある。ただ、そちらは受注条件がシルバーⅢ以上となっているため、今のセナでは受注できない。
ランクアップもしないとな……と思い、セナは幾つかのクエストを受注することにした。
廃坑に住み着いたモンスターを間引くクエストで、種類ごとに分けられている。
ちなみに子どもレギオンは、併設されている酒場の店員に気に入られて干し肉の切れ端を貰っていた。
塩っ気の強い干し肉でもレギオンは嬉しいらしい。
「行くよ、レギオン」
「むぐむぐ…………ん、分かった。ばいばい」
残りの干し肉を急いで食べて、レギオンはセナに続く。
ぴゅーっと駆け足でやってきたレギオンは、満足そうな表情をしている。
「廃坑の中はモンスターがいるみたいだから、いつも通り索敵お願いね」
「うん、任せて」
さて、廃坑にやってきたセナたちは、レギオンを先頭に進んでいく。
レギオンが影を伸ばし、見通しの悪い空間内を隅々まで索敵するのだ。更に、小さなレギオンたちが我先にと進んでいくので、隠れているモンスターを誘き寄せる囮として機能している。
ただ、すでに廃坑となっているので照明は無い。レギオンがセナの代わりに松明を掲げてはいるが、それでも遠くまでは照らせない。
入り口が閉鎖されていたので、住み着いたモンスターもあまり大きくはないだろう。奇襲される可能性が高いとセナは考える。
「(レギオンは疫病耐性をつけてきたけど、《プレイグスプレッド》は使わない方がいいかな。ラーネもいるし)」
重要なバッファーを自分で落とすわけにはいかないので、一番手頃な広範囲攻撃を使うことは出来ない。
だが、この程度でセナは弱くならない。生物相手なら歩法が通じるし、《プレイグポイゾ》等のアーツも使用できる。なにより、《クルーエルハンティング》が使えるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます