128.次の精霊を求めて

 翌日、セナは帝都を出発して次の目的地へと向かう。

 精霊の目撃情報がある地域はまだ三つあり、帝都から一番近いのが北部のファランドール領なのだ。

 そこは火山の麓を開拓した街であり、良質な金属が採掘できるので岩窟の民ドワーフが定住しているそうだ。


 彼らは古い時代から精霊と密接な関係を築いてきた種族であり、ファランドール領の火山は儀式の場としても利用されている。

 選定の剣についての情報はまだ集まりきっていない。ほぼ確実に精霊がいるとされている地域なので、ここを訪れない理由は無い。


「砂漠を旅することになるなんて聞いてない……」


 だが、セナは早速後悔していた。

 ファランドール領はこのグール砂漠を突っ切らなければならないのだ。昼は暑く、夜は寒い。そこまで広くないとはいえ、数日掛けてこの砂漠を縦断するのはキツいものがある。


「あつい……」

「ら~」


 大人レギオンが作った影の日除けがあるので、直射日光は避けられている。しかし、気温まではどうにもならないので、セナ含め全員がぐったりしている状態だ。

 兎たちに至っては毛皮のせいで倒れたので仕舞われている。


「ローグドリーは……まだ一〇倍以上歩かないと」

「うへぇ……」


 サルサット高原を迂回して北部へ移動しているセナのマップでは、ローグドリーまでの距離は現在地から帝都までのおよそ一〇倍だ。


「《プレイグスプレッド》ぉ……」


 しかも、気温と距離だけでなく、モンスターの襲撃もあるので気が抜けない。

 いつも以上に疲労が蓄積しやすい環境なので戦闘も難しいのだが、つい先日獲得した装備のお陰である程度は楽になっている。


 【無貌の仮面】が敵対者と認定するのは、セナを中心として直径一〇メートルの範囲に侵入した害意を持つ存在だけだ。

 これはモンスターもプレイヤーもNPCも関係無い。セナに対して害意を抱きながら近づけば、【無貌の仮面】の効果が発揮される。

 なので、魚のようにジタバタ暴れる雑魚を適当に処理するだけで戦闘は終わるのだ。


 尖兵が復活した影響で雑魚でもそれなりに高いレベルではあるが、こんな狩りでは大した経験値にならない。

 三日後、ローグドリーの門へと辿り着く頃になっても、セナのレベルは98にしかならなかった。


「次!」


 ローグドリーは帝国で最も品質のよい武具が生産される街なので、門では厳しい取り締まりが行われている。

 セナが冒険者証を見せると、門番はじっくりと時間を掛けて確認をする。通行許可が下りるのは何も問題が無いことが確認されてからだ。

 通行許可が下りるまで数日掛かるケースもあるらしいが、それは身分証がとても古いものだったり、そもそも身分証が無い場合だけである。


「はぁ、緊張した……」


 ドゥマイプシロンでちょっとした騒ぎを起こしてしまって以降、エーデリーデ王国では街に入るだけで一苦労だったので、問題無く街に入れると分かっていても緊張するようになってしまった。

 レギオンたちは従魔なので、とうぜんセナと一緒に許可が下りている。


「マスターマスター、レギオン美味しいものが食べたい」

「レギオン疲れた。とても疲れた」

「ら~ら~」


 街に入って少し歩き、大通りらしく通路へ出ると、レギオンがセナに餌の催促をした。

 理由は明白で、通りには屋台が並んでいるのだ。


 トカゲの姿焼き、蛇の姿焼きなどのゲテモノが多いように感じるが、普通の肉を焼いて提供している屋台もある。

 また、酒らしき飲み物を販売しているとこもあるようで、仕事帰りらしい格好の男たちが談笑している様子がちらほらと確認できる。


 道中の狩りで得た肉系の素材や完全遺骸だけでは物足りないレギオンは、味が濃くて美味しい料理を求めている。

 砂漠を縦断した疲労は、美味しい餌を食べないと回復しないらしい。


「じゃあ……はい、お金」


 セナは携帯糧食で十分なので、お金を渡して自由に買い物させることにした。

 屋台の値段を見る限り、二〇万シルバー渡しておけばレギオンでも満足な量食べられるだろう。


「ら~? ら~♪」


 ラーネには肥料と水を与える。

 大きな樽に入るだけ確保していたが、もう半分近く消費しているので、近いうちに補充しなければならない。

 マクスウェルの店なら取り扱っているだろうが、ローグドリーにあるかどうかは分からない。


「(帝都で補充しておけばよかった……)」


 ラーネはかなり大食いなので、このペースだと来週には枯渇してしまうだろう。

 宿で部屋を確保したあと、セナはマクスウェルの魔法店を探して街中を散策することにした。


「マクスウェルの魔法店……? あー、そういやそんな店あったな。閑古鳥が鳴くような寂れた店だぞ?」


 普通に探しても見つからなかったため、セナは街中を巡回している兵士に尋ねる。

 教えてもらった場所は、人通りの少ない路地裏の廃坑道近くだった。


「あそこは廃坑道が近いし、住んでる人も少ないからな。治安があまりよくないんだ。女の子だけじゃ危ないぞ」


 そう注意されたが、セナのレベルは98もある。ジジやヴィルヘルミナのような存在ならともかく、多少腕に覚えがある一般人相手なら問題無い。

 従魔たちもいるので、もし襲われても返り討ちにするのは余裕なのだ。

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