127.折られた自信

 夜、城の客室にて。

 本物の理不尽がどのようなものなのか目の当たりにしたセナは、ヴィルヘルミナが【邪神の尖兵】を雑魚と呼ぶ理由を理解できた。

 神威がなければまともなダメージが入らない尖兵と、神威修得者であろうと一方的に蹂躙できるヴィルヘルミナ。どちらが理不尽かと問われれば、誰もが後者と答えるだろう。

 それぐらい圧倒的だった。


「むにゃ……レギオンはまだ食べ足りない……おかわり……」


 主を差し置いてぐっすり寝ているレギオンの抱き枕にされながら、セナは自分のステータスを再確認する。


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『セナ』レベル97

“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の信徒

└【疫病の加護】【女神の寵愛】

 └【童心の加護・微小】

ジョブ:“疫病と薬毒司りし女神の慈悲無き狩人”

└《クルーエルハンティング》《プレイグスプレッド》

サブジョブ:“烙印狩り”

└《カルマハント》


スキル:

【ダークテイマー】 【ボウハンター】

【真・短剣術】 【投擲術】

【猛毒化】 【真・魔力付与】

【狩人の目】 【採取術】

【調合師】 【木工師】

【無詠唱】


アーツ:

《テイム》《自爆命令》《キャスリング》

《ライフコントロール》《視界共有》

《思念伝達》《ペネトレイトシュート》

《プレイグシュート》《ボムズアロー》《ステルス》

《プレイグポイゾ》《マナエンチャント》

《ハンターズアイ》《コレクション》

《プロダクション》《クリティカルダガー》

《投擲》《無詠唱》


従魔:

『ジャッカロープ』レベル79

『ヴォーパルキラー』レベル76

『ギガントセンチピード』レベル71

【孤群のレギオン】レベル84

『ラーネ』レベル74


通常装備

├『プレイグ・ボウ』

├『ジジの短剣』

├『始原魔法の矢筒』

└『古の狩人装束』

 └頭、胴、腕、腰、脚、靴


装飾品

├【ジゼルの耳飾り】

├『魔宝石の腕輪』

├【ニーチェの腕輪】

├【リムリスの指環】

├【アルバートの指環】

├『古・魔宝石の指輪』

├『古・魔宝石の指輪』

├『古・ルーンの指輪(技巧)』

└【トゥータのアンクレット】


特殊装備品

├【アゼムの刃】

├【純粋無垢な光】

└【規則の聖痕】

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 あまり代わり映えのしないステータス欄だが、着実に以前よりは強くなっている。

 アーツが増えにくいのと装備品の更新が滅多に行われないため、比較しなければ違いが分かりにくい。


「アーツが増えないのは、スキルを増やしたからかな……」


 尖兵の討伐報酬として獲得した二つ目のスキルオーブ。そのフレーバーテキストには、『使用者の器を拡張し埒外への道標とする宝玉。過度な使用は器への負担となるため注意が必要』と記されている。

 この器はスキル枠のことであり、上限を超えてスキルを取得することを器の拡張と表現しているのだろう。


 今は増やしたいスキルが思いつかないので、このスキルオーブはしばらくの間、インベントリの肥やしとして放置される。


「(あと確認しておきたいのは……)」


 尖兵の討伐報酬はスキルオーブの他に、【無貌の仮面】と【使徒化チケット】がある。

 【無貌の仮面】は名称が示すとおり、貌の無い仮面だ。一見すると単色の黒で塗りつぶされているように見えるが、近くで観察すると明度の異なる黒で触手のような模様が表現されていると分かる。

 しかもその色に沿って凹凸が付けられているので、質感も相まってあまり触りたくない。


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【無貌の仮面】

・邪神の尖兵の残滓によって構成された仮面。得体の知れない恐ろしさを感じるが浄化されているので装着しても害は無い。

・装備時、敵対者に恐怖、麻痺、発狂のデバフを与える。

・MP+一〇〇%

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 だが、効果は強いので装備しないのは勿体ないと感じる。普段はフードを下ろしているので、左側にズラして装備してみるセナ。

 フードを被る時は正面に戻せば干渉しないので、これで問題無いだろう。


 そして【使徒化チケット】だが、これは正確には尖兵の討伐報酬ではなく、女神エイアエオンリーカからの報酬だ。

 回数制限が存在するアイテムで、三回使用で消滅するとフレーバーテキストに書かれている。


 自身より格上との戦闘に限り使用できるという条件があり、使徒化が継続する時間も三分間のみという制限付きだが、一時的に使徒としてのステータスを行使できるのだから妥当だ。


「(これは大切に取っておこう)」


 そもそも自身が奉じる女神からの報酬なので、【規則の聖痕】のように、本当に切羽詰まった状況に陥った時だけ使おうと心に決めるセナ。

 三回使用で消滅してしまうのだから、余計に大切にしなければならない。


「(…………勝てる気がしないなぁ)」


 さて、以前より強くなったセナではあるが、ヴィルヘルミナの戯れのあとでは全くそう思えない。

 本当の理不尽と言うだけあって、彼女の扱う魔法は対処のしようが無い。

 セナの手札を全部切っても、レギオンが全力で攻撃しても、あの〈黒〉を突破することなぞ不可能だ。


『余は強い。しかし、シャリアに先手を取られれば余とて負けるし、マクスウェルに至っては先手だろうと後手だろうと負かしてくる。最強とは到底名乗れぬな』


 そんなヴィルヘルミナであっても、最強は名乗れないというのだから驚きだ。

 本当に、勝てる自信が湧いてこない。


「(それでも、女神様はわたしを認めてくれた。あの人たちには勝てないけど、わたしたちはちゃんと強くなってる)」


 目を閉じ、セナは眠りにつく。

 強さは一朝一夕で手に入るものでは無い。諦めずに努力し続ければいつかは神威を修得できるし、使徒にだってなれるのだから。

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