44.指名手配

『――バカだろお前』

「バカじゃないです……」

『んじゃなんでテロ起こしてんだヨ』


 マクスウェルの案内で路地を抜け、人気の無い小さく狭い港にセナは辿り着く。


『……まあそこは別にいいサ。秩序陣営の力が削がれるのなラ、こっちとしてもありがたいからナ』


 マクスウェルは振り返り、小舟を指さした。


『流れに逆らって進めばラゼータ近郊の洞窟に着ク。オレの隠れ家の一つでナ、ちょいと人目を盗みたい時に使ってんダ。誰にも見つからずに脱出できるゼ』

「……? 普通に門から行くのはダメなんですか?」


 しかし、セナは小首を傾げ、なぜこんな真似をする必要があるのか問う。

 彼女には罪を犯した自覚は無い。ただ、ちょっとだけ、緊張で加減を間違えてしまっただけと思っている。


『いヤ、テロ行為やらかしたんだから街中じゃ捕まるゾ』

「テロなんてやってないです。布教です」

『世間じゃアレをテロと呼ぶんだよ』


 呆れた様子のマクスウェルは、人形の体を器用に使ってセナを小舟に乗せた。

 そして自らも乗り込むと、小舟の後ろに付いている謎の箱を弄り始めた。


『そういや従魔はどうしタ?』

「レギオンなら――」

「レギオンマスターの影にいる」


 セナの言葉を遮って、影の中からにょきっとレギオンの頭が生えてくる。


『いるならいイ。ちょっと乱暴な運転だからナ、離れていると置いてっちまウ』


 すると箱から謎の駆動音が聞こえ、ゆっくりと小舟が進み始めた。

 手こぎの方が早いのではと思うほどゆっくりとした速度だが、次第に速くなり、やがて水しぶきを上げながら乱暴に進む。

 少し操作を間違えたら勢いでひっくり返りそうなぐらいだ。


 マクスウェルは危なげない様子で操作し、小舟を順調に進ませている。

 それからしばらく経つと、速度がだんだんと落ちていく。そろそろ到着するのだろう。


『……着いたゾ』


 小舟は明らかに人の手で掘られた岸に泊まった。

 あるのは幾つかの木箱ぐらいで、他には何も無い場所だ。


『あっちの登り坂を進んでいけば外に出れル。ちょっと入り組んでるから迷子になりやすいガ……レギオンがいるなら大丈夫だロ。んじゃオレはドゥマイプシロンに戻るゼ』


 小舟を器用に操作して旋回させたマクスウェル。


『――ああそうダ。ラゼータにもオレの店はあるかラ、気が向いたら寄ってくレ』


 進み出してからマクスウェルは思い出したように言う。

 小舟はすぐに見えなくなった。


「……じゃあ、行こうか」


 セナはとりあえず洞窟を出ることにした。

 マクスウェルによると、次の街の名前はラゼータらしいので、一先ずはそこを目指すことにしたのだ。


「探索お願いね」

「ん、レギオン分かった」


 レギオンは小さなレギオンらを出して探索を始める。

 小さなレギオンらは自由気ままに走り回っているが、通った場所は自動的にマッピングされていくので、凄まじい効率でマップが埋まっていく。


 しばらく待っていると出口までの道が判明したので、セナはマップを頼りに進んで行く。

 洞窟内部にモンスターはいないらしく、順調に脱出できた。


「……あれがラゼータかぁ」


 洞窟の出口は丘の頂上付近にあり、出口からはラゼータを囲う白亜の壁が見える。

 目算で二〇〇メートルから三〇〇メートルぐらいだろうか。

 セナはレギオンを連れて丘を降り、ラゼータに向かう。


 ラゼータに着くと、どうやらドゥマイプシロンの騒動はまだ伝わっていないらしく、セナは普通に入ることが出来た。

 これまでの街と同じような作りだが、中央の広場には巨大な塔が聳えている。


《――指名手配:ドゥマイプシロンを受けました。以後ドゥマイプシロンには立ち入れません》


 すると、アナウンスが指名手配を知らせる。

 どうやらもうドゥマイプシロンには入れないようだが、セナには理由が分からなかった。

 たしかに加減は間違えてしまったけど、ただの布教活動だから、悪いことなんてしていないと思っているのだ。


《――賞金首:ドゥマイプシロンを受けました。五〇〇万シルバーの賞金が懸けられます》

《――生命教団撲滅の功績と相殺されました。賞金首が撤回されます》


 それから幾つかアナウンスが流れる。

 どうやら賞金首になったそうだが、生命教団を撲滅した功績があるので今回は撤回されたらしい。

 指名手配は解除されていないのでドゥマイプシロンには入れないが。


「(悪いことなんてしてないのに……みんなも布教してたじゃん)」


 セナは少しふて腐れた。

 幸い、指名手配はドゥマイプシロンのみなので、今後気を付ければ問題無いだろう。

 気を付けれるほどの常識を学べば、だが。

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