90.閑話・レギオン

 レギオンは群れである。ただし、群れ全体で意識を共有した上で人間体のみ独立した意思を持つ群れだ。

 レギオンは主の命令と群れの拡大を最優先にする。


 ……仮に、人間体をα、βと呼称するとして、αは子どもらしい趣味嗜好を持つ。焼き肉やスイーツなどの美味しい食事を好み、楽しい遊びを好み、しかし好戦的な性格をしている。

 逆にβは大人びており、庇護欲があり、セナの守護を第一に考え、少し消極的な性格をしている。


「じー……」


 αはよく他の従魔を可愛がる。特にホーンラビットとヴォーパルバニーだ。

 中身はともかく、見た目は可愛い兎なので抱きかかえやすいのだ。


「……うりうり」

「うきゅぁあ!?」


 ……頬ずりされる側は怖くてたまらないが。


「ふわふわで、ぽわぽわで、レギオンこれ大好き」

「レギオンはマスターのほうがいいけど……」


 βは近くで座り込み、何が楽しいのかと云う。

 同じ群れとして意識が統一されていても、αとβでは感性が異なっている。だからαは可愛いものを好むし、βはそこまで興味を持たない。

 どちらかというと、βは主であるセナを可愛がりたいと思っている。




「――もぐもぐ」


 αは肉を好む。特に、脂の多い部位を。

 淡泊な肉も食べるが、やはり脂っこい肉が好みなのだ。

 だからよく食べる。群れを維持するために、群れを拡大するために。


「……はむ」


 βはαが積極的に食べないものを好む。淡泊な肉、子どもが苦手な野菜。

 群れを維持するために、群れを拡大するために、無駄なく全てを平らげる。


「今日はたくさんドロップしたなぁ……」


 山のように積み上げられた完全遺骸を前に、セナは溜息を漏らした。

 いつにも増して大量にドロップした完全遺骸を消費するために、レギオンが総出で捕食している。

 ラヴァシータへの道中で大量発生していたモンスターを斃したのだ。


「それはレギオンが食べる。食べたい」

「好き嫌いだめ。レギオンの為にもちゃんと食べる」


 あまり好きでは無い部分を避けて食べ進むαに、βが食べるようにとソレを押し付ける。

 無論、影による捕食も並行して行っている。そうでもしないと消費が間に合わないし、そもそも影だってレギオンだ。


 そうして時間を掛けて捕食を終えたレギオンは、普段通りの姿で普段通りに過ごす。

 けれど、その内には……彼女の内ではレギオンが蠢いている。


 ――レギオンは群れである。一つの意識へと統合された群れだ。

 捕食した因子を統合し、レギオンの一部へと昇華させる。それが彼女の生態で、能力だ。

 蠢動する群れ、蠢く群れ。……その中に、あまりにも我が強すぎるために統一されていない個が在る。


 レギオンはそれを知っている。

 セナはそれを知らない。


 その個の因子はレギオンに統合されたが、その意思は未だ統一されず。

 故に、レギオンはゆっくりと、じっくりとソレを消化する。機を窺う意思をねじ伏せるため、αとβを除くレギオン総出で。

 大いなる、竜の遺志を……。

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