41.競りとレベリング

 セナは悩む。どうすれば信仰をより良いモノに出来るのか。


「(わたしが出来るのは主張することと、疫病を操る力ぐらい……)」


 彼女一人に出来ることは限られており、教会を眺めていても妙案は浮かばなかった。

 ずっと悩んでいても仕方がない。セナは気分転換のため市場に向かう。そのついでに要らない素材を売ろうと思った。


「これ幾らで売れますか?」

「バルボラタートルの甲羅? いや、それにしては大きいな……まさか、街道に居座ってたあのタイラントか!?」

「デルタリオンから来るときに邪魔だったので、わたしが斃して来ました」

「そいつはすげぇや。さすが来訪者ってとこか」


 市場の一角でモンスター素材を並べている厳つい男性に話しかけ、セナはタイラント・バルボラタートルの素材を見せた。

 男は感服し、虫眼鏡を取り出して査定を始める。


「……そうだな、うちなら最低でも一〇万シルバーで買うが、どうする? それとも競りに出すか?」

「出せるんですか?」

「ああ。つっても、商人じゃないなら委託するのが一番手っ取り早い。面倒な手続きも省けるからな」


 曰く、市場の競りに出品すること自体は誰でも可能だが、商人としての資格を持っていない者は手続きが必要らしい。

 この手続きがとても面倒なので、既に資格を持っている人に仲介料を払って委託するのが一般的だそうだ。


「うちに委託するんなら、一万シルバーでいいぜ。買値の二割か三割なんだが、街道を通れるようにしてくれた礼だ」

「じゃあ、それでお願いします」


 セナは了承し、一万シルバー支払って委託した。

 競りはどんなに遅くとも三日以内には終わるとのことなので、その間は聖典を読み込むことにする。


 それによると、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”は混沌陣営に属する神とされている。

 一般的に信仰される神々は秩序陣営に属するものが多く、薬に関する権能を持つ神々もそれなりに多い。

 つまり、セナ一人の信仰で太刀打ちするのはかなり厳しいのだ。


「(……やっぱり、必要悪としての記載が多い。悪い女神様じゃないのに)」


 死に関する神々の話は、英雄の死だったり王の死だったりと、様々な場面で挟まれる。

 セナが信仰する“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”もまた、ネガティブなイメージが湧きやすい場面で差し込まれている。


 世界を循環させるための悪、といった描写がされているのだ。悪は悪だが必要な悪だと。

 たしかにその側面はあるのだろうが、だとしても強調しすぎだとセナは感じた。


 ……だがしかし、払拭するのは限りなく不可能だろう。すでに神話として語られ常識の一部になっている以上、それを覆すのは革命に等しい。


「あっ、レベル上げもしておかないと……」


 従魔のレベルがかなり下がってしまっているので、競りが終わるまでレベリングをしようとセナは思った。

 レギオンのレベルはあまり下がっていないが、他三体の従魔は弱くなってしまっているので、そちらを中心にレベリングするつもりだ。


 なぜレギオンのレベルが下がっていないのかというと、HPを割譲した小さなレギオンらが自爆で消費されてもレギオン自身は斃れていないのだ。

 なので強制復活も必要無く、レベルダウンもしていない。


 狩りを行うのはドゥマイプシロン周辺のフィールドで、モンスターのレベルも40前後だ。レベリングをするには丁度いい。

 方法はトレイン狩りだが、今回はレベルダウンを防ぐため自爆要員はレギオンが担当する。


 そんなことをしているうちに三日が経過した。

 再度市場に向かったセナは、委託した男の元に向かう。


「――お、来たな。委託された素材はいい値が付いたぞ」


 受け取った金額は合計で三七〇万シルバーもの大金だ。競りに出したのは一〇個なので、普通に売るよりかなり高く売れている。


 ここまでの値が付いた理由は希少性にある。

 まず、タイラント・バルボラタートル自体が珍しいモンスターであること。通常種ならともかく、ここまで強大になった個体は前例がほぼ無いのだ。


 ドロップした甲殻に使い道があるのも大きい。生産スキルを持っている者が加工すれば鎧にも盾にもなるだろう。


「せっかくだし参加してみようかな……」

「ならこれを身に付けているといい。売るのはできないが、競りへの参加はできるぞ」


 好意で資格証を借りたセナは市場を巡る。

 色々な物が売りに出されているので、眺めるだけでもかなり楽しい場所だ。


 多種多様な装飾品に、煌びやかな武器と防具。素材も色々な物が並んでいる。

 また、レシピ本やスペルブックも高値で売りに出されていた。

 スペルブックは【キャスター】スキルを選択していないセナには無用の長物だが、読むと魔法を習得できるという便利アイテムだ。


「(これは……ちょっと欲しいかも)」


 セナが目を付けたのは装飾品で、MPを貯めておける魔宝石の腕輪というアクセサリーだ。

 アーツで多少なりともMPを消費するので、出来るのなら増やしておきたいのだ。

 だがやはり値段は高く、すでに数名が競りに参加していて高騰している。


「(性能は……結構よさそう。上級品だし)」


 商品の横にあるボードに値段を書き込み、セナは掘り出し物を探しにまた散策を始めた。

 この市場で競りをする場合、欲しい商品の横にある紙に希望金額を書き込み、最後に書き込んだ人が競り落とせる仕組みになっている。


「(あとでもう一回来て、終わる間際に書き込もう)」

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