140.共闘の提案
セナは悩んだ。
相手はキルゼムオールという戦闘狂だ。自ら好んで他プレイヤーに戦闘を仕掛けるようなPKでもある。
初対面ではないし、人柄も大まかには分かっている。
けれど、一対一に言葉を交わせるかと聞かれれば、ノー。
セナは他人と真面に接することが出来ない。始まりの街では初心者同士ということでパーティーに参加したが、その時だってかなりキョドっていたし、フレンド申請も断られている。
同年代の子と一緒に遊ぶどころか、親と医者以外にリアルの知り合いがいないため、普通の接し方もいまいち分からない。
学校に通ったことすら無い。
そんな生い立ちに加え、他人は怖いモノとして認識してしまっているセナは、この申請に許可を出すだけでもかなりの勇気が必要なのだ。
「……だいじょうぶ。安置だから攻撃されないはず」
数十秒も言い訳を考えて、あーでもないこーでもないと悩み、セナは決心をつけた。
安置の中ではPVPが出来ないようになっているので、いきなり戦闘を仕掛けられても大丈夫なはず。そう考え、セナはその申請に許可を出したのだ。
「――邪魔するぜぇ、狂信者」
のそりと、余裕のある様子で足を踏み入れるキルゼムオール。
相変わらず人を殺していそうな顔付きだが、彼はテント内部を軽く見渡して呟く。
「いいテントだな。見た目に反して中が広い、高級品だ」
「…………なんの用、ですか」
勇気を振り絞り、セナはレギオンの背中に隠れながら用件を尋ねた。
訝しむような顔つきになるのはしょうがない。あと隠れるのも。
「ああ、単刀直入に言うと、協力しようぜって話だ。ミゼリコルデを斃すためにな」
「……?」
聞き覚えの無い名前に首を傾げる。
セナはミゼリコルデなんて名前の人物とは会ってないので、共闘を持ちかけられてもはてなが浮かぶばかり。
「メイドだよメイド。機械仕掛けの戦闘メイド、エクスマキナ。正確にはエクスマキナ゠ミゼリコルデだな。アグレイア七賢人の一人、『構築のシルヴェスター』が造ったオートマタだ」
なぜそれを知っているのかは置いておいて、たしかにアグレイア七賢人に関係するのなら、あれほど強力な武器を持っていたとしても不思議ではない。しかも七賢人本人から魔法を教わっている可能性すらある。
間違いなくシャリアやヴィルヘルミナに並ぶ存在だ。
「……それで、なんで私なんですか」
声量は小さめだが、緊張しつつも疑問を返す。
なぜ自分に共闘を持ち掛けているのか。そしてその動機は。
セナはレベル100に到達した最初のプレイヤーだし、【邪神の尖兵】をソロ討伐した最初のプレイヤーでもある。
でも、フレンドですら無い自分になぜ共闘を持ち掛けるのか。
協力プレイというのは普通、仲の良いフレンドがキャッキャしながらするものではないのか。
「そりゃあ、あいつと真面に戦えるのがお前くらいだからだよ。七賢人の試練を突破できねぇ奴らは、戦う以前の問題だ」
「…………」
「お前は西側でシャリアの試練に挑んだんだろ? 俺は東側のルートで帝国に向かう道中、シルヴェスターの試練に挑んだ。前のイベントが終わった後の話だけどな」
対してキルゼムオールは、当然のような物言いで語る。
セナが強いから誘った、と。
「ミゼリコルデは強い。作成者が七賢人ってのも理由の一つだが、一番の理由はレベル差とそれに伴うステータス差だ」
彼はメニュー画面を操作して、セナにも見えるようにしたウィンドウを寄越す。
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『キルゼムオール』レベル102
〝昂る戦にして出血の神〟の信徒
└【戦血の加護】
ジョブ:〝慈悲無き戦血狂乱の戦技者〟
└《
└《神威:
サブジョブ:〝見習い魔法使い〟
└《アプレンティス》《ツインマジック》《オーバーマジック》
スキル:
【ウェポンマスター】 【ウォーモンク】
【上級投擲術】 【血装術】
【強化魔法Ⅱ】 【無詠唱Ⅱ】
【狂戦士の心得】 【壊滅呪化】
【第六感Ⅱ】 【神託】
【構築魔法:偽】
アーツ:
《オールウェポン・マスタリー》
《ウェポン・オーバーブレイク》《ソード・アヴァランチ》
《ウェポン・オーバーソウル》《ハイブレイク・インパクト》
《オーバーラッシュ》《フィフスブレイク・ウェポンズ》
《拳気の構え》《飛翔拳》《双衝拳》《浸透拳》《破壊拳》
《乾坤一擲》《血装術》《身体強化》《武装強化》
《無詠唱》《詠唱補正》《フィジカルバーサーク》
《バーサーク・フルスロットル》《ブレイクバースト》
《アナイアレイトカース》《第六感》《神託》
《クリエイト・ウェポン》《クリエイト・サーヴァント》
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一つ目はキルゼムオールのステータス画面。
全ての武器種を扱える代わりに、通常の攻撃系アーツが修得できなくなる【ウェポンマスター】。
次の武器へと持ち替える隙を徒手空拳で埋めるための【ウォーモンク】。
低い攻撃力を補うための【強化魔法Ⅱ】と【狂戦士の心得】に、【無詠唱Ⅱ】。
【壊滅呪化】はデメリットスキルである【呪化】の進化形であり、熟練度を稼げる程度には使い熟していることを意味している。
他にも【血装術】という見たことの無いスキルや、信仰する神の言葉を聞ける【神託】、スキルオーブで追加したらしい【構築魔法:偽】。
サブジョブの〝見習い魔法使い〟は、純戦闘型のMPを有効活用する点で考えると、【強化魔法Ⅱ】と【無詠唱Ⅱ】を有しているため相性が良い。
「(強い。詳細を見なくてもコンボが想像できるぐらい、ジョブとスキルが噛み合っている)」
魔法によって自身のステータスを底上げし、そこに武器の自壊というデメリットを追加することで【ウェポンマスター】のデメリットを打ち消している。
器用貧乏なだけのスキルが、どんな相手でも有利に立ち回れるスキルとなっているのだ。
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『エクスマキナ゠ミゼリコルデ』レベル472
・エクスマキナ四姉妹の末っ子。『構築のシルヴェスター』によって【構築魔法】を授けられている。
・対邪神、対モンスターを想定した姉妹機と異なり、対人を想定して設計されているため、構築する武器は人特攻を有している。
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二つ目は、ミゼリコルデの簡易ステータスのスクショだ。日付が二週間ほど前なので、試練の際に撮ったのだろう。
どんなスキルがあるのは分からないが、判明しているレベルとフレーバーだけでも相当強いことが窺える。
「見れば分かるだろうが、対人を想定されている以上ソロじゃどうしようもねぇ。試練も何回やり直したことか……」
「……そっちの試練も戦闘、だったんですか」
「エクスマキナと戦って、実力が認められれば達成ってやつだ」
「……こっちも同じ感じ、でした」
七賢人本人と戦わなくていいのは温情か、それともまだまだ上がいるぞという渓警告か。
どちらにせよ、達成が困難だったのは間違いない。
「まあ、末っ子って書いてあるとおり、エクスマキナの中では一番弱いんだがな。それでもレベル472だ。自主的に手加減してくれる試練とは違って、ここじゃ制限された状態での全力だ。まず間違いなく試練より手強い」
「……まあ」
セナが戦ったシャリアや、ヴィルヘルミナの手加減がアレだったので、制限されているとはいえ全力を出されたら苦戦は必至だろう。
ヴィルヘルミナは確実に、「勝手に制限してくれるなら、余がわざわざ手加減しなくてもいいだろう」とか抜かすので、ミゼリコルデも同様だと考えるべきだ。
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