139.安置部屋に逃げ延びて
ミニガンの掃射を受けて蜂の巣になった兎たちの犠牲のお陰で、セナは無事安置までたどり着くことが出来た。
まあ、囮に出して数秒で死んだのであまり意味の無い犠牲ではあるが。
「……あっちに行こう」
あの戦闘メイドから逃げてきたのか、部屋の中にはすでに数十人ものプレイヤーがいた。セナは目立ちにくい端っこに移動して、運良く空いていたスペースにちょこんと座る。
「(……とりあえず、荷物の整理をしよう)」
宝箱から回収したアイテムの殆どはポイントに還元し、心許なくなった消耗品の補充をする。
矢は『原始魔法の矢筒』があるので問題ないが、HPやMPを回復するためのポーションは使えば無くなるのだ。
ただ、ポイントで交換できるポーションはレベル80相当の性能なので、自分で製作するほうが色々な面で優れている。
「(アレは目立つし、テント出さないと……)」
インベントリから大きめのテントを取り出し、セナはその内部に調合キットを展開した。
初期状態でも高品質なポーションを製作できたが、さすがにレベル100に見合うポーションを製作するには性能が足りない。
それを解決するのが、アップグレードキットというアイテムである。
アップグレードキットはスクロールのような見た目をしていて、ランクⅠからランクⅤまで存在している。これを使用すると、対象にした生産道具の質が向上し、更に高レベルのアイテムを製作できるようになるのだ。
また、生産道具に内包されている一部の道具は上位のものに置換されたり、新しい道具が追加されたりする。
注意点として、ランクⅤはランクⅣを、ランクⅣはランクⅢを前提とするのでランクⅤのアップグレードキットだけでは中途半端な強化になってしまう。
しかも、記載されているランク未満のアップグレードキットが使えなくなるオマケ付きだ。
――余談ではあるが、生産道具はそれを製作した職人のスキルレベルによって品質が左右されるため、同じアップグレードキットを使用しても元々の品質によって性能に差が出る。
如何に性能のいい生産道具を作れるか、が職人にとって一つの目安だ。
「マスター、どうして隠れるの?」
「まだランクⅢまでしか使ってないけど、色々増えたからね。部屋の中じゃ目立つでしょ」
人目を掻い潜って移動する歩法は使えても、展開した道具までは隠せない。
なので、テントという遮蔽物を利用しているのだ。
「……ポイントを素材に交換してっと」
さすがに素材はポイント交換で賄う。
使いもせず、売りもせず、素材のまま手元に保管しておくのは商人ロールプレイをする者か、マーケットでマネーゲームをするような者ぐらいだろう。
セナは時間のあるときに整理しているので、素材のまま保管してあるのは扱いきれないが使う予定のあるモノだけ。
どれも古代アグレイアの遺産だけあって、レア度が桁違いなのだ。魔法の矢を作るのに多少は使ったが、他のものと比べれば相対的にレア度が低いものばかり。
「えっと、これは先に磨り潰してペースト状にして、こっちは火で炙って……」
間違わないように声に出して確認するセナ。
システムに頼らないハンドメイドのアイテム製作なので、手順を間違えるとゴミが出来上がってしまう。
一回でも成功すればその履歴を基にいくらでも量産できるため、この程度の手間を面倒だとは思わない。
「――ばっちり」
「おー」
完成したのは『古・特級ポーション』と『古・特級魔力ポーション』。ジジから教わったレシピの中でも、上から数えた方が早いぐらい効能が高いポーションだ。
『古・特級ポーション』は即座にHPの八割を回復し、肉体系状態異常を完治する。
『古・特級魔力ポーション』は即座にMPの六割を回復し、一〇分間MPを継続回復し続ける。
一つ作るのに一スタックも素材を消費したが、許容範囲だ。
一先ず三〇個ずつ量産し、それから使えそうな消耗品を製作してからキットを仕舞う。
三日かけてかなりの広範囲を制圧したので、ポイントの累計獲得量はあと少しで三〇〇万に到達しそうだ。
二位のキルゼムオールが二一〇万なので油断できないが、三位以下とは大差が付いている。つまり、油断さえしなければ首位をキープ出来るはずだ。
「問題は……あのメイドだよね」
「レギオンの攻撃でも壊れなかった。あれ強いよ」
「うん。疫病も効かなかったから、多分オートマタみたいなものじゃないかな」
「オートマタ?」
「えっと、自動で動く人形みたいな、機械みたいな……あ、ゴーレムが近いかも」
自動機械を意味する単語のオートマタだが、モンスターであるレギオンには馴染みがないので伝わりにくい。ゴーレムに近い存在と言われてようやく納得する様子を見せた。
プレイヤーならすぐに伝わるだろうし、目敏い人なら戦わずとも気付くだろう。
「隠れても探知されたし、このまま探索を続けるわけにはいかないよね」
消耗品の補充でかなりのポイントを使ったので、手元に残っているのは三〇万程度だ。
脱出後を見据えると一〇〇万ぐらいは確保しておきたいため、あの戦闘メイドをどうにか斃すか逃げ延びるかする必要がある。
普通に隠れるだけでは探知され、かといってただ走り回っても意味は無いだろう。
武器があの二種類だけとは考えられないので、何かしらの対策を考えなければならない。
《――入室申請が届いています》
その時、ピロンというシステム音が鳴る。
テントや宿の個室は一人用だが、申請を出して許可が下りれば複数人で利用できる。だが、セナはソロでぼっちでコミュ障なので、入室申請を送ってくる相手に心当たりは無い。
誰かと間違えたのかな……? と思って申請を出した相手を確認すると、そこには『キルゼムオール』と表記されていた。
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