13.アーツを修得しよう!

 街に帰還したセナはアーツの情報を求め冒険者組合にやってきた。


「アーツって知ってますか?」

「はい、知ってま……えっと、知ってます」


 門番経由でセナがヤバい子だと知ってしまった受付嬢が対応する。笑顔が若干引き攣っていた。


「アーツを修得したいんですけど、どこで何をすればいいんですか?」

「まずは教会で洗礼を受ける必要があります。来訪者の方々は神々の力でこちらに来ていると聞いていますが、儀式などは受けていないので加護の力を十全に発揮できないんですよ」

「どのくらい時間が掛かりますか?」

「儀式自体は簡単ですよ。ただ……儀式に使う道具を自分で採取する必要があるので、人によるとしか言えません」


 というわけで今度は教会に赴くセナ。

 ジョブに就いたときに説明してくれれば良かったのにと思ったが、話を聞く間もなく出て行ったのはセナの方だ。


「おや、君は昨日の……」

「アーツを使いたいので洗礼……? っていうのを受けに来ました」

「ああ、やはり使えなかったようですね。先日は話しかける間もなく飛び出していったものですから……」


 うっ……とセナは少し後悔した。

 ジョブに就いたのと、あと何気に神に声を掛けてもらったのが嬉しくて舞い上がっていたのだ。


「こほん、では説明をしましょう。アーツ……御技とも呼ばれるこの力は、試練を突破することによって発現します。前提としてジョブに就いていなければならず、覚悟も問われます。ですが……そうですね、まずは聖水の調達から始めましょうか。西の森に泉があるので汲んでくるように」


 矢継ぎ早に説明をされ、理解が追いつかないまま空のポーション瓶を渡されるセナ。


《――クエスト:アーツ修得への道が発生しました》

《――クエスト目標をマップに表示しますか?》

「(場所だけお願い……チェーン系かぁ)」


 マップを頼りにアルファディアを出て西の森に向かったセナは、クエストの進行度を見て辟易していた。

 チェーンクエストは複数のクエストが連なっている形式であり、ちょっとした物語が展開されることも多く、その性質上クリアまでに時間が掛かる。


 『アーツ修得への道』は合計五つのクエストで構成されていた。辟易するのも無理はない。


「わっ!?」


 西の森に立ち入ったセナは虫系モンスターの襲撃を受けた。

 毒を持つポイゾワスプに、生理的嫌悪感がヤバいと評判のレッサーセンチピード、ごく稀に出現するグレーターセンチピード。

 踏むと爆発するマインバグや、睡眠の状態異常を与えてくるネムリダケも木陰や草むらから飛び出した。


「……兎さん、自爆」


 しかしセナに毒は通じないため、尽く自爆攻撃によって蹴散らされた。


「泉、泉……あった」


 それから小一時間歩き続ける、セナは泉を発見する。

 泉というよりは水たまりのようなものだったが、マップのクエスト目標は確かにそれを示していた。

 セナはその泉の水をポーション瓶に汲み、来た道を戻ってアルファディアに帰還する。


「持ってきました」

「確認しましょう。……確かにあの泉の水ですね」


 教会に戻り泉の水入りポーション瓶を渡すと、次のクエストが発生した。


《――クエスト:アーツ修得への道Ⅱが発生しました》


 内容は水に祈りを捧げて聖水を製作するという簡単なものだった。

 ジョブに就いた時と同じ広間に案内されたセナは、そこで祈りを捧げるように言われる。


「信仰は聖なるもの……どのような祈りでも神に届けば聖水へと変わるでしょう」


 なんとも曖昧な説明だ。しかしNPC同士では当たり前に通じるし、サブカルに造詣の深い者でも理解できる内容だ。

 セナは爆速で“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”に祈りを捧げ、聖水の製作をクリアした。

 そしてまた次のクエストが発生する。


《――クエスト:アーツ修得への道Ⅲが発生しました》

「(また素材集め……かぁ)」


 表示されたクエスト内容は複数の素材を集めてくるというものだった。

 セナは広間の外で待機していた神官から集めてくる必要がある素材を教えてもらった。


「(街の中で手に入る素材は……金の糸と硝子の杯? でも、進行度が分割されてるから……中間素材も集めるように言われそうだなぁ)」


 セナは街中のとある店……マルガレータの工房とマップには表示されているそこを訪ねる。

 店の中は雑多な印象を受けるが、乱雑に置かれているわけではなく整理されていると分かる。単純に品数が多いのだ。


「――あら、お客さん? ここは専門店だから面白いものなんてないわよ?」

「金の糸と硝子の杯を持ってくるように言われたので来ました」

「ああ、教会の依頼ね。ちょっと待っててちょうだい」


 そう言って店主の女性は奥へと消えていった。

 ガチャガチャと物を漁る音や小さな破裂音が聞こえてくるのでセナは心配したが、それは杞憂だった。

 特に汚れた様子もなく、ケースに入れられた金の糸と硝子の杯を持ってきたからだ。


「急な依頼で片付いてなかったから適当に退かす必要があったけど、まだ残っていたわ。ほんっとあの業突く張りのクソ野郎共は……」


 後半の愚痴は聞かないことにした。

 「え?」とか「なんて?」とか言ったら面倒事に巻き込まれるやつだと直感で理解したセナは、受け取ってすぐに教会へとダッシュする。

 背後からため息が聞こえたような気がしたが無視した。

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