12.沼地で探索
アルファディアは始まりの街の北にあり、東には沼地、西には樹海、北には荒野が広がっている。
どの方向にも次の街があるため、プレイヤー達は各々好きな方角で探索と戦闘を繰り返していた。
沼地地帯もその一つであり、今ここに一人のプレイヤーが訪れた……
「――そこで自爆です!」
そう、相も変わらず従魔に自爆特攻を強いるセナである。
たまたまこの光景を目撃したプレイヤーは目を擦ったり二度見したり、困惑する様子を見せていた。
ヴォーパルバニーは死んだ目で自爆しているし、ホーンラビットに至ってはもはや悟ってすらいる。
好感度はとっくにマイナス、でも従魔だからセナの命令には逆らえない……!
「もう一スタック集まっちゃった」
このゲームでは一つのアイテムを同じ枠に一〇〇個所持することが出来る。これをスタックと呼び、セナのインベントリにはすでに一スタック分のポイゾトードの素材が溜まっていた。
「(この素材べつに要らないんだよね……売ったらいくらになるんだろ)」
セナが必要とする素材は矢と薬の材料ぐらいなので、ポイゾトードの素材は持ってても仕方ない部類だ。毒は自分で用意できる。
売却するとしても、普通の皮素材に比べれば需要が低いので、いい金策にもならないだろう。
セナはふと流通はどうなっているんだろうと気になった。
これまでプレイしたゲームではフレーバー程度でプレイヤーに影響が無かったが、このゲームはかなり精密に作られているようなので、流通があってもおかしくないのではと思ったのだ。
「(…………全部売ると値崩れしそう。しないかな。組合で売ろ)」
ちなみに討伐クエストはすでに達成している。アルファディアに帰還しないのはレベリングと、使えそうな素材がないか探索するためだ。
今のところ成果は無い。
「――そっち行ったぞ!」
「任せろ! 《ウォールガード》!」
「《ヒール》! 《ブレスオブエナジー》!」
「助かる! 《パワースラッシュ》!」
「尻尾切れたぞ尻尾!」
しばらく採取したり戦闘したりで沼地を探索していると、戦闘中のパーティーと遭遇した。
彼らが相手にしていたのは大きな蜥蜴で、派手な技能を使って戦っている。
否……
「(技能じゃない?)」
セナが疑問を覚えたそれらの攻撃は、彼女が使用してきた技能よりもエフェクトが派手だった。
喩えるなら無料版と有料版の違い。
エフェクトが違うだけで効果は同じなのに法外な値段を吹っ掛けてきたクソゲーを思いだしつつ、セナは技能とは別の何かがあることを確信した。
が、戦闘が終わってもぼっちなセナは声を掛けることが出来ず、物陰に隠れて様子を窺う。
「どうだ?」
「技能より威力も高いし、融通も利く。やっぱアーツは必須だな」
「回復魔法も効果が上がりましたし、種類も増えたのでやっておいて損は無かったですね」
「クエストが少し面倒なのがマイナスポイント」
「それな」
四人組は談笑して帰還していった。
彼らの会話を盗み聞きしていたセナはアーツとクエストという二つの単語を覚えた。
「(あれがアーツ……ジョブに就いたのに使えないから不思議だったけど、特定のクエストをクリアしないといけないんだね)兎さん兎さん、戻ってきてください」
ちょっと遠くに行かせていた従魔を呼び戻し、セナは二体のレベルを確認する。
「まだレベルが低いね。ペースは遅くなったけどあと一つか二つは上げられるかな」
予想よりレベルが低かったため再度レベリングを開始することにした。
セナ自身のレベルは28なので、自爆時の威力に直結する従魔のステータスを増やすべく、従魔のレベリングを優先しているのだ。
でも処理しきれなくなったら自爆させる。
「……あ、そうだ」
立ち止まって自分のステータス画面を表示させたセナは、兎さん一号であるホーンラビットを《ポイズン》と《マナエンチャント》のコンボで毒状態にする。
じりじりとHPが削れていく兎さん一号をおもむろに掴み、セナは遠くへ力一杯投げた。
「そのまま強そうなモンスターいたら近づいてね! 食べられそうになったら口の中に突撃して自爆だから!」
惨い命令である。ホーンラビットは命令通りに大きな蜥蜴へ近寄り、無抵抗のまま捕食された。
そして……蜥蜴の頭が自爆によって消し飛んだ。
「……補正は掛かってるみたいだね。よし!」
セナは従魔を生き餌にしてわざと捕食させ、そのうえで自爆させてもジョブ補正により威力が高まるのを確認したのだ。
トレイン狩りはほぼ従魔任せだったので細かい威力は確認していなかったのだが、どうやらセナが手を加えた後だと威力が上昇するらしい。
「素材は……蜥蜴の肉かぁ。鶏肉みたいって聞くけど、蛇とか兎とかも全部鶏肉みたいって言うよね。どう思う兎さん?」
ヴォーパルバニーは全力で頭を背けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます