49.アーチャーはハンターに進化した!
ラゼータにある教会はデルタリオンとだいたい同じ規模である。しかし、この教会には明らかな異常が存在していた。
それは、この教会が塔の一部であることだ。
教会の様式とはまるで違う、建造物を継ぎ合わせたような異物感。
その理由についてセナは知らない。そもそも教会の後に塔が出来たのか、塔の一部を教会に作り替えたのか、それすら定かではないからだ。
NPCですら判らないのなら、尚更判るはずもない。
セナは教会の広間に入り、祈りの姿勢を取る。
クリスタルは“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の神像となり、捧げ物を選ぶ画面が開く。
捧げ物にするのは当然、先ほどまでの狩りで得たドロップアイテムだ。
数にして一〇〇以上の素材を選択したセナ。
《――捧げ物を確認》
『……我が信徒よ、汝の想いを我は嬉しく思う。その熱意のまま突き進むといい』
《――恩寵によって【疫病の加護】が強化されました》
《――恩寵によってジョブ専用アーツが強化されました》
大量の捧げ物をしたからか、対価である恩寵の効果も大きい。
しかも、今回はこれで終わらない。アナウンスが更に続く。
《――恩寵によってスキルが進化します》
《――【テイマー】が【ダークテイマー】になりました》
《――【アーチャー】が【ボウハンター】になりました》
《――【短剣術】が【真・短剣術】になりました》
《――【投擲】が【投擲術】になりました》
《――【毒化】が【猛毒化】になりました》
《――【魔力付与】が【真・魔力付与】になりました》
《――【鷹の目】が【狩人の目】になりました》
《――【採取】が【採取術】になりました》
《――【調合】が【調合師】になりました》
《――【木工】が【木工師】になりました》
セナが持つ一〇個のスキル、その全てが進化したことで名称が変わった。
それによってスキルの効果や補正も変化している。大きく変わったのは【ボウハンター】だろう。
これまでは弓装備時に限定されていた威力補正が、弓以外の武器でも効果が発揮されるようになっている。
【ダークテイマー】は強制力の増加……《テイム》成功率が上昇する代わりに初期好感度が低く設定されていた。
普段から自爆させまくるお前に好感度なんて必要ないだろ、という嫌味だろうか。
他のスキルも効果が底上げされており、【狩人の目】に至っては昼夜問わず遠方を見渡せるようになった。
範囲は少し狭くなっているが、夜間でもハッキリ遠方を視認できるのは強い。
セナは大満足だ。
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『セナ』レベル50
“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の信徒
└【疫病の加護】
ジョブ:“疫病と薬毒司りし女神の慈悲無き狩人”
└《クルーエルハント》《プレイグスプレッド》
スキル:
【ダークテイマー】 【ボウハンター】
【真・短剣術】 【投擲術】
【猛毒化】 【真・魔力付与】
【狩人の目】 【採取術】
【調合師】 【木工師】
アーツ:
《テイム》《自爆命令》《キャスリング》
《ライフコントロール》
《ペネトレイトシュート》《プレイグシュート》
《ボムズアロー》《プレイグポイゾ》
《マナエンチャント》《ハンターズアイ》
《コレクション》《プロダクション》
《クリティカルダガー》《投擲》
従魔:
『ホーンラビット』レベル44
『ヴォーパルバニー』レベル42
『グレーターセンチピード』レベル39
『レギオン』レベル30
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ここまで大幅な強化が行われた理由は、彼女がレベル50に到達したからである。
メタ的な話にはなるが、レベル50になった者が祈りを捧げれば、熟練度や使用頻度を考慮した上でシステムが最適化するのだ。
だから、異なる系統のスキルになる場合も存在する。
セナは今回、弓士系統より狩人系統が最適だと判断された。後の検証班はこれをスライド進化と呼ぶようになる。
これは従魔には適用されず、人類種に限定された仕様だ。
『……更なる高みへと上り詰めたのなら、我が神威を授けよう。励むように』
光が収束し、神像はクリスタルに戻る。
立ち上がってステータスを確認したセナは少しのあいだ熟考し、それから広間を退出した。
「(女神様に褒めてもらえた。でも、わたしはまだ弱いよね……)」
イメージしたのは師匠であるジジだ。
スキル進化によってレベル以上の強さを得たというのに、まだ勝てるイメージが湧かない。それどころか、本気のジジには逆立ちしても掠り傷すら負わせられない。
そんな漠然とした感覚を覚えるセナ。
「(ジジさんのレベルってどのくらいなんだろ。わたしの数倍……どころじゃないよね絶対)」
脳裏に浮かべたイメージだけで寒気を覚えるのだ。たった数倍なんて易しいレベルに収まっていないだろう。
「……もっと頑張らないと」
握り拳を作って意気込む。
すると、たまたま通りがかったプレイヤーがぎょっとした様子で逃げた。
セナのハートはちょっぴり傷ついた。これでも少女なので。
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