50.シャリアの魔塔
お祈りを終えたセナは、消耗品を補充するため街の外で生産作業をすることにした。
作業中はレギオンが護衛として周囲のモンスターを掃討する。
「(補充が要るのは投擲用のポーションと粘着剤、あと矢を五スタックかな)」
生産キットを使うことにも慣れたので、セナは木工キットで矢を量産しながら調合キットを使用している。
スキルが進化した影響でこれまでより短い時間で生産が完了した。
粘着剤はレシピ本を読んだことで覚えたモノだ。空気に触れると急速に固体へと変わり、強力な粘着効果を発揮する薬品である。
即席の罠になるので、最近はモンスターの足止めや隙を作るのに使っている。
「レギオン、そろそろ行くよ」
「ん、レギオン分かった」
影で生成した口で獲物を捕食しつつ、レギオンはセナの下に戻る。
レベル30になったレギオンは、セナより頭一つ分高い。表情も少しばかり柔らかくなっている。
セナは背を抜かれたことに少しばかり悔しさを感じている。
出会った頃はあんなに小さかったのに……。
「ねえレギオン」
「ん、どうしたのマスター?」
「レギオンのスキルって進化したりしないの?」
レギオンには複数のスキルがあるので、それが進化すればより強力な性能になるのでは。
ふとそう思ったので、セナはレギオンに訊いてみた。
「……たぶん、レギオンは無理」
レギオンは少し考えてからそう答えた。
たとえ素材に人間が使われていようと、モンスターとして分類されているレギオンは加護を受け取れない。
器の形が人類種とは異なるのだ。
「そっか」
無理なら無理で、今まで通りにすれば何も問題はない。
セナはキットを片付けて街中に戻る。
再び教会の前にやって来たセナは、装備の最終確認をして中に入る。
今度は広間ではなく、広間を囲うように存在する異質な螺旋階段を登った。
今回は教会ではなく塔に用事があるのだ。
星空のような色合いの階段を登り切れば、そこには両開きの大きな扉がある。
装飾が豪奢な扉の両脇には武器を持つ門番が立っていた。
彼らは万が一に備え、中のモノが外に出ないように見張る役割を担っている。
「止まれ、何用だ」
「わたしは塔に挑戦しに来ただけです」
「……貴様、指名手配されているセナだな」
門番は槍を交差してセナの侵入を拒絶する。
その顔からは侮蔑の感情が見て取れた。
「罪なき者を手にかけた罪人を通す扉なぞ、ここには無い」
「然り。この塔は罪なき者にしか扉を開かない」
「わたしは悪いことなんてしてないです。ただ、みんなに女神様のことを知ってもらおうと、布教をしただけです」
二人の言葉にセナは反論した。
どこまでも純粋で、真っ直ぐな想いが乗った言葉だ。
「いいや、貴様がどれほど高尚な精神の持ち主だろうと、罪は罪。我らは貴様を通さぬし、貴様の主張は聞かぬ」
だが門番は頑なに侵入を拒む。
指名手配を受けるような人間が、罪を犯していないとは考えられないからだ。
罪人を通さないことも彼らの仕事なので、このままではセナは内部に入れないだろう。
「――レギオン」
だから、セナはレギオンに命令した。目の前の二人を影に沈めて足止めすることを。
「っ、なんだこれは!?」
「貴様、やはり罪人は罪人ということか!」
腰まで影の中に沈み、両腕を拘束された門番たちは叫んだ。
セナは二人の間を抜け、扉に手を添える。
「無駄だ! この塔は悪しき者の挑戦は受け付けぬ! 我らを解放し大人しく投降しろ!」
力を込めて押しても、扉は一ミリたりとも動かない。
自分は何も悪くないのにと思いながら、セナはそれでも頑張って扉を押す。
「レギオンも手伝う」
拘束は影だけで足りているので、レギオンもセナを手伝うことにした。
しかし、それでも扉は開かない。
「(なんで開かないの? わたしはジジさんみたいに強くなりたいから、この塔に挑戦しに来たのに)」
この塔の内部には強力なモンスターがいる。
以前ここの司祭からその話を聞いたので、準備を調えてから挑もうと思っていたのだ。
「くっ、鬱陶しい影め……!」
抜けだそうと藻掻いても、レギオンの影は執拗に掴み続ける。
セナはなんとかして扉を開けようと、アーツを放とうと考えたその時――
「わっ……!」
今までの抵抗は何だったのかと言いたくなるぐらいあっさりと、重量を感じさせない滑らかな動きで扉が開く。
前傾姿勢だったセナは勢い余って転び、反射的に受け身を取って、転んだ勢いのままに一回転して立ち上がった。
レギオンもそそくさと内部に入る。
「えっと、ごめんなさい!」
「待て!」
拘束していた影が解除され、身動きが取れるようになった門番がセナを捕まえようと手を伸ばした。
しかし、レギオンが中に侵入した時点で扉は閉まり始めており、どれだけ必死に手を伸ばしてセナには届かない。
ゴォォン……と重たい音と共に扉は固く閉ざされる。
《――ダンジョン:シャリアの魔塔に侵入しました》
《――このダンジョン内で死亡した場合、リスポーン位置はこの広間となります》
アナウンスが流れた。
この塔はどうやらダンジョンとして扱われるらしく、しかもリス地が固定されるタイプらしい。
挑戦を完全に諦めるか、攻略するまで外には出られないだろう。
セナは深呼吸をする。
ゆっくりと瞼を閉じ、そして開くと、彼女の雰囲気は狩人のソレへと切り替わった。
ここはもうダンジョンなのだ。ならば戦闘に備えなければならない。
セナは弓に矢を番え、いつでも射られるようにしながら進み始めた。
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