51.魔塔を攻略しよう!

 魔塔内部の壁はクリスタルのような質感だ。外とはまるで違う。

 セナは試しに短剣で削ろうとしたが、硬い金属のような感触が返ってくる。破壊行為はあまり意味が無いらしい。


「っ!」


 それどころか、斬撃が跳ね返ってくる始末。

 斬撃が放たれる前に、蒼いクリスタルの内側で乱反射する光が見えたため、避けること自体は可能だ。

 だが、戦闘になればそれは難しくなるだろう。敵以外にも警戒しながらの戦闘は精神をすり減らす。


「(……すごく、面倒なダンジョンみたい)レギオン、この壁を覆うことってできる」

「やってみる」


 影を伸ばしたレギオンはクリスタルの壁を覆う。

 しかし、ぴくっと跳ねたレギオンは、途端に影を戻してセナの下に退避した。


「……レギオンの群れレギオンなのに、引っ張られた」

「(引っ張られた……? よく分からないけど、壁を覆ったりするのはダメなんだね)」


 ともかく、壁はどうすることもできないみたいである。


「偵察お願い」


 セナはレギオンに偵察を命じる。

 レギオンは頷き、小さなレギオンらを先行させてダンジョンの探索をさせた。

 やはり便利である。セナはそう思った。




 さてこのダンジョンだが、基本的には迷路のような構造が続いている。

 小さなレギオンらが偵察した結果、第一回イベントの周回型ダンジョンと似たような造りだと判明した。

 ならば最短ルートで奥へ……と思ったセナだが、ここはそこまで易しくない。


『テキ、ハッケン』

『ハイジョ、ハイジョ』


 地面を滑るように移動するモンスターが、能動的に動いてセナを狙ってくるからだ。

 ソレの見た目は甲冑そのものだが、中身は人ではない。

 無機質な声を発し、機械的な動きで攻撃してくるソレは、レギオンと同じく人の手で作られたモンスターだろう。


「《ペネトレイトシュート》!」


 甲冑が持つ武器は個体ごとに異なる。

 剣と盾を装備している甲冑、槍を装備している甲冑、大槌を装備している甲冑。同士討ちすら躊躇わないので、実に厄介だ。


「右奥の二と左手前一!」

「レギオンの影に沈むといい」


 なのでセナは、相手にするのが面倒な個体の動きを封じてから、各個撃破するようにしている。

 邂逅するとまず優先度を決める。次に優先度順に動きを封じるよう指示を出し、セナがそれらを狩っていく。


 レギオンは成長したことで、その影を多彩な用途に活用できるようになっている。

 攻撃から妨害、防御まで出来るほぼオールラウンダーだ。


「兎さん自爆して!」


 壁から離れた位置にいる甲冑には自爆攻撃をお見舞いしている。

 グレーターセンチピードはその巨体故にここでは使えないが、ホーンラビットとヴォーパルバニーは小さいので、セナは二体を自爆させることで戦闘の効率化を図っている。


『ハイジョ……ハイ、ジョ』

「《クリティカルダガー》! ……これでもう五回目だよ。どこから湧いてくるんだろうね」

「分からない。レギオンも頑張って探してる」


 小さなレギオンらによる探索は現在進行形で続いている。

 それでもこの甲冑たちがどこで湧いているのかは判明していない。


「……階段か扉でもあれば分かりやすいんだけど」


 風景が変わらないのもあって、進めているのかどうかさえ分かりにくい。


「(ドロップアイテムも甲冑の一部ばっかりだし、ほんとどうすればいいんだろ)」


 重複スタックできるアイテムとしてドロップしているのが唯一のメリットか。

 これが装備品だったらインベントリはとっくに埋まっている。


『ハイジョ、ハイジョ』

『メイレイジュダク、ハイジョ』


 休める時間は殆ど無い。

 一体一体はそこまで強くないが、複数体で掛かってくるうえに、際限なく湧いているのかと思うほど邂逅しまくる。

 経験値はたくさん入るのでレベリングには丁度いいかもしれないが、それでもこの数は面倒に感じる。


「――マスター、階段あった」

「っ、案内して!」

「こっち」


 一〇度目の戦闘の最中、レギオンはようやく階段を発見した。

 甲冑を殲滅してからセナはレギオンの案内に従って迷路を進む。


 階段は複雑な経路を辿り、巧妙に隠された通路の通る必要がある空間に配置されていた。


「よかった、宝箱がある……」


 ドロップアイテムがゴミばかりだったので、セナは階段の手前に配置されていた宝箱に近づく。

 ……罠を感知するアーツは無いので勘頼りだが、恐らく大丈夫だろうと結論づけて宝箱を開くセナ。


「……金貨?」


 しかし、中に入っていたのはくすんだ金貨ばかりである。

 一〇〇万シルバーで金貨一枚になるが、ここまでくすんだ金貨に価値はあるのだろうか。

 そもそも、意匠がセナの知る金貨とまったく違う。


 何に使えるのか分からないが、金貨は金貨なのでセナはインベントリに仕舞った。

 アイテム名は古代アグレイア金貨となっている。


「(昔の通貨なのかな。でもなんでこんな場所に……?)」


 ジジなら何か知っているのかもしれないが、神域にいる故人に訊きに行けるわけもなく。

 セナは疑問を覚えたが、今はダンジョンの攻略が優先だ。螺旋階段を登って次の階層に向かう。

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