48.狂信者は狩りをする
ログインしたセナが見た光景は、ログアウト前と何ら変わりない。
NPCが街中を歩き、談笑し、思い思いの日々を過ごしている。プレイヤーもまた、それぞれのペースで遊んでいる。
「うげっ、狂信者……」
ただ、最近はすれ違うと嫌な顔をされるようになった。
殆どはプレイヤーだが、たまにNPCも同じ反応をする。衛兵にも追いかけられる始末だ。
その理由は、指名手配の情報がここラゼータにも届いたからである。
追いかけられ、誰何されるたびに、セナは全力で悪いことはしてませんと言い張って逃れている。
手配書にどれだけ似ていても、「こんな純粋そうな少女がテロを……?」と疑問を抱くので何とかなっているのだ。
プレイヤーに関してはもっと単純で、セナが面倒で厄介な存在になってしまっているから、関わりたくないと思っている。
指名手配されているので斃せばNPCに恩を売れるし、色々と便宜を図ってもらえるかもしれない。けれど、セナはレッドネームではないので、彼女を斃した側がPKとして判定されてしまう可能性がある。
斃した側がデメリットを負う面倒な奴を相手にしたがる者は非常に少ない。なのでセナのぼっち属性は人に避けられるレベルまで加速している。
「(…………いいもん。一人じゃないし。仲のいい人いるし)」
NPCであるマクスウェルを仲のいい人判定して、セナは心の中でぼっちじゃないと言い訳した。
「(今日は……狩りをしようかな。そろそろお祈りもしないと)」
ここ数日でセナと従魔のレベルはそれなりに上がっている。お金を稼ぐためマクスウェルの手伝いをしたり、狩りをしたり。
後者は捧げ物目的での狩りだが、そこそこ高値が付く素材を入手することもあるので市場価格を調べるのも忘れていない。
セナはラゼータ北東のフィールドに出て狩りをする。
王都ゼラルイータへ続く街道があるので平坦な環境ではあるが、出現するモンスターは中々に手強い。
平地ゆえに足の速い獲物が多く、狩りを得意とする捕食者も存在する。殺意も中々に高い。
例えばブレイドウルフ。こいつらは尻尾も爪も牙も鋭い刃物になっているので、生半可な装備では防具ごと
しかも群れるので余計に
「…………《プレイグシュート》」
僅かな窪みに身を潜めて気配を消したセナは、そこから矢を射る。弓を横倒しにした状態なのでいつもより射程が短く威力も低いが、当てるべき所に当てれば何の問題も無い。
吸い込まれるようにブレイドウルフの目に突き刺さった矢は、猛毒を盛り疫病に感染させる。
このアーツはアップデート直前に新たに修得したもので、【アーチャー】から芽生えたものだ。
「(試す前にアプデが来ちゃったからなぁ……。使い心地よさそうでよかった)」
疾走した勢いのまま頭から倒れたブレイドウルフは、痙攣したのち死亡した。
クリティカルだったのもあるが、状態異常の効果もかなり高い。セナは満足げな笑みを浮かべる。
ちなみに囮はホーンラビットが熟していた。見た目だと一番弱いので当然だろう。
仲間を殺されたブレイドウルフたちは怒り心頭に発する様子で、周囲に向かって吼えまくる。
尻尾を振り回して威嚇もしている。
しかし、完璧に気配を殺したセナの居場所には気付けないようだ。
セナは仕舞っていた従魔を呼び出し、追撃を仕掛ける。
選んだのは敏捷性と奇襲能力の高いヴォーパルバニーだ。群れの中央まで走り抜けたヴォーパルバニーは、ブレイドウルフの尾を切断する。
「――いま!」
尻尾を切られて動揺した瞬間、セナは待機状態にしてあるグレーターセンチピードとレギオンを解放する。
自身もまた矢を番え、アーツを放つ。着弾点で起爆する《ボムズアロー》だ。
これも【アーチャー】から芽生えたアーツである。
「……《クルーエルハント》!」
欠損付与に特化したジョブ専用アーツ、《クルーエルハント》。
切断には至らずとも、傷さえ与えれば治癒が困難な致命傷となる。だがやはり、これは欠損を与えることに特化したアーツなのだ。
短剣のリーチでは切断するのに足りないが、セナは宙でぐるりと身を翻し一周することで、見事その首を斬り飛ばす。
彼女は幾度となく狩りの経験を重ねたことで、あの地獄の訓練で教わっていない技術を編み出したのだ。
「あなたで……最後っ!」
それからたった数分で残りのブレイドウルフも討伐したセナ。
群れの単独討伐なのでドロップアイテムは豊富だ。ブレイドウルフの尾は特に高く売れやすい。シルバーに換算すれば、どんぶり勘定だが一〇万は稼げるだろう。
しかし今回は売らない。捧げ物目的での狩りだからだ。
レベルも50に到達したので、狩りを中断してセナは街中に戻る。……門番に止められ、アルファディアでも使われた水晶玉に手を翳すよう指示されたが、依然として発生する渦は水色と赤色の両方だった。
カルマ値は中庸のようである。他のプレイヤーが知ったらまずバグを疑うか、問答無用で捕らえただろう。しかしこの門番はマニュアル人間だったようで、首を傾げつつ通してくれた。
「(言いがかりを付けられなくて助かった)」
ホッと胸をなで下ろし、セナは教会へ向かう。お祈りをしたらマクスウェルの魔法店を訪ねる予定だ。
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