47.アップデート
指名手配が行われてから一週間が経過した。
セナはまだラゼータに滞在しており、レベリングをしつつ次の街へ出発する準備を進めている。
ただ、それは暫く先になりそうだ。
というのも、つい先日運営がアップデートの予告をしたのだ。日時は正午から明日の正午までなので、終わるまでFGオンラインにはログインできない。
セナはなんやかんやでログアウトせず過ごしていたので、これが初めてのログアウトである。
「(嫌だなぁ……)」
あの独りぼっちの空間で待機するのは、苦痛だ。
他のゲームをする手もあるが、あんなクソゲーをする気分にはならない。バグやグリッチを活用しては爆笑している人を見掛けたことはあるが、そこまで面白いとも思えない。
だから、嫌という感情が真っ先に出てくるのだ。
ほどなくしてログアウト処理が完了し、セナはいつもの待機空間に戻ってきた。
どこまでも続く真っ黒な空間に、真っ白な床がどこまでも続いている。
空中にはモニターが浮いていて、幾つかは病室の潤憂を映している。心拍数だったり、血圧だったり……。延命治療のお陰でなんとか生きているが、全ての数値は正常値を大幅に下回っている。
潤憂は目を逸らし虚空を見つめる。
星なんて綺麗なモノは無い、ただただ黒色が続いている空。
「(明日まで寝ようかな……)」
ベッドも何も無いが、コンソールを呼び出して操作すれば必要なものは出せる。
医療用の機器なので退屈を凌ぐための機能があるのだ。
その気になればジャンクフードや寿司、焼き肉など、様々な料理を出すことも出来る。
しかし、潤憂からすればどれも味気ないものばかり。空腹感を覚えないので食事は必要無く、本物を食べたことが無いから味も分からない。
最初は喜んでいたが、今となっては使っていない。
「…………」
横になった潤憂は目を閉じてFGオンラインの出来事を思い出す。
チュートリアルで“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”を選んだこと。当時はまだ技能でしかなかった《テイム》を使って、ホーンラビットやヴォーパルバニーを従魔にしたこと。
クソ熊と呼ばれる始まりの森のボスを斃したこと。
アルファディアの教会でお祈りをして神域に招かれたこと。神域でジジから地獄の訓練を受けたこと。その後はイベントにも参加した。
イベント終了後は西の森を抜けてガンマリードに到達したこと。グレーターセンチピードを従魔にしたのも丁度この頃だ。そして魔剣を持った男と戦い、生命教団のことを知り、コルタナ地下遺跡の奥深くでレギオンと戦い従魔にしたこと。
デルタリオンで創世神話について少しだけ知ったこと。【木工】と【調合】を活用するために必要なキットを購入したこと。
レシピを買うためにドゥマイプシロンに向かったこと。道中でタイラント・バルボラタートルと戦ったこと。
マクスウェルの魔法店でレシピを買ったこと。マクスウェルから神々の派閥や信仰の意味について教わったこと、自発的に調べたこと。
そして……布教活動をしたこと。
全部思いだせる。彼女の主観で、だが。
「(楽しかったなぁ……)」
明日の正午になればまたログイン出来るが、それを待つだけの時間は心細い。
だから楽しかった出来事を思い出して時間を潰すのだ。
寝て、起きて、翌日の朝。
VR空間の中では昼夜は時間でしか判断できない。
潤憂はベッドから身を起こし、FGオンラインを起動する。まだアップデートの最中なのでログインできないが、潤憂はいつでもログインできるように待機した。
待っている間はサイトを眺めることにする。
「アップデート情報は……色々あるんだね」
目立つものだと、レベルキャップの解放だ。これまでは100が上限だったが、アプデ後は200が上限となる。
他にはユニークモンスターの追加、第二回イベントの予告が目立っている。
イベントの開催時期はアップデートの二週間後。内容はPVPとなっているので、勝つために準備をしなければいけなさそうだ。
追加されるユニークモンスターは強力無比な存在で、自由気ままにフィールドを闊歩するボスモンスターのようなものだと。しかも他のモンスターと違って同一個体は存在しない、唯一無二でもあると記載されている。
ドロップアイテムもさぞかし豪華なのだろう。潤憂は――セナは何が手に入るのだろうかと夢想し始めた。
やがて正午が近づき、アップデート中のマークがログイン可能のマークに変わる。
「(ログイン)」
《――『フェイス・ゴッド・オンライン』へのログイン申請を受諾します》
《――現在サーバーが混み合っています。順次ログイン処理をするので待機してください》
《――…………………………認証完了》
《――ようこそ、セナ様》
そして……セナは再び、FGオンラインの大地に舞い降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます