79.セナVSキルゼムオール
決勝の時が来た。
セナとレギオンはコロッセウムの舞台上に転移し、キルゼムオールもまた転移している。
《――これより、決勝戦を開始します》
《――準備時間中の戦闘行為は禁止です》
準備時間中に、セナは従魔を全て呼び出した。レギオンは小さなレギオンらを増産し、手数を増やしている。
対するキルゼムオールは槍を手に持ち、いつでも投げられる姿勢を取る。
そして……開始と同時にアーツが放たれた。
「――《乾坤一擲》《
「――《クルーエルハンティング》《ボムズアロー》!」
丁度二人の間で槍と矢が衝突する。爆風が巻き起こり、槍は煙幕を貫通してセナへと迫るが、その時には《ステルス》を使用して離脱していた。
「《プレイグシュート》」
「ハッ! んな柔な攻撃通じるかよ!」
キルゼムオールは即座に長剣を手に取り、その矢を斬り払う。
《プレイグシュート》は状態異常を与えるアーツのため、他アーツと比べると速度も威力も低い。
しかし、意識を逸らすことは可能だ。
煙幕を吹き飛ばしながら、グレーターセンチピードが突撃を行う。その背にはホーンラビットとヴォーパルバニーが乗っており、跳躍を活かして地上と空中の二方向から攻撃を仕掛けた。
「《
……だが、キルゼムオールは大剣に武器を切り替え、その一振りでグレーターセンチピードを叩き斬る。
そして柄から手を離すと、二体の従魔を拳で鏖殺した。
本来なら拳による攻撃は打撃になるはずだが、突属性を付与するアーツを使うことで、彼の徒手による衝きは槍と同じ扱いとなっている。
「《飛翔拳》!」
そして、打撃を飛ばすアーツを追加発動した。《双衝拳》の効果で突属性となっているため、これはもはや槍の投擲に等しい。
「透明になっていても、どこから攻撃されてるかは分かるんだよ!」
飛翔する攻撃が透明状態のセナを襲う。ラッシュによって飛ぶ拳撃は数えるのが面倒なぐらいだ。
《ステルス》使用中は被ダメージが五割増しになるため、セナは透明化を解除して姿を現した。
「《プレイグスプレッド》」
その代わり、疫病の珠を地面に叩きつけて姿を眩ます。
「……ちっ」
視界を遮るアレに近づいたり触れるのは拙いと分かっているので、キルゼムオールはセナを正確に狙うことが不可能となった。
ラッシュを中断し、《飛翔拳》と《双衝拳》を解除する。……そして、範囲攻撃を行うことにした。
「しゃあねぇ、《ソード・アヴァランチ》!」
彼は長剣を手に取ると、それを天高く放り投げる。すると、その長剣は何もしていないのに粉々に砕け散ったではないか。
彼の長剣は無骨だが性能の高い武器だったので、これは彼にとっても苦渋の決断と言えるだろう。
彼のジョブ――“慈悲無き狂乱の戦技者”には、武器破壊を代償とするアーツが多い。秘匿している信仰先から得られる加護によって、武器破壊をせずとも戦えるようになってはいるが、通常攻撃とバフだけでは限界がある。
――そう、《
粉々に砕け散った長剣の欠片が無数の刃となり、可視化するほど濃密な疫病の中へと降り注いでいく。
「(同じ混沌陣営といえど、戦いを司る神を信仰している俺のほうが強いと思ってたんだがな……。こっちも三魔神の一角だぞ? だというのに、思うように攻められねぇ)」
キルゼムオールは内心で愚痴りつつ、相手の次を予想する。
「(それに、あのレギオンとかいう従魔……なんで姿を現さない? 何か策があるとしか考えられねぇな)《乾坤一擲》、《
が、予測できるほど相手の手札を把握していないので、インベントリからジャベリンを取り出し、牽制を兼ねて投擲した。
……しかし、反応は返ってこない。
「――《キャスリング》、《クリティカルダガー》」
何も起きないことを訝しんだその瞬間、キルゼムオールの足下にセナが出現した。
彼は咄嗟に跳躍したものの、左足首を斬り飛ばされる。
「こいつは……ッ!? 同陣営だからもしやとは思ってたが、効果までそっくりとはな!」
彼はその一撃から、セナの攻撃に《
キルゼムオールは器用に片足だけで距離を取り、手早く布を巻いて出血を止めた。
「出血させるのは得意だが、させられるのは苦手なんだよ!」
「……そうですか。《ペネトレイトシュート》」
止血をした僅かな時間で武器を切り替えたセナは、最も速度が速いアーツを繰り出す。
キルゼムオールは戦斧で矢を叩き折るが、如何せん片足立ちなので体勢が崩れてしまう。
「っ、《バーサーク》! 《ウェポン・オーバーブレイク》!」
体勢が崩れる隙を突こうとするセナ。
だが、なんとキルゼムオールは切断された足で踏み込み、戦斧による斬り上げをお見舞いした。
その威力は地面が大きく抉られるほどで、セナの体も吹き飛ばされる。
代償として戦斧は粉々に砕け散ったが、間違いなくダメージは入った。
「(……ちょっと油断してた。止血した足で踏み込むなんて、凄い度胸)」
勢いよく踏み込んだからか、キルゼムオールの左足からは夥しい量の血液が流れ出ている。布は血で赤黒く染まり、地面にも血痕が残っている。
そんな博打紛いの行為を行った獲物に、セナは思わず感心した。
「(出血の継続ダメージでいつかは斃れるだろうけど……それはつまらないよね)」
だから、セナも後先考えることを止めにする。
切り札を隠すのではなく、持ちうる全ての手札を使って狩ると決めたのだ。
「……レギオン、本気でいこう」
「ん、分かった。レギオン本気だす」
そうして、決勝戦はようやく、本気の戦いへと移行した。
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