80.決勝戦、決着
……三魔神とは、“暗き死にして冥府の神”が最初に生み出した三柱の神のことである。
死に近しい権能を持ち、世界を廻し始めた循環の神々。
始めに“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”が生まれ、世界に死を運ぶ病と死に至る毒が発生した。
次に“衰退する精神にして堕落の神”が生まれ、人々の心に他者を食い物にする悪性を植え付けた。
そして“昂る戦にして出血の神”が生まれ、血を流す争いが始まったとされている。
彼らの権能は凄まじく、たった四柱で秩序の神々から世界の支配権の半分を奪い取った、と神話に記述されるほどだ。
創世当時は神の総数自体少なかったとはいえ、それでも圧倒的な力である。
そのため、歴史上、この三柱の神を信仰する者は度々いたが、その力を恐れた時の権力者によって謀殺されてきた。
生き延びた者もいれば、終始隠し通せた者もいる。だがそれは、ほんの一握りにすぎない。
だから、三魔神がもたらす加護の真価は、様々な事情によって古代アグレイアが滅亡する時まで、歴史の影に葬られていたのである。
「ハハハッ! クソみてぇで楽しいなオイ!?」
《バーサーク》によって狂化状態にあるキルゼムオールは、次々と武器を取り出しては、武器破壊を代償とするアーツを繰り出していく。
【戦血の加護】によって、彼は戦闘行為全てに補正が掛かっている。どれだけ狂おうと、戦場で自ら動かぬ者に生きる資格無しとまで宣った神を信仰するだけはある。
アバターの制御権を失う狂化状態でもまともに動けるのは、この加護によって肉体の制御権が固定されているからだ。
麻痺だろうと石化だろうと、彼の動きを阻害することは出来ない。
「《ウェポン・オーバーブレイク》! 《ソード・アヴァランチ》!」
見てる側が痛々しくなるほど傷を負っているキルゼムオールだが、彼は予選や準決以下の戦闘とは違い、何が可笑しいのか嗤いながら戦っている。
しかし、戦い方自体は中々にクレバーだ。
《ウェポン・オーバーブレイク》は武器破壊を代償とするが、このアーツは攻撃終了後に武器が自壊する。
対して《ソード・アヴァランチ》は、自壊してから攻撃が行われる。
つまり彼は、《ウェポン・オーバーブレイク》のコストを踏み倒したのだ。
「レギオンはこのぐらいじゃ斃せないよ」
「レギオンには効かないよ」
「「だってレギオンは強いから」」
しかし、レギオンの猛攻によって《ソード・アヴァランチ》は防がれる。
進化したことによってレギオンの身体能力は飛躍的に上昇し、更には捕食したモンスターの因子が統合されたことによって異形の武器を手に入れているのだ。
大人のレギオンが後方から援護し、少女のレギオンが肉体を変化させ接近戦を仕掛けている。
肉体の変化は瞬時に行われる。鳥獣にドラゴンを掛け合わせた翼、ドラゴンの牙や爪を生やした異形の尾、地面を易々と斬り裂く鋭利な鉤爪に、影の中から無数に飛び出す数え切れないモンスターの部位。
これほどの武器を持ち同時に展開できるレギオンに、瞬時に数えられる程度の数しか扱えないキルゼムオールが勝る道理は無い。
「《プレイグスプレッド》、《ペネトレイトシュート》」
「レギオンのマスターを無視しちゃ駄目だよ」
「ァアア! クッソ面倒くせぇな!」
言葉とは裏腹に楽しそうではある。
しかしレギオンの指摘通り、セナを無視するわけにもいかないので、キルゼムオールは放たれた矢を寸前で回避した。
「……ニーチェの土、トゥータの風」
――だが、突如として隆起した地面がキルゼムオールの体勢を崩し、不自然な風が矢の軌道を変えて再び彼を狙う。
「ッ、《
しかし、眼前にはレギオンという脅威が存在している。
疫病の珠を縛り付けた矢か、レギオンか、キルゼムオールは次の行動の選択を強制された。
そこで、彼は地面を粉砕することで矢を回避し、欠片を蹴り上げてレギオンの動きを阻害する。
あのアーツは地面などにも有効らしく、ホルンの時とは比べものにならない深度まで破壊されている。
「《ボムズアロー》」
「チィッ!」
すかさず追撃を行うことで、次へと繋げさせないセナ。
「《キャスリング》《クリティカルダガー》」
そして、レギオンの一体と位置を入れ替え、短剣による斬撃を繰り出した。
「《
「アルバートの火」
キルゼムオールは《クルーエルハンティング》を警戒して同種のバフを使おうとしたが、それより先にセナの刃が届く。
装備スキルの効果で火属性を付加した短剣は、肉を焼きながら深々と突き刺さった。
「……
だが、まだ斃れない。
肋骨を避けて突き刺された刃は、人体にとって重要な臓器を破壊している。
それでもこの男は、アーツを起動し反撃を行った。
手甲による打撃が、セナの側頭部に命中する。
ぐらり……と視界が揺れるが、たたらを踏んで持ち直した。
「(短剣が……!)」
けれど、セナは武器を一つ失ってしまった。
脳を揺らされた影響で武器から手を離してしまったのだ。
「――ク、ククク、クハハハ! ああ、これだよこれ! 俺がこのゲームに求めていたモノは!」
追撃を警戒するセナだが、キルゼムオールは突如として足を止めて笑い始める。
武器から手を離し、だらりと腕が垂れる。
片手を顔に当てて天を仰いでいるので、攻撃する意思はなさそうだ。
「あー……死ぬ。痛ぇなぁ……死ぬわこれ。クッハ……」
「……?」
「もう貧血で視界が定まらねぇし、足下もおぼつかねぇ……つか怠い。力も入らねぇし、惨めにうだうだ続けるぐらいなら、潔く負けてやるよ」
そう言って、キルゼムオールは砕け散った武器の欠片を拾い上げ、自分の首筋に当てた。
何をするのか明白であり、セナがトドメを刺そうと矢を射るより早く、彼は自らの首を斬り裂いた。
出血の状態異常によってHPが削られていたのもあるが、副次的に発生した状態異常によって、もう戦えない状態だったのだろう。
《――決勝戦はセナ様の勝利です。おめでとうございます》
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