81.表彰式と配当金
「――三位も決まったことだし、表彰式をしようじゃないか」
決勝が終わったあとは、ホルンと剣士ああああによる三位決定戦が行われていた。
勝ったのは剣士ああああである。
ホルンの音波攻撃は強力ではあったが相性が悪かった。大量の水による質量攻撃に押し切られていた。
順位が確定すると、舞台上に表彰台が設置される。
セナ、キルゼムオール、剣士ああああの三名は舞台上に用意された台へと上がった。
……が、セナは緊張して帰りたくなってきた。注目されるのは苦手なのである。
戦闘中であれば意識的に排除できたが、このような場では人見知りが発動してしまうのだ。
なので、セナはレギオンを抱きしめ顔を埋めてた。何も見ていないし何も聞いてない、を全力で実行している。
「……おい、コイツ本当に同一人物か?」
試合中とはまるで違うセナに、キルゼムオールは呆れた様子を見せた。
シータも「あー……」と言い淀んだが、軽く咳払いをして表彰式を続行する。
「まず、報酬の授与からだ。一位から三位の共通報酬として、『スキルオーブ』を進呈しよう」
パチン、と指を鳴らすと、透き通る蒼色の宝玉が三つ出現した。カルマ値を判定する水晶に似てはいるが、大きさも色もあれとは異なっている。
手に持つと、意外と重さを感じない不思議なアイテムだ。
「それはスキルを追加で獲得できるアイテムだ。けど、スキル枠を超えて獲得するほど、レベルアップに必要な経験値が跳ね上がるから、使うも売るも君たち次第……」
セナは渡されたオーブを見つめる。……レギオンの後ろに身を隠したまま。
このオーブからとても神聖な力を感じると同時に、どこか恐ろしいモノが秘められているとセナは思った。
まるで、悪魔の契約のようだ。
「次に、EXPポーションをあげよう。三位には一つ、二位には二つ、一位には三つだ」
次に渡されたのは、そこはかとなく輝いているライム色の液体が入った瓶だった。
これには莫大な経験値が封入されているようで、フレーバーテキストにはレベル1で使用するとレベル30まで上昇すると書かれている。
「ここからは個別報酬だ。三位の君には、このアイテムだ。中身は……成長してからのお楽しみさ☆」
剣士ああああに渡されたのは宝匣だ。ただし、鍵穴の代わりに凶悪そうな口が付いている、ミミック然とした匣である。
少し嫌そうな顔して受け取っていた。
「二位の君にはこれをあげよう」
「……なんだこれ?」
「特殊装備品というやつさ。詳細は自分で試して調べるといい」
キルゼムオールには小さな瓶が渡された。中身は透明な液体だが、真っ赤な紋様が浮いている。それは水に落ちた血のように滲んでいるが、不思議と崩れる様子が無い。
彼は訝しむように覗き込んでから、インベントリに仕舞った。
「そして、一位の君にはこれだ」
セナに渡されたのは、一枚の古びた紙と筆だった。裏には細かい文字がびっしりと書き連ねられているが、日本語でも英語でも無い謎言語である。
表面は白紙で何も描かれていないが、自分で描けと言うことだろうか?
「それは一度だけ、望んだ物を得られるアイテムだよ。武器でもお金でも、欲しいモノが手に入る。どう使うかは……君次第☆」
どうやら称号などは無いらしく、アイテムの授与が終わると表彰式は終わった。
シータは姿を消し、アナウンスが観客席と舞台を自由に行き来できることを知らせる。
《――ただいまより、配当金の分配を行います》
《――的中券をお持ちの方は、アイテム欄から選択し使用してください》
コロッセウム内部に移動したセナは、物陰に隠れてインベントリを開いた。表彰式が終わった後、人目を忍んで移動していたのだ。
本戦トーナメントではゲーム内通貨を使って賭博も行われていたため、セナは所持金の半分ほどを自分の勝利に賭けていたのである。
「幾らになるかな」
「わくわく」
「……レギオンが開封してね」
「分かった。レギオン楽しみ」
ガチャでの結果から、セナは願掛けの意味も込めてレギオンに使用させた。
結果は……三〇〇万シルバーが数千万シルバーもの大金に膨れ上がっている。大勝ちだ。
全体的にオッズがばらけていたので、残念ながら億には届かなかったが、それでも十分すぎるほどの額だ。
二位以下の方は的中しなかったけれど、それでも元は取れているので満足だ。
「……やっぱりレギオンの運分けて」
「マスター、くすぐったい」
「だから、レギオンも仕返しするね」
ここまでの大金を手に入れられたのは、レギオンの存在を予選で明かさなかったのも要因の一つだろう。セナの戦力が低く見積もられたことで、オッズが極端に低くならずに済んだのだ。
賭けたのはセナ自身だが、やはりレギオンの運が高いとセナにも幸運がやってくる。そう感じたセナは、レギオンを抱きしめて撫で回した。
……そして、二人のレギオンが対抗するように頬ずりを始める。とても仲睦まじい、百合の様相だ。
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