7.レッツダンジョン

 ヒーラーから怯えられ、しかもリスポーンした元パーティーメンバーにも避けられたセナは、広場の端っこで黄昏れていた。

 理由は明白で、セナの所業をヒーラーが彼らに伝えたのだ。「ちょっとフレンドは遠慮したいかな……」みたいな雰囲気で避けられている。


 セナの足下に召喚されたホーンラビット(兎一号さん)とヴォーパルバニー(兎二号さん)は、そんな主人を慰めることはしない。

 正確には、慰めようとしたヴォーパルバニーをホーンラビットが引き留めている。「やめろ! 関わるんじゃあない!」と必至に。逃げないのは《テイム》されているからだ。


「(フレンドいなくても遊べるもん……ゲームだから一人でも楽しいもん……兎さんとパーティー組めるもん……)」


 結果としてパーティー(従魔を入れて)なのにぼっちになっている。

 NPCを加えてパーティーを名乗るのはちょっと悲しいものがあるが、それはそれとして次の街に行くことにした。

 レベル的にも問題無い。




 それからセナは消耗品を買い、次の街へと足を進める。

 【木工】を使用しようにも道具が無いので仕方ない。戦闘では矢は可能な限り節約する方針にした。


「兎さん一号はモンスターを集めて! 兎さん二号は一号が集めたモンスターを斃してね!」


 テイマーなのでセナは広範囲で狩りをしながら進むことが出来る。

 踏み固められた道を歩きながら、その傍らに広がる草原で従魔二匹は懸命に狩りをしている。

 ……そして、処理しきれなくなったら自爆で従魔もろともモンスターを吹き飛ばすのだ。


 【テイム】によって従魔となったモンスターは、HPがゼロになっても自動で復活する。

 ステータス半減というペナルティこそあるものの、従魔をロストすることは無いのだ。

 だからこその自爆技であり、セナはこれを有効活用している。


《――ダンジョン:始まりの森に侵入しました》


 二つ目の街への道中にはダンジョンがある。

 通常フィールドとは違って、ダンジョンではパーティー毎にサーバー分けされているため、侵入した時点で他者の横槍が入ることは無くなる。


「ダンジョンもあるんだ。じゃあボスもいるのかな」


 ダンジョン名に始まりと付いているだけあって、この森はとても歩きやすくなっている。

 セナはゲーム内の森しか知らないが、この森はこれまで体験したどの森よりも易しいと感じた。


「っと、モンスターだね。兎さん一号は突撃して動きを止めて! 兎さん二号はその隙に首を攻撃して!」


 矢を番えながらセナは指示を出す。


 テイマーはパーティー枠を従魔で埋め、その従魔を【使役獣強化】などのスキルで強化して戦うのがテンプレとなっているが、そもそも【使役獣強化】と【使役獣覚醒】の発動には一定値以上の好感度が必要だ。

 自爆を強要しているセナへの好感度が高いわけもなく……


「(レベルは10だからそんなに強くないけど……この分だとボスは15くらいかな)」


 これまでの経験からボスのレベルを推測したセナは、少し苦戦するかもしれないと考え始める。


「とりあえず《ポイズン》《マナエンチャント》、兎さん一号はそこで自爆です!」


 攻撃している間はストレスを発散するかのごとく苛烈だったのに、命令された瞬間死んだ目になった兎さん一号は自爆した。

 ちなみに、自爆した従魔はレベルダウンと引き換えに復活する。消費されるレベルは従魔のものである。


 兎さん二号は仲間が毒々しい自爆を強要されたことに恐怖しつつ、自分はそうなりたくないので必至に敵の首を刈り続けている。


 それから森を進んだセナは開けた空間に到達した。なお兎さん一号は一〇回、二号も三回ほど自爆するはめになった。


「ガゥァアアアアッッ!」


 奥の木々を薙ぎ倒して熊が登場する。

 セナはとりあえず自爆当てて様子見しようと思ったが、アバターが動かせなかったためいわゆる演出であることを理解した。


《――始まりの森:ボスモンスター【スクラッチベアー】が出現しました》


 音声付きのログが流れると同時にアバターの制御権が戻る。

 セナはすぐさま距離を取り、従魔に突撃を命じた。


「(まずは予備動作の確認。パーティー前提だろうからちゃんと覚えないと)」


 一人でも楽々斃せる、なんて甘い考えはセナには無い。

 ボスモンスターは乗り越えるべき壁、運営からの挑戦状のようなものなのだ。

 実際、過去のゲームでは実装から初討伐まで一ヶ月以上掛かった例だってある。


「(さすがにそんな難易度じゃないだろうけど……余裕は無いかも)」


 二体の従魔の攻撃でも微々たるダメージしか入らないのを見て、セナは思わず眉を寄せた。

 自爆によるペナルティがあるとしても、兎さん一号(ホーンラビット)がレベル18、兎さん二号(ヴォーパルバニー)がレベル16だ。

 対して【スクラッチベアー】のレベルは15と表示されている。


「(どうやって斃そうかな……)《ポイズン》《マナエンチャント》《シュート》!」


 矢に毒属性となったMPを付与して放つ。

 《シュート》は【アーチャー】に付随する技能であり、次の一射の威力を二倍にする効果がある。

 その矢は従魔に気を取られていた【スクラッチベアー】に命中し、そのHPを一割近く削った。

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