95.蝗害

 今回セナが受けたクエストは、タージイオタから少し離れた場所にあるダンジョンを攻略し、そこのボスエリアにある素材を採集するといった内容だ。

 ダンジョン名は『枯れ消えた選定の泉』であり、広い荒野を探索して奥地へと進む必要がある。


《――ダンジョン:枯れ消えた選定の泉に侵入しました》


「――もうダンジョンなんだ」


 内と外に明確な境が無かったため、セナは少し驚いた。


「……レギオン、索敵お願い」

「ん、分かった」


 だからといって攻略方法が変わるわけでもなし、レギオンは小さなレギオンらを生み出して索敵を開始する。

 もちろん道中のモンスターは遭遇すれば斃す。経験値は少しでも稼ぎたいので。


「……昔は豊かな森、なんだっけ」


 クエスト画面のフレーバーテキストには、このダンジョンがあった場所はかつて豊かな森だったと記載されていた。

 何が起きればこんな荒れ果てた土地になるのか……。


「レギオン、注意して――」

「敵、地中にいる!」


 もしかしたら環境を変えるようなモンスターがいるかもしれない。そう思って注意を促そうとしたが、レギオンは既に敵を補足していた。

 反射的に飛び退いたセナは、ホーンラビットを先ほどまで自分がいた位置に放り投げる。

 すると、地中から巨大なワームが現れ、ホーンラビットをその大きな口腔で飲み込んだ。


「……自爆!」


 慈悲も容赦もなく自爆を命令されたホーンラビットは、巨大なワームを半ばから千切るほどの爆発を生み出した。

 ワームは獲物を丸呑みにして体内で押しつぶすため、爆風が逃げる方向が限られている。そのため、自爆攻撃の威力が高まったのだ。


「《プレイグシュート》!」


 しかし、それでもワームは斃れない。脅威の生命力だ。

 プラナリアのように、千切れた箇所から徐々に再生が始まっているため、セナとレギオンは矢継ぎ早に攻撃を叩き込む。


 幸いなことに、再生するのは体積の大きい方だけであり、増殖するようなことは無かった。

 斃すのが面倒なモンスターだけあって、経験値もそれなりにある。

 これで経験値も少なければ、ただただ面倒なだけのクソモンスターだった。


「……食べていいよ」

「…………」


 さすがのレギオンもワームを食べるのは躊躇するらしく、影のほうで嫌々取り込んだ。

 ドロップしたのが完全遺骸でなければセナが回収するのだが、完全遺骸は全部レギオンの餌にすると決めているので、これは仕方のないことである。


「なるべく引き寄せてから纏めて斃して!」

「レギオンは強いから、任せて!」


 探索を続行するセナたちだが、遭遇するモンスターは蟲系ばかりだった。しかも、あまり触りたくないタイプのキモい蟲である。

 セナとて女の子、悍ましい蟲には嫌悪感を抱くし拒否反応を示す。

 レギオンも影を駆使して直接触るのを避けている。


「レギオンはそっち、レギオンはこっち」

「分かった」


 最終的にモンスタートレインになったが、二体のレギオンは肉体を変化させてドラゴンブレスを放つ。

 本来ならドラゴンにしか扱えないが、レギオンは進化した際にドラゴンの因子を獲得している。なので、肉体構造を変化させればドラゴンブレスを放てるようになるのだ。


「けほっ、これすごく大変」

「レギオン喉焼けた」


 ……しかし、耐性までは獲得していないため、高火力のブレスはレギオンにもダメージが入ってしまう。

 レギオンたちはちょっと涙目になりながら煙を吐いた。


「だいじょうぶ?」

「……ん、レギオンは平気。頑張る」

「マスター最優先」


 だがレギオンは、健気にも拳を握りしめて「むん!」と顔を引き締める。

 簡易ステータスで確認できるHPもまだまだ余裕があるので、セナはレギオンを連れて更に奥へと足を進めた。


「――あれがボス……かな」


 そして、ダンジョンに侵入してから凡そ三〇分で、ボスらしき物体を発見した。

 それは窪みの中心で蹲っており、姿形が明瞭ではない。何か煙のようなものを纏っているのかと思ったその時――


《――ダンジョンボス:【ローカストダメージ】が出現しました》


 ソレは突如として舞い上がった。耳障りな喧騒をかき鳴らして、大量の飛蝗バッタが動き始める。

 セナは思わず「きゃぁ!?」と可愛らしい叫び声を発した。


「《ボムズアロー》っ!」


 反射的に《ボムズアロー》を放ったが、【ローカストダメージ】にはあまり効果が無い。

 それもそのはず、これらは単体ではなく群体のモンスターである。

 レギオンと同じで、HPは群れの総数に置き換わっているのだ。


 群れを撃滅しない限り【ローカストダメージ】は斃せない。

 斃すには、群れ全てを飲み込むほどの範囲攻撃か、属性攻撃で地道に数を減らす他ない。


「っ、レギオン!」

「うぇ、頑張る……」


 しかもビジュアルが最悪である。

 【ローカストダメージ】はただの飛蝗ではなく、ファンタジー風にデザインされた凶悪な飛蝗だ。

 ぶよぶよとした生々しい赤桃色の体を、黒い甲殻が包み込んでいる。

 しかも一体一体のサイズが握り拳ほどもあるため、虫嫌いには耐えられない光景だろう。


 レギオンはマスターを守るため、セナはクエストを達成するため、自らを奮い立たせて蝗害へと立ち向かう。

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