144.ワイルドハント
運営――特に管理者にとって、レギオンは貴重なサンプルである。
いずれユニークモンスターに成長するはずだった、クエスト専用の敵モンスター。だが、セナがテイムしたことでデルタが用意した道は閉ざされ、独自の道を歩むことになった。
そして、システム上は【魂魄】という名称でスキル欄に表示されている、数式に変換することの出来ない魂を獲得した数少ない存在でもある。しかも活性化した疑似神格が血を与えたことで、分類もキメラ/ユニーク/ファミリアと複雑になった。
未だ計画の準備段階に過ぎないが、レギオンは管理者が創り上げた虚構の神々を、現実世界に
そんなレギオンは今、管理者が主催するイベントに於いて次のステージへと進んだ。
システムがエラーを吐くほどの感情を発露し、主との繋がりを基にして勝手にアーツを作ったのだ。
無意識による行為ではあるが、自発的に内部からシステムに干渉している。
これはもはや、仮想空間に在るだけで人間となんら変わらない熱量を有した、本物の人造生命と言えるだろう。
♢
「神威……!」
神威を発動したセナは、その身にレギオンを纏っていた。元々の装備にレギオンの一部となっていた『夜闇の襲撃姫』を組み合わせたような格好だ。更にレギオンの影で編まれた軽鎧も身に付けている。
「(任せるよ、レギオン)」
だが、今回の主役はセナではない。
セナが自傷する原因を作ったことに憤る、レギオンである。
「――マスターが使ってくれた。なら、
少女レギオンが影を大きく拡げると、その影の中で無数の目が光った。
光るだけでは無い。亡霊のように次々と影から這い出て、未練を叫ぶように咆吼を上げる。
「殺戮機構その二、アクティベート!」
数が数だ。ミゼリコルデは即座にミニガンを構築して掃射した。
演出に気を取られていたが、よくよく観察すればどれも大したことの無いモンスターである。
格下がいくら群れようと、格下殺しの武装でどうとでも――
「っ、不可解!」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!』
ならない。ミニガンでは対処しきれない。群れなす亡霊の如き雑兵は、ミゼリコルデにとって信じ難いステータスを有していた。
なぜならこれはワイルドハント。
これまでレギオンが捕食し取り込んできた数多のモンスターが、獲物を狩り殺す亡霊と化した姿なのだ。
セナが頂点に立ち、レギオンが統率する狩猟団。その全てがレギオンとして扱われるため、基になったモンスターではなくレギオンのステータスが反映されている。
「……しかし、従魔であるならば!」
「無駄。レギオンはたくさんいる」
即死を期待して
しかも、レギオンの総数は主であるセナですら把握できていないほどに膨大だ。全てを殺しきるのは不可能に近い。
「……レギオン、自爆!」
そして当然だが、従魔である以上は《自爆命令》の対象である。
至近距離で従魔の自爆を食らったミゼリコルデは大きく吹き飛ばされ、体勢を整える間もなく次の攻撃に晒される。
数千数万の従魔で自爆特攻を実行されたら、いくらレベルに差があっても勝ち目が無い。
対処しようにも一発につき一体しか斃せない
「……対処不可能と判断」
故に、ミゼリコルデは撤退を決めた。対邪神、対尖兵、対モンスターを想定して創られた姉妹機と違って、ミゼリコルデは対人専門のエクスマキナだ。
人相手ならともかく、モンスター相手に勝てない戦いをするほど愚かじゃない。
なぜ自分ばかり……とちょっとした愚痴を抱えつつ、彼女は一番近い通路へと逃走する。
「ハッ、逃がすわけねーだろ! 《神威:
「っ、貴方もですか……!」
けれど、この場にはもう一人いることを忘れてはならない。
キルゼムオールの神威は相手に戦闘を強要する。絶対に退くことが出来ない闘争を。
これだけならばただの決闘だが、メインはそこでは無い。
「俺の神威は戦いの後が本領でな……不死者だろうがなんだろうが、決闘中に死んだ時点で冥府直行だぜ!」
それは、死の強制。たとえ死から復活する手段を有していようと、死なない体の持ち主だろうと、決闘に敗北した時点で死という結果に辿り着く。
プレイヤーならば単純にデスペナルティの増加。NPCならば……冥府への片道切符だ。
「ならば、貴方を斃せばいいだけの話です」
「それが出来ればなぁ!」
『剣の従者』を盾にして凶弾を防ぐキルゼムオール。
生物ではないため『死呪刻印』は効かず、防御性能が高いため数発は耐えられる。時間さえ掛ければどうにでもなるが、この状況ではチェックメイトされたようなものだ。
「ああ、それともう一つ。俺とテメェは一騎打ちしなきゃならねぇが、これは第三者には適用されない。――つ・ま・り! コイツらはやりたい放題ってわけだ!」
「……そうですか。なぜいつも私ばかり損な役――」
囚われた時点で詰み。
そう理解したミゼリコルデは武器を捨て、嘆きの言葉を言い終わる前にレギオンによって破壊される。
亡霊は自動人形の欠片を容赦なく、光の塵となって消えるまで蹂躙した。
「――うし、斃せたな。クッソ、マジで発動条件ギリギリじゃねぇか。あと一秒でも遅れてたら逃げられるところだったぜ」
ちなみに、彼の神威は戦闘が始まってから提示されるランダムな条件を、一定時間内に満たさないと発動できないという欠点があるため、運が悪ければ撤退を許していたところだった。
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