145.考えることは同じ
「――斃した……のか?」
演奏を続けていたホルンが呟く。ホルンたちはこの戦闘中、地味にバフをばらまいて二人のサポートをしていた。
通常では一つのステータスにつき+二〇%のところを、演奏を四人で同時に行い、そしてDEXとAGIの二つに絞ることで脅威の+一五〇%となっていた。
戦闘を彩るBGM係に専念していた彼らも、微力ではあるがミゼリコルデ討伐に貢献していたのだ。
「おう、斃したぜ。つか生き残ってたのな」
「……私は生存型だ。耐えることに重きを置けば多少はやれる」
「そうかよ」
レベルは低いが、攻撃を諦めて防御に徹すれば格上相手でも生存率が高いらしい。
彼のアーツは音波を利用しているので、確かに攻防共に優れていると言えるだろう。
「マスター……疲れたぁ……」
ミゼリコルデを斃したことで神威が解け、それに伴いレギオンのスキルも解除された。
ただ、ワイルドハントの維持にはとてつもないリソースが要求されるようで、レギオンはMPのほぼ全てを失っている。
セナも神威によって――発動しただけではあるが――MPを二割も消費している。
ポーションはあるが数に限りがあるので、運用は短期決戦のみに控えた方がいいだろう。文字通り、必殺技なのだから。
疲労困憊といった様子で甘えてくるレギオンたちに抱きつかれながら、セナは神威について認識を改めた。
「(変身系だから維持はしやすいけど……MPが足りなくなるね)」
セナ自身もアーツを使用すれば、神威に使えるMPは加速度的に減るだろう。短期決戦、対集団、広域殲滅……個人で持つにはあまりにも強すぎる故の代償と言える。
「さぁて……どうする? 俺らの目的は達成したわけだが、他の奴にも喧嘩売るか?」
セナが自分の状態を確認していると、キルゼムオールは血色の長剣を担いでそう言った。
『剣の従者』はミゼリコルデの最後のあがきで破壊されたが、MPの回復は済ませたようだ。
今回、ミゼリコルデを斃したことで得た三○○万ポイントは、貢献度に応じて分配されている。
もしも他にミゼリコルデ級の敵性存在がいるのなら、それを倒しに行くのはリスクはあるがポイント大量ゲットのチャンスにもなる。
「いるかどうかも分からないのに……?」
「クハッ、いるかどうかは掲示板見りゃすぐ分かる。雑魚どもが喚いてやがるぜ?」
そう言うので掲示板を開いてみると、確かに目撃情報があった。
黒曜石のように黒く艶やかな肌、石灰のように白い頭髪、頭部から突き出ている捻れた角と、腰から伸びた長い尾。更に真っ黒な肌と同じ色の角と尾には白い甲殻が付いている女性NPC。
どう考えてもヴィルヘルミナだ。セナは
他にも、白を基調とした礼服の上から同じく白を基調としたローブを羽織り、長杖から光を束ねたレーザーを放ってプレイヤーを屠る
「な?」
「……わたしは戦わない。勝てないって分かってるから」
本気の彼女らに相対するには、最低でも同じ土俵に立てなければならない。
セナたちのレベルはたった三桁。一〇〇を超えたばかりだ。三桁後半……下手すれば四桁ある相手と戦うには低すぎる。
試練の時とは違うのだ。手加減は期待できない。ジジに至っては神域で何度も実力差を痛感させられているし。
「んじゃあ、ここで解散だな……っと!」
パーティーを解散して背を向けたキルゼムオールは、いきなり担いでいた長剣を振るって斬撃を放った。
その斬撃はポーションを飲んでいたホルンに直撃し、演奏を終了していたが為に音波で防げず即死した。
「リーダー! お前――」
「クッハ! 俺が誰だか忘れたかマヌケ!」
そう言いながら次々と斬撃を繰り出していく。唯一攻撃手段を有していたホルンが真っ先に潰されたため、残された三人も抵抗らしい抵抗も出来ずに斃された。
「ゆる……さ……」
「ハッ、俺はPKだぜ? 目の前にPKいんのに油断してたら、そりゃあ殺してくださいって言ってるようなもんだ!」
トドメとばかりに脳天をかち割って、彼は嘲るようにそう言った。
「……さて、PKでもポイントは入るからな。さっきので得たポイントはもらうぜ――」
「仲間じゃないなら敵……だよね」
そして、その場を後にしようとしたキルゼムオールは、喉に短剣を突き刺されて死亡する。
セナは彼が行動に移ったのとほぼ同時に《ステルスハント》で姿を隠していたのだ。
《クルーエルハンティング》と《サプライズダガー》の組み合わせ、
「えい」
何かされても困るので、レギオンもセナに倣って攻撃した。
さすがに首、頭部、心臓の三箇所を串刺しにされれば死ぬようで、キルゼムオールは何かを言い残すことなく斃れた。
先ほどの分配で得たポイントは一二〇万。そこに八〇万の追加が入り、合計で二〇〇万ポイントの獲得である。
狂信者が行く! ~病弱美少女はゲーム世界を疫病で満たすようです~ こ〜りん @Slime_Colin
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