57.逆転のための切り札
ねじ伏せるような迎撃を目の当たりにしたセナは、心の中で思う。
どうやって勝てばいいのかと。
溶岩の蛇は今も変わらず在り、シャリアだけに意識を向けるわけにはいかない。
だが、シャリアの攻撃は一つ一つが即死級であるため、溶岩の蛇にばかり構っていてはすぐにやられる。
しかし、セナはバカではない。
溶岩に構う必要はなく、シャリアを狙い撃ちにすればいいのだと考える。
つまり、お邪魔ギミックとして考えることにしたのだ。
「なるほど、そう来るのね。ならば……押し寄せる海嘯、大嵐が如く」
しかし、慣れてきたところでフィールドが変化する。
グツグツと煮え滾る大地から、嵐に見舞われた孤島へと一変した。
足元は海水で削られた不安定な岩場。海は荒れ狂って津波を起こし、竜巻と雷を伴って嵐が猛威を振るう。
「(また変わった……!? 守護者の時と違って一回で終わりじゃないんだ)」
急に足場が変化したのでつんのめったが、なんとか体勢は崩さずに留まるセナ。
溶岩の蛇は海水で冷えて固まり、ボロボロの岩塊となって崩れ落ちた。
「星屑のように、舞え」
シャリアが杖を振りかざすと、きらきらと煌めく礫が
それらはゆっくりと円周機動を描いて落下し、やがてばらばらに降り注ぐ。
しかも微弱なホーミング性能があるらしく、どれもセナ目掛けて落下している。下手を打つと逃げ場を失うことになるだろう。
だから、セナは《ボムズアロー》で迎撃した。
礫自体は拳サイズであり、壊せなくても爆発の威力で多少の猶予は作れると判断したからだ。
「(さっきもそうだけど、意図的に手を抜かれてる感じがする。やっぱり試練だからかな。……当たったら即死するんだろうけど)」
この程度で被弾するような相手などシャリアも願い下げなのだろう。
だから一撃一撃が即死級だし、敢えて回避や迎撃をする猶予が与えられているのだ。
セナはジジに鍛えられた勘があるので、咄嗟の判断でその猶予を見極めている。
「そろそろ手加減は無しで大丈夫かしら? それとも、まだまだ甘えたい年頃?」
「……ぜんぜん、平気ですけど」
「なら少しだけキツくいくわよ。……神々の加護を禁ずる」
その瞬間、セナは形容しがたい脱力感を感じた。
ナニカが抜け落ちたような、それとも勝手なリミッターを付けられたような、違和感に近いもの。
簡易ステータスには【加護封じ】の状態異常が記されていた。
「これ、は……っ」
「潰せ、潰せ、圧殺せよ」
今度は猶予無しに追撃が行われる。
勘に従ってその場から離れると、数瞬遅れで地面が陥没した。
「(消えたわけじゃない……。でも、封じられたら耐性が……!)」
セナに与えられた【疫病の加護】は耐性に特化したものであり、これが無くなってしまうと《プレイグスプレッド》などの広範囲を疫病に包むアーツに自分も巻き込まれてしまう。
《プレイグポイゾ》も自分に使うことが出来ず、セナは切り札を封じられてしまった。
「っ――レギオン!」
「ここにいる……レギオン何をすればいい?」
シャリアの視界から隠すように、セナはレギオンにあるモノを手渡した。
「…………分かった」
レギオンは頷くと、そのまま渡されたモノを隠して影の中に沈む。
シャリアの視点では何を渡されていたのか見えていないが、切り札の類だろうと察することは出来る。
何を企んでいるのか楽しみにしながら、シャリアは攻撃を継続した。
「(タイミングを間違えないようにしないと。あとは、なんとかレギオンが届く位置にさえ降ろせれば……)」
アーツを繰り出し、セナはどうやってシャリアを地上付近に来させるか考える。
シャリアには高所の優位があるため、易々と手放すとは思えない。
挑発する手もあるが、セナは舌戦が苦手なので無理だ。なので別の手段を考える。
「……さあ嵐よ、
しかし、フィールドが更に荒れ狂う。風の勢いが強くなり、ゴロゴロと雷が鳴り始めた。
水位が僅かに高くなったので、島の端から海に飲まれていく。
しかも飲まれてしまった部分は少しずつ崩れて、潮が引いても活動できる範囲は回復しないだろう。
セナは次々と手札が使えなくなる状況に焦りを感じるが、一旦深呼吸を挟むことで狩人らしい思考に再度シフトする。
「(投擲は……この風だと無理だね。弓矢も難しい……でも)《ペネトレイトシュート》!」
貫通力に優れた《ペネトレイトシュート》なら、この嵐の中でもシャリアに届く。
射掛けられた矢を防いだシャリアの様子から、威力もあまり削がれていないと判断できる。
今あるもので獲物を狩る。それも狩人の技だ。
加護を封じられても技までは封じられていない。
まだ打つ手は残っていると、セナは自分を奮い立たせて頭上の獲物を狩る準備を進める。
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