19.ダンジョンボスを状態異常で殺す女

 セナはイベントに参加する前に、まずはアイテムボックスを開封することにした。


 これは少し特殊なアイテムで、匣を開封すると中身が出現するようになっている。

 手のひらサイズの匣から、明らかに入らないだろという大きさのアイテムが排出されるからだ。


 セナが開封すると、『色褪せた古の狩人装束セット』を入手した。

 頭、胴、腕、腰、脚、靴、合計で六つの装備品だ。


 これらの性能が【くまくまヘッド】より高いのを確認したセナは、早速装備を入れ替える。

 古風で色彩も豊かとは言えないが、性能はいいのだ。


 具体的には肉体系がステータス二倍になる。

 プレイヤーのステータスは数値化されていないが、装備品の補正は親切に+五〇%などと表示されるため、+一〇〇%と表示されているこの装備はとても強力だ。


 腕はSTRとDEXに、脚と靴はAGIに、頭と胴はVITに、腰はDEXとAGIにそれぞれ補正が掛かっている。


 残念ながら弓矢はセットに入ってないので以前のままだが、サブ武器としてジジから貰った短剣を装備するセナ。


「……よし!」


 強くなった気がする!

 ステータスが一気に上昇した時の妙な高揚感を覚えつつ、セナはイベント参加のボタンを押下した。


 ♢


 イベントフィールドは閉鎖的な空間であり、最低限の情報で構成された街らしき場所と、四隅から侵入できるダンジョンしか無い。

 イベントフィールドに降り立ったセナは辺りを見渡し、どこに行くべきか迷う。


「(どれ選んでも変わらないよね……?)」


 もしやダンジョン毎にモンスターが異なるのでは、と考えたセナであったが、探索より周回がメインなためそれは無い。

 お知らせにも記載されている。


 セナは一番人が少ない南を選んだ。

 他の入口と比べると人が疎らで閑散とした印象を受けるが、セナは構わず突入する。


「……洞窟? 無機物系だったらやだなぁ」


 大きな声を出したら反響しそうな洞窟だ。

 セナは従魔を呼び出し、鉱山のカナリアが如く先を行かせる。


「ゴーレム……」


 遭遇したモンスターは予想通り無機物系だった。

 岩で構成された体を破壊するには打撃武器が必須とまで言われるゴーレムだが……


「兎さん一号の自爆なら倒せるよね」


 案の定自爆によって粉々に粉砕される。

 ダンジョンが簡単に崩落するはずないという、先入観にも等しい信頼があるからこその自爆攻撃だ。

 なお自爆するのは従魔であってセナではない。鬼畜である。


「ドロップ品はぁ〜……あれ?」


 ドロップ品を確認しようとインベントリを開いたセナだったが、素材が増えた様子はない。


 どういうことだとイベントのお知らせを確認すると、最後の方に『本イベントではドロップ品の代わりにポイントが付与されます。ポイントを消費して豪華報酬と交換しよう!』と書かれている。


「あとで確認しよ」


 一先ずクリアが最優先だ。

 セナは意気揚々とダンジョンボス目指して洞窟を進む。

 無機物系モンスターを自爆で粉砕し、道が分岐したら従魔に様子を見に行かせる。


《――ボスモンスター【怒りのブルーガー】が出現しました》


 そんなこんなでボス部屋。

 ボスモンスターは何故か無機物系ではなく小さめの巨人だったが、むしろ好都合。

 セナは弓矢を構え、従魔に突撃して自爆するように命じる。


「《プレイグポイゾ》《マナエンチャント》」


 自爆には当然と言わんばかりに猛毒と疫病を付与している。


「《ペネトレイトシュート》!」


 そして、自爆によって発生した煙幕を利用して、巨人の死角からアーツを放つ。

 一射目で左腕の肘を破壊し、続けざまに放たれた二の矢によって左前腕がちぎれ飛ぶ。


「ウォォォ! ァァァァ! ガァアア!」

「うるさ……」


 とんでもない声量に顔を顰めるセナだが、動きは微塵も衰えていない。

 ジジ式地獄の訓練の成果である。


「《プレイグポイゾ》」


 がむしゃらな攻撃を躱し、巨人の足元に滑り込んだセナは短剣を振りかざす。

 《プレイグポイゾ》によって猛毒と疫病の二つの属性が付加された攻撃だ。


「――《クルーエルハント》」


 一際派手なエフェクトと共に、巨人の左足首が切断され宙を飛んだ。

 巨人は体勢を崩し、顔面を地面に強く激突させる。


「(やっぱり、これ反則並に強いアーツだ)」


 《クルーエルハント》はジョブ専用アーツである。

 このアーツの攻撃力は皆無だし、判定も刃で切断できるモノに限られる。


 だが、ジャストガードされない限り、このアーツは防御も頑丈も耐久も無視して対象を斬り裂く、欠損付与特化攻撃となる。


 ジャストガードするようなモンスターなんて稀で、シビアな判定を要求されるためプレイヤーで扱える人物も稀だ。

 つまり、このアーツは当たれば確実に欠損を付与できる。


「(欠損は出血を伴う状態異常で、ステータス欄には二つ表示される。しかも部位ごとに違う判定で)」


 ジジに身をもって分からされたため、受ける側がどうなるのか詳しいセナ。


 巨人は猛毒、疫病、欠損、出血の四つの状態異常に苦しめられ、やがて地に斃れ伏した。


「えぇ……」


 その呆気なさと手応えの無さに、セナはこれ本当にボスモンスター? と疑問を抱く。

 だがセナの体はダンジョンの入口に戻されており、ポイントが増加していることからボスモンスターであることに間違いはない。


 セナは、低レベル帯のモンスターなら一方的に狩り殺せるほどの力を身につけていたのだ。


「(不完全燃焼……!)」


 セナは周回した。少しでも手応えが欲しくて。あと経験値も。

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