18.続々・ジジ式地獄の訓練!
御技、アーツ。
通常のクエストでは儀式を完了させれば自動的に解放されるのだが、このユニーククエストでは訓練を通して身に付けないと解放されないようになっている。
「技能は使えるね?」
「はい」
「御技は技能が無ければ修得できない。だから、技能が御技となるまで繰り返し鍛錬を行う」
紫紺色の液体が注がれた杯を差し出し、ジジは飲み干すように指示を出す。
この液体は神域で湧き続ける聖水であり、“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”らしく毒に塗れている。
「一つの技能を御技として修得し直せば、あとは自然と昇華されていく。あとから会得するのも含めてね。だから一番使用頻度が高い武器を優先しよう」
「ぅぐ……《シュート》!」
口に含むだけで激痛が走る聖水を飲み干したセナは、壊毒の状態異常に冒された状態で技能を使う。
放たれた矢は用意された的に命中するが、中心には程遠い。
「これを繰り返すんだ。聖水は必ず飲み干さないと意味が無いからね。だいじょうぶ、この聖杯は最初に注いだ液体で満たされ続けるから」
つまりこの聖杯は毒しか生み出さないということだ。
聖水とはいえ毒しか生み出さないのは非常に贅沢な使い方だが、ジジ曰く聖杯程度探せばいくらでもあるそうだ。
「……でも、なんで聖水を飲まないといけないんですか?」
「理由は幾つかあるけれど、最たるものは儀式だからだね。現代の簡略化された儀式は御技を強制的に引き出せるけど、その代わり強くなるまで時間が掛かる。君にさせているこれは私が生きていた時代でよく執り行われた古い儀式でね、辛く厳しい鍛錬の果てに強力な御技を得るためのものなんだ」
「じゃあ、これを乗り越えたら、わたしはアーツを使えるんですね」
「そうだとも。一つお手本を見せると……《ペネトレイトシュート》」
ジジは矢を番え、アーツを放つ。
セナと同じ構えで放たれた矢は的を貫通し、その後ろの木に突き刺さる。その威力は凄まじく、的の中心が消し飛び木も抉られていた。
「単純で使い勝手のいい御技だろう? 派手な技もいいけど、狩人らしさで言えばこっちのほうがいい」
それからセナは単調で繰り返すだけの鍛錬を始めた。
だが単調だからと手を抜いてはならないことは分かる。だから一つ一つ丁寧に、セナは集中して鍛錬を行った。
聖水を飲み、矢を番え、放つ。
聖水を飲み、矢を番え、放つ。
聖水を飲み、矢を番え、放つ。
技能がアーツに昇華するまでこれを延々と繰り返すのだ。
「(ジジさんは感覚で分かるって言って、具体的な違いは教えてくれなかったな)」
翌日も、翌々日もセナは鍛錬を続けた。ジジは見守るのみで口出しせず、女神も何もしないでいる。
最初は的の中心付近に当てることすら困難だったが、二日もあればズレた感覚ででも中心に当てるコツを掴めた。
「《シュー……」
すると、セナは突然奇妙な感覚を覚える。
体の内側から熱が湧き上がるような、そして熱が右手に集中するような、そんな感覚だ。
セナはいけると思った。
「《ペネトレイトシュート》!」
セナが放った矢はジジの手本のように的を貫通し、その後ろの木へと突き刺さる。
衝撃で木の皮が剥がれた。
《――《ペネトレイトシュート》を修得しました》
念願のアーツ修得である。
セナはようやくアーツを修得できたのだ。
しかしこれで終わりではない。現在セナが使える技能の大半はアーツになっていないからだ。
セナは次に【毒化】の技能である《ポイズン》をアーツにするべく、同じように鍛錬を始めた。
それが身に付けば次の技能を、と繰り返していく。
アーツとして修得し直す時間は次第に短くなり、最後の技能はたった数回で昇華した。
====================
『セナ』レベル
“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の信徒
└【疫病の加護】
ジョブ:“疫病と薬毒司りし女神の慈悲無き狩人”
└《クルーエルハント》
スキル:
【テイマー】【アーチャー】
【使役獣強化】【使役獣覚醒】
【毒化】【魔力付与】
【鷹の目】【採取】
【調合】【木工】
アーツ:
《テイム》《自爆命令》
《ペネトレイトシュート》《プレイグポイゾ》
《マナエンチャント》《ホークアイ》
《コレクション》《プロダクション》
====================
アーツ名は技能から変化したものもあれば、そのままのものもある。
どれも技能の時より性能が向上しているため、セナの手札は以前よりも格段に強力になっている。
《クルーエルハント》はジョブ専用アーツとしていつの間にか修得していた。
《――クエスト:アーツ修得への道・疫病編、薬毒編がクリアされました》
『……よくジジの指導に耐え御技を修得した。これは我からの褒美だ』
「教えたことは忘れないように。あと私からの餞別」
そして、ようやくユニーククエストがクリアされる。
セナはジジから餞別として短剣がプレゼントされ、女神からはアイテムボックスが渡された。
アイテムボックスは開封すると装備一式が入手出来るものであり、神域では使用不可となっている。
『……またいつか招待することがあるかもしれない。我が信徒よ、堕落することなく励むように』
セナの視界は光に包まれる。
来たときと同じような浮遊感に襲われ、気付けばセナは教会の広間にいた。
「……終わっちゃった」
少し残念に思いつつ、セナは教会をあとにする。
公式イベントはまだ開催中なので、ギリギリではあるが今から参加しようと思ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます