33.見せてもらおうか、生産道具とやらの性能を

 【木工】と【調合】それぞれに必要な道具を購入し終えたセナは、ほくほく顔で街の外に出た。

 街中で生産する場所など借りていないため、邪魔の入らないであろう外で作業をすることにしたのだ。


 モンスターはレギオンに任せている。

 レギオンが従魔に加わってから、時折ドロップ品として完全遺骸なるものが入手できるようになった。

 レギオンがトドメを刺す時にドロップすることに気づいたので、専ら彼女の餌となっている。


「レギオンとても満足」


 多種多様なモンスターの死骸を、斃したそばから影の中に取り込んでいくレギオン。

 その総数はもう数え切れないほどだ。


「――レギオン、ちょっとだけ大きくなった」


 すると、レギオンは突然セナに抱きついた。

 びっくりするセナだが、腕の位置が高いことに疑問を覚える。

 振り返ってみると、セナとほぼ変わらない背丈にまで成長しているではないか。


「おおー……」


 前はセナの胸腔辺りに頭があったのに、今は真正面にレギオンの顔がある。

 心做しか、顔も少し大人びているような気がする。

 レベル20でこれなのだから、レベルキャップに到達したらいったいどれほどまでに成長するのか……。


 それはそれとして、セナは生産作業に戻る。

 作るのは消耗品である矢だ。再利用できなくもないが、一度射った矢はやじりが欠けていたり曲がっていたりと、矢としては最低品質である。


「まずは原木を使いやすい長さに切って、板状に加工して、これを四角い棒状に切り分ける……」


 《プロダクション》と違って手間が掛かる作業だが、生産は手間を掛ければ品質という形で成果が出る。

 セナは手慣れた様子で生産作業を行い、矢を完成させた。

 その品質はかなり高く、NPCの露店で買うものより二段階も上である。


「……まあ、特別な素材もないし、こんなものだよね」


 しかし、過去に別ゲーで使っていたような、特別な効果のある矢ではない。

 そういうのは素材から厳選する必要があるため、今のセナではこれが限界だった。


「それよりも……」


 セナは生産道具があることで使える、【木工】などの生産専用UIを開いた。

 作成したことのあるアイテムの履歴だったり、作成可能なアイテムのレシピだったり、色々なものが閲覧できるようになっている。


 そして、履歴からアイテムを選択すると、素材を消費することで自動的に生産されるのだ。

 《プロダクション》の上位互換である。

 無論、《プロダクション》は生産道具が無くても使用できるというメリットはあるが、品質を求めるのならやはりこちらのほうが優秀である。


「数が必要なら、やっぱりこれだよね」


 特別な効果の無い矢に手間暇かけても高が知れているので、セナは手っ取り早く量産できるシステムを利用した。


「特別な矢が欲しいけど、贅沢言ってもなぁ……」


 特別な素材というのは、得てして高難易度で入手したり、特別なモンスターがドロップするものだ。

 なので、今は普通の矢を大量生産するしかない。


 しかし手応えから、セナはこの生産キットはそんな特別な矢も作成できるだろうと察した。

 とても性能がいいのだ。


「次はこっちを試してみようっと」


 木工キットを一旦仕舞い、次に調合キットを取り出すセナ。

 展開すると、化学実験で使われるような道具が幾つも出現する。

 セナが調合できるアイテムは、『初級ポーション』、『古・初級ポーション』、『古・中級ポーション、』、『古・上級ポーション(特殊)』、『古・上級ポーション(完全)』の五種類だ。


「……あれ? 一個しか作れない。なんでだろ」


 しかし、生産可能なのは初級ポーションのみであり、それ以外の四つは灰色で表示されている。

 セナはなぜ生産できないのか考えたが、神域で何度も作ったことがあるので、技量不足ではないだろう。


「――あ、これ現代の素材じゃ作れないんだ……」


 レシピをよく見てみると、通常の初級ポーションとジジから教わったポーションとでは素材が違うことが分かった。

 ほんの少しの違いだが、それで生産不可能になっているのだろうと判断するセナ。


「レシピ覚えないと……もっかい古道具屋に行ってみよう」


 レシピを求めて古道具屋を再訪する。

 シルバーはまだまだあるが、一々消耗品を買っていてはいくらあっても足りなくなってしまう。

 なので、将来的に安上がりになる生産活動もするのだ。


「調合のレシピ? ここには置いてないさね。ドゥマイプシロンなら流通してるかもしれないが……今は道が寸断されているからねぇ」

「ドゥマイプシロン?」

「ここから北西に進んでいった先にある街さ。海に面しているから、貿易が盛んなのさ」


 老婆によると、最近はドゥマイプシロンとデルタリオンを繋ぐ道に強大なモンスターが跋扈しているのだとか。

 商人は独自に開拓した迂回ルートを使っているが、これまで通りの流通は不可能だと老婆は語る。


「それに、そもそも商人は秘密主義者が多いからねぇ。独自のルートなんかは最たるものさ」


 なので、セナがドゥマイプシロンに向かうためには、そのモンスターを撃破しなければならないのだそうだ。

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