9.アルファディア

 【スクラッチベアー】を討伐して森を抜けたセナの目の前には……!


「知ってた」


 草原と踏み固められた道があった。

 古のゲームのように移動したらガラッとフィールドが変わるわけもなく、森を抜けたところで草原が広がっているのは当然のことだった。


 ちなみに腕は戦闘が終了したと同時に治り、従魔も復活している。


「あっちに見えるのが次の街かな。よし、レベル上げしながら行こう兎さん!」


 返事は無い。好感度がゼロを通り越してマイナスになっているからだ。

 でも従魔なので逃げられない。


 それから当然のように惨いトレイン狩りを決行し、通りすがったプレイヤーを驚愕させ、セナは二つ目の街――アルファディアの門へと到達した。


「アルファディアへようこそ……って言いたいんだけど、ちょっとこっちに来てくれるかな」

「(……あれぇ?)」


 だが、セナは門番に歓迎されず、衛兵の詰め所に連れて行かれた。

 遠目からでもよく分かる悪行らしき行為をしていたのだから、そのまま入れるわけにはいかないと判断されるのも当然である。


「まずは名前とジョブ……は無いのかな。信仰先と使用武器を教えてくれるかな」

「……? セナです。“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”を信仰していて、弓矢と従魔で戦っています」

「猛威を振るう……? えっと、どの神だ……?」


 彼は棚から一冊の本を取り出し、辞書のように索引した。


「……なるほど。とりあえず邪教ではなく正規に信仰が許可されている神ということは確認した。次にこれに手をかざして欲しい」


 同じく棚から水晶玉を取り出すと、それを机の上に置いた。

 セナは言われたとおり手をかざすも、水晶玉に変化は無い。いったい何が目的なのか分からず首を捻ると、突如として水晶玉の中心に水色の渦巻きが発生した。……と同時に赤い渦巻きも発生している。


「善ではあるが悪でもある……微妙だな」

「これは何を調べているんですか?」

「カルマだよ。分かりやすくいうと罪だね。大まかに善か悪かを判別するんだが、ごく稀にどちらでもある、どちらでもない、と判定されることがあるんだ。この場合、逮捕するか釈放するかは担当者に一任されているんだが……」


 彼はそこまで言ってセナを見る。


「先ほどまでやっていた爆発を街中で起こさないと約束するのなら、私の判断で街への侵入を許可しよう」

「街中にモンスターなんていませんし、やるわけないでしょう」

「……それもそうだな。最低限の常識と倫理観はこのまま守っていてくれ」


 そしてセナは釈放された。

 もうちょっと性格に難があればそのまま逮捕され獄中生活まっしぐらだっただろう。

 ともあれ、セナは大手を振ってアルファディアを散策できるようになった。


「(えーと、どこに行けばいいのかな)」


 UIからマップを開いてセナはアルファディアの全容を確認する。

 マップには冒険者組合や教会などの重要施設の場所が記されているので、初めて訪れる街でも最低限何があるのか分かるようになっているのだ。


 セナはとりあえず冒険者組合に向かって、クエストの難易度を確認しようと考えた。


「(一番推奨レベルが低いクエストは20で、高いのだと30もあるんだ)」


 冒険者組合では幾つものクエストが張り出されている。

 中には手持ちのアイテムを納品するクエストもあり、偶然ではあるがセナのインベントリに入っているアイテムが対象のクエストがあった。

 それを確認したセナは受付に赴いて納品したい旨を伝える。


「アイテムの納品ですね。 冒険者証とフォレストドッグの毛皮五枚……確認しました」


 冒険者組合ではクエストの達成報告に冒険者証の提出を求められる。

 これはドッグタグと同じく二枚のプレートが連なっており、ネックレスのように首から提げるようになっている。


「セナさんはレベル20に到達していますが、ジョブには就かないのでしょうか?」

「ジョブってなんですか?」

「ジョブはジョブですが……ああ、来訪者の方々は知らないのですね。ジョブは教会で祈りを捧げることで就ける、一種の職業のようなものです。教会では神々に捧げ物も出来るので定期的に訪れることをお勧めしますよ」


 勧められたのでセナは教会に向かうことにした。

 ちなみに納品クエストの報酬は一二〇〇シルバーだ。シルバーはこのゲーム内での共通通貨であり、上位の通貨としてゴールドが存在する。


「聖ルミナストリア教会へようこそ。お祈りですか?」

「ジョブに就けるって聞いたので来ました。あと神様に捧げ物が出来るって」

「お祈りですね。こちらへどうぞ」


 好々爺とした神官に案内され、セナは教会に奥に足を踏み入れる。

 そこは広い円形状の広間で、中央には巨大で神秘的なクリスタルが台座に据えられていた。


「このクリスタルは神々を映し出す鏡であり、祈りを通して恩寵を賜る像でもあります。私は外に出ていますので、何かあればお呼びください」


 そう言って神官は広間の外に退出した。

 セナはとりあえずクリスタルに近づいてみた。


「(……これにお祈りすればいいのかな?)」


 そして手を組んで祈ってみると、彼女の前にシステムウィンドウが表示された。


《――ジョブに就くか、恩寵を賜るか、選択してください》

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